月下の復讐
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢った男と少年。村人のいなくなった村に何者かが現れる。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
外からのただならぬ気配に、フォレスも耳をそばだてた。盗賊に村を襲われてから、感覚が鋭くなったらしい。即座にランプの灯りを消した。
「またあの盗賊かな」
「かもしれない。忘れ物でもしたのか…?」
トワはひょうきんに言いながらも慎重に窓の横へ近づき、外の様子を窺った。月明かりの下、見覚えのある覆面の男達が遠くに見えた。
「あちゃー、昼の奴らか!」
トワは額を軽く手で打った。
「盗賊?」
「この村を襲ったのとは別のね。意外としつこいな」
トワを襲った盗賊達が、返り討ちに遭った仕返しに来たのか、はたまた偶然この村を見つけたのかは分からないが、村の焼け跡を歩き回っていた。
「何やら物色しているようだな」
「今外に出たらきっと危ないよね」
「ああ、殺されるな」
「隠れてやり過ごす?」
「できればそうしたいが…」
彼らがそうさせてくれないらしい。家の入り口からぞろぞろと盗賊二人が入ってきた。
男達はトワ達を見つけると、大きな剣を構えて近づいてきた。窓からの月光で刃が蒼白く煌めく。男達は、覆面の下で笑っているかのように目を細める。丸腰の怪我人と子供相手であれば、余裕と踏んだのだろう。
「殺るか」
低く残忍な声が響く。
男達が剣を振り上げる。
フォレスは目を強くつぶった。
ドサッという音と共に、床に振動が拡がる。フォレスは倒れたのが自分ではないことに気づき、目を開けた。
「えっ…!?」
盗賊二人が目をむいて床に倒れていた。出血は見られないが、死んでいる。
何故、という疑問に刈られる。
フォレスは、男達を見下ろすトワを見た。
「俺がやった。とっさのことでつい、な」
トワはサングラスをかけ直しながら、言った。フォレスは驚くばかりだ。
「な、なんで…どうやって?」
「俺のこの眼は見ただけで人を殺せるんだ。正確には、人の命…魂を奪うっていうのかな」
「魂を…奪う…」
若い容姿で相当な長生きというだけでも尋常ではないというのに、簡単に殺生ができてしまう能力まであるというのだ。フォレスは混乱しそうだった。
「もう隠れていても無駄だな。俺が外に出て奴らを倒すから、フォレスだけ隠れていてくれ。俺がいいと言うまで出るなよ。奴らは俺達が二人だってことを知らないからな」
「だめだよ。ケガしてるじゃないか。一緒に戦…」
「殺されるだけだ。不意打ちで俺は刺せても、奴らはそうはいかない。人間は案外簡単に死ぬ」
トワの強い口調に、フォレスは一瞬怯んだ。
「俺は死ねないし、この能力がある。さっきも見たろ?そう簡単にやられやしないさ。
ケガだって、食べてからだいぶマシになった。並みの人間よりゃ治りが早いんだ。
信じられないようなことばかり話して悪いが、ここでもひとつ、信じちゃくれないか?」
トワが微笑むと、フォレスはしっかりと目を見てうなずいた。
フォレスは食器棚の一番下にある、子供一人が入る大きさの扉を開け、中の保存食を外に放り出してから自らその中へ入った。
トワはその扉を閉めると、入り口の扉に隠れながら外を確認し、すばやく表へ出た。そして、サングラスを外す。
仲間が二人減ってざわめき始めていた盗賊達が、突如家の中から現れたトワの姿を捉えた。
瞬間、盗賊達の目から生気が消え、焦点の合わない目で宙を見つめながら崩れるように次々と倒れていった。
それでも、全員を倒せたわけではない。トワの立つ場所から少し離れた家の影から、盗賊の男が飛び出してきた。
お読み頂きありがとうございます。