絵画と老人
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。二人は共に故郷を目指し旅に出る。ある時、二人は不思議な老女と出逢う。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「何が見えますか」
トワが身を乗り出す。
「何だろうね…ひどくぼんやりしてるよ。変だねぇ。普通なら、もっと見えるもんだが」
バーバラは目を凝らして水晶玉を覗いた。
「これは…どこだろうね?砂漠なのかね?よく見えんわ。アンタらちゃんと本当のこと言ったのかい?」
「言いましたが」
トワが答える。バーバラは不機嫌そうだ。
「こんな不明瞭じゃ、こんな大金は受け取れんわ。せっかくだからもうひとつ、占ってあげるよ。今度はもっと身近な未来をね」
バーバラはそう言うと、また水晶玉に手を翳した。
「まだこの近くは盗賊が張っとる。夜になったら、あいつら岩壁から離れるからアンタら安全に先へ進めるよ。この洞窟には外へ出る抜け道があるから、そこを使いな」
「ありがとうございます」
トワもフォレスもバーバラに頭を下げた。
それから夜になるまで、バーバラは旅の中で出逢った人や様々な出来事を話した。
大抵は占いの話だったが、トワが紅茶を飲みながら興味深そうに聞くので、老人は嬉しそうだ。次々と話が出てくる。長く旅をしているとはいえ、この広い砂漠では、なかなか人に逢うことがないのだろう。
しかし、時を告げる置き時計の、ボーン、という音が、老人の話に終止符を打った。
「もうこんな時間か。すっかり夜だね」
バーバラは少し寂しげだ。
「お話しできてよかった。大変お世話になりました」
トワは席を立ち、深々と頭を下げて挨拶した。
「バーバラ様の夢の都が早く見つかりますように」
「アンタらも日本に行けるといいね。気をつけなよ」
フォレスも挨拶したが、突然バーバラに老人とは思えない程の力強さで抱き締められ、面食らってしまった。もう逢えないと思ったのかもしれない。
バーバラと別れた後、フォレスとトワはラクダ達を連れ、バーバラに教わった秘密の抜け道を進んだ。
巨大な岩をくり貫いたかのような抜け道をしばらく進んでいくと、彼女の言った通り外に出た。そこは、トワ達の行く手を阻んだ岩壁の裏側だった。空には星が煌めいている。
「野盗はいないようだ。良かったな、フォレス。出歩けるぞ」
トワが周囲を見渡しながら言う。二人はそれぞれラクダに股がり、砂漠を進み始めた。
「ねぇ、トワ」
前を見つめながらフォレスが静かに口を開いた。
「なんだ?フォレス」
「バーバラさんが探してる絵の街って、あると思う?」
「あそこまで豊かな街はもうないだろうな」
「え?」
フォレスは呆然とした。
「都市化が進む中で、自然と共存しようとする動きもあってな。
まぁ、そうでもしないと自然がほとんどなくなるような状態だったんだが。
結局、砂漠化の方が早かったから、あの景観を維持できなくなったんだ。今は廃墟だろうな」
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