水を巡る戦い
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
トワの表情が険しくなる。
「ゆっくりと、だが確実に世界は変わっていった。
度重なる大災害の後、海は干上がって縮小し、雨は降らず徐々に土地は痩せ、森林や川や湖は減っていった。いつしか地にヒビが入り作物は育たなくなっていった。
生き物の多くは住む場所を失い滅びた。広大な砂漠で僅かなオアシスを見つけた者達だけが生き残った。
人類も各地に点在するオアシスで小さな集落を作り生き延びたが、食糧や資源の奪い合いで争いは絶えなかった。
君らを襲った盗賊のような連中が他にも大勢いて、細々と生きる人々の集落を襲うからだ。
人類は次第に減っていった。
でも、それは仕方のないことなんだ。
自業自得だ。
人間は資源を貪りすぎた。
自分達の住みやすい環境を作っていったことで、その他の環境が壊れていっただけなんだ。
ウイルスや癌と同じだな。
生き物の体の中でどんどん拡がり侵食していくが、細胞が壊れていくからいずれ宿主が死に住めなくなる。
人間も長い間地球を侵食してきた。その結果、自分達の首を絞めることとなった。
温暖化、森林破壊、大気汚染…それも当然の成り行きだったんだ」
そこまで話すと、トワはふぅとため息をついた。
「先祖の行いのツケを、何の罪もない君らの世代が払うことになるのが残念だ」
フォレスも悲しげにため息をついたが、すぐに小さく笑みを見せた。
「本に書いてあるのは夢の世界なんかじゃなかったんだ…そんな風に変わってしまっていたなんて、知らなかった。海は知ってたけど、もう今はないんだね」
「あるかもしれないが、俺はここ数十年海を見ていない。風に流されたり、砂に埋もれたり、蒸発したり、あるいはオアシスのように突如現れたりしながら常に移動しているのかもしれない。
ただ、雨の降る豊かな地域や、塩を売る村もあるから、全く残っていないとは言えないのかもしれないな」
「そうか、じゃあ、まだどこかに…ん?」
そう言いかけて、フォレスは一瞬聞き流しそうになったトワの言葉を頭の中で巻き戻した。
「待って、トワ…今、聞き間違いかもしれないけど…海を見ていないのはここ数十年って言った?」
「ああ、言った。聞き間違いじゃない」
トワはけろっとした様子で答えた。心なしかにやけているようにも見える。
「あなたは…何歳なの?」
「さて、何歳かな?」
「えっと…20代半ば、か、後半に見えるけど。もっといってても30代?」
恐る恐る言うフォレスを見て、トワは悪戯っぽく笑う。
「やっぱり、それくらいに見えるんだな。これでも結構長生きなんだが」
「え、じゃあ一体何歳なの?」
トワは腕組みをして少し考えている様子だった。
「あまり正確に数えてはいないが、大体5千年…くらいになるんじゃないかと思う」
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