トワが目指すもの
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
男は少年に出逢い、男の秘密を語りだす。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「トワはどうして危ない旅に出るの?」
先に口を開いたのはフォレスだった。トワは少し間を置いて、
「帰る所…故郷を探してる」
と、答えた。
「それって、つまり日本?」
「そうなるかな。世界が砂漠に覆われ始めた頃、俺は海外にいたんだが、争いに巻き込まれて日本に帰りたくても帰れなかったんだ。
それで、ようやく自由になって帰ろうとしたら、この砂の海だ。
いくら歩いても砂漠が続いて、国の境目すら分からない。
今いる場所が昔どの国だったのか、行く先々の土地の住人に聞いたり地形を調べたりしたが、大まかにしか分からない。
地図も古いし、もう日本どころか、国そのものも、無いのかもしれないな」
「それでも、探すんだ?」
「ああ。可能性が少しでも残っている内はな。今は、それが俺の生き甲斐だから。旅は性にも合っているんだ。
それに、長生きしてても意外と知らないことが、まだまだ世界には溢れているしな。
俺は何故自分だけ不死身なのか、いまだによく分からないんだ。それが分かるまでは、旅を続けるかもしれない」
フォレスは意外そうに目を見開いた。
「トワでも知らないことがあるんだなぁ。僕なんて全然だ。10年ぽっちしか生きてないんだもの。
だから、行ってみたいな。本でしか知らない世界をこの目で見てみたいよ。今まで一歩も村の外に出たことがないから。
ここクル村はね、僕のずっと生まれる前にいろんな所から追われた人達が集まってできた村なんだ。だから、村の人達はみんな村の外の世界を怖がってる。必要な時しか外には出ない。狩りや、水を汲みに遠くへ行かなくちゃいけない時だけ大勢で武器を持って行くんだ。
僕は、それでもどうしても外へ行ってみたくて、何度も出たいとお父さんやお母さんに言ったけど、外の世界は危ないからって怒られた。クル村で生まれた子供は、一生ここで暮すんだ、それがお前の幸せなんだって。僕にはそれがよく分からなくて、大人は勝手だと思ったよ。
…でも、結局村は襲われて、そう言ってくれる人達は…誰もいなくなっちゃった」
「君には弔いを手伝ってもらった借りがある。せっかく助かったのに、一人でここに置き去りにするような真似もするつもりはない。
ただ、ここの大人達の言う通り、砂漠は本当に危険だから、安全そうな村や町を見つけたら、俺とはお別れだ。そこで君は暮らすんだ。確かにどこも絶対に安全とはいえないが、何もない砂漠を行くよりマシだ。
俺ですら今まで何人分死んだか分からないくらい危ない目に遭ってる。砂嵐で生き埋めになったこともある。それでも不死身だから生きてこられた。
だが、君は俺とは違う。生身の人間だから、簡単に死ぬ。一貫の終わり。一回分しかない命なんだから、こんなことで無駄にするな」
「やだよ。そんなの、行ってみなきゃ分からないじゃないか」
「無謀な挑戦だ」
「そんなこと言わないで。外の世界に出ることは僕の夢でもあるんだ。
もっと世界を知りたい。いろんな人に会いたい。海だって見てみたい。やりたいことが詰まってる。それをやらないで生きて、それで生きてるって言える?村を襲った奴らを見つけて仕返しもしたいし…
それに、トワがなんで長生きなのか…僕も知りたい。何がなんでも生き延びて色々知りたいんだ」
フォレスの熱を帯びた言葉に、トワは一瞬口をつぐんだ。
「長年生きている俺でも分からないことが、君に分かるとは…」
そう言いかけた時、トワは黙って鋭い目つきで窓を見た。フォレスはただならぬ気配を察し、トワの目線を追う。
「村に誰か来た」
トワが人差し指を口に当てながら、静かな声で言った。
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