不確かな未来
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。二人は共に故郷を目指し旅に出る。ある時、二人は不思議な老女と出逢う。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「そんな…本当のこと知ってたのに、なんでバーバラさんに言わなかったの?」
フォレスは打ちひしがれた顔で聞いたが、トワは肩をすくめた。
「言って、どうにかなるもんでもないしなぁ」
「このままじゃ、バーバラさん、砂漠で独りぼっちで死んじゃうかもしれないんだよ」
思わず口調が強くなる。
「あの部屋で、あのたくさんの絵を見て、僕、思ったんだ。
あんなに高そうな絵をたくさん買うお金があるなら、絵の中の街ほど立派ではないにしても、人の住める村で腰をすえて、もっと良い暮らしができたはずでしょ。
そんな楽な道を選ばなかったのは、それだけバーバラさんがあの街に行きたいってことじゃないか。
もう街がないなら、これ以上の旅は無駄というか、無謀だよ」
「それは俺達にも言えることだ。日本が確実に残っている保証はない」
トワがキッパリと言った。
「この旅が無謀極まりないことは君も分かっているだろう?
だからといって、そう簡単に俺達は旅をやめるつもりはない。
なぜなら、日本を探すという目的以外にも、新たな出逢い、新たな世界を知るという、希望を持っているからだ。
彼女の場合、あの絵の街は無い。
恐らく彼女もずっと前から、心の奥底で気付いている。本人が見ようとしないだけでな。
だが、彼女も希望を持って生きている。
多分、俺と同じ旅好きだからかな。旅で新しいものに出逢うのが好きなのかもしれない。
人生経験が豊富だから、たとえ占いで自分の未来が見えなくても、困難を乗り越えていく自信もあるんだろう。
今のあの夢を見ながらの放浪の暮らしこそが彼女の生きがいであり、幸せなんだと、俺は思う。だからこそ、厳しい砂漠での生活を続けて来られたんじゃないかな。
今、街がないと暴露したら、彼女の今後は大きく変わる。強い人だから笑い飛ばして旅を続けるかもしれないし、ショックで旅をやめる可能性だってある。
それは彼女の自由を奪うことにならないだろうか。それこそ不幸じゃないか?俺達にその権利はあるだろうか?」
「いいや…ないよ」
フォレスはトワの話を聞きながら、深く考えた上で答えた。
「ごめんよ、トワ。僕、ただあの人が可哀想だと思って…でも、それは思い込みだったんだ。僕が哀しくなっただけなんだ」
「無理もないさ。バーバラさんは幸せかもしれないが、もしあれが自分ならと思うと、ぞっとする人もいるだろう」
フォレスは自分が歳を取った姿を想像してみた。
僕はどんな大人になるのだろう?
日本を見つけられるかな?
もし見つけたら、そこに住むのかな?
奥さんや子供はいるのかな?
もし日本が見つからなかったら、どうしよう?
バーバラさんみたいに旅を続けられるかな?
この厳しい砂漠の世界で、おじいさんになるまで生きられるかな?
もし、孤独になっても耐えることができるかな?
孤独?
いや、孤独ではない。
僕の隣にはトワがいる。
不死身のトワは、歳を取っても見た目が若いまま変わらない。
今は僕の方が若いけれど、いずれはトワの見た目の年齢を追い越して、僕の方が老けて見えるようになるだろう。
トワが不死身で有る限り、僕が先に死ぬことは明白だ。
僕が死んだら、孤独になるのはトワなのだ。
以前、人に先立たれるのは辛くないかと聞いた時、彼ははっきりとは答えなかった。辛くない訳がない。
今までだって、どれ程の孤独に耐えてきたことだろう。
「そうだね。トワ…」
「ん?」
「絶対に日本を見つけようね」
フォレスの眼は鋭く光っていた。
「ああ」
トワはそれを見て微笑み、共に夜の砂漠を進んだ。
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