5千年の片鱗
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
男は少年に出逢い、男の秘密を語りだす。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「5千…年…!?」
そのあまりにも大きい数字に、フォレスは愕然とした。正気で言っているのだろうか。口は開きっぱなしだが、しばらく言葉が出なかった。
「…本当なの?」
やっとの思いでその言葉を口にした。トワは真剣な眼差しでフォレスを見つめた。
「本当さ。大まかな年数ではあるが、普通の人間より長生きなのは確かだ。これを見てもらおう」
トワはカバンの中から古びた手帳を取り出し開いて見せた。彼はその手帳をフォトブックとして使っているらしく、中には十数枚もの写真が貼られていた。
写真は白黒のものや、カラーのものが混ざり合っていた。子供、女性、老人、動物、草花、山、海、様々な街、廃墟…
色とりどりの瞬間が切り取られている。
洋館の前で撮られた集合写真もあった。白黒のその写真には、和服姿の人々が笑顔で写っていた。その中にトワの姿もあった。
トワは今と同じ黒い帽子と黒マントを身に付けていたが、下には着物を着ているようだった。端正な顔に、人々と同様の優しい笑みを浮かべている。日付は印字されていないが、とても古いものであることは分かる。
また、あるカラー写真には、左右対称の美しい雪山を背景にトワが一人写っていた。こちらには日付が印字されている。
「こっちの集合写真は確か明治時代に日本の京都という所で撮ったものだ。カラーの方は平成時代の日本。この山は富士山。日本一高い山。
出身国だからか、結構日本には長くいたんだ。海外にもよく行ったもんだがね。
明治は大体今から3100年くらい前で、平成はその100年後くらいだ。それより前の写真は存在してないから、俺が証明できる寿命はせいぜい3100年だな」
それぞれの写真を指差しながら、トワは説明した。フォレスは感心しながらそれを目で追う。
「それだけでも十分証拠になるよ」
「いや、この写真も確実な証拠にはならない。写真を見せても、顔がそっくりな祖先が写っているだけじゃないかと言われることがほとんどだ。
酷い時なんかは、写真を加工したんだろと疑われて変人扱いだ。昔、そうやってUFOの写真が作られ騒ぎになったことがあるから仕方のない話だが」
苦笑いを浮かべるトワに、フォレスは目を丸くした。
「UFOって何?」
「未確認飛行物体。地球外生物。宇宙人。空飛ぶ円盤?」
二人ともクスクス笑った。
「そっちの方が怪しいね。それに…確かに偽造とかも、ありえることだけど…僕にはこの写真が嘘だとは思えないよ」
「何故?」
「だって、トワは本当のことを言っているから。懐かしそうに話してた」
フォレスは屈託のない笑顔を見せた。今度はトワが目を丸くしたが、すぐに穏やかな笑みに変わった。
「…そうか。話してよかった。不安もあったが、君なら信じてくれると思っていた」
「何でも話してよ。何なら、今まで生きてきた5千年分話してくれていいんだよ」
トワは思わず吹き出す。
「おいおい、何日、いや何年かかるか分からないぞ?」
「いいよ。ずっと一緒にいるから」
トワは驚いてフォレスを凝視する。
「一緒に?俺と?」
「そうだよ」
「何故?」
「楽しいから。もっと話したいんだ」
「本気なのか?」
「もちろんだよ。まだ助けてもらった恩返しもろくにできてないし、せっかく逢ったのに、このまま別れるなんて嫌だ。ついて行ったらダメ?」
「危険な旅だ」
「砂漠はどこも危険だよ。旅をしなくても僕らは襲われた。僕にはもう行く所がないんだ」
フォレスは膝を抱えて俯いた。二人はしばらく無言だった。
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