老人の夢
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。二人は共に故郷を目指し旅に出る。ある時、二人は不思議な老女と出逢う。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「ここが私の家さ」
バーバラがニヤリと笑みを浮かべて言った。
部屋の中には、木のテーブルや安楽椅子、簡易ベッドなどの家具が置かれている。テーブルの上や地面に敷かれた豪奢な絨毯には、占いの道具らしき水晶玉やカードが散らかっている。
しかし、雑然とした部屋の中で一際目を引くのは、テントの壁じゅうに所狭しと飾られた絵画だ。
道路沿いの街路樹、マンションのベランダから吊るされた鉢植え、観葉植物が設置されたビルの壁や屋上、空中庭園などなど…
みな違うタッチで描かれているが、全ての絵にも共通して、緑豊かな街の風景があった。フォレスにとっては見たことのない光景が額の中には詰まっていた。
「うわあ、凄い数だね」
「ああ、なかなかのコレクションだ」
トワとフォレスは、バーバラが用意した折り畳み式の椅子に腰掛け、出された紅茶を飲みながら絵を見回した。
「どれも綺麗ですね。なんでみんな街の絵なんですか?」
フォレスは絵の美しさに見とれながら聞いた。
「そりゃ、夢だからよ」
「夢?」
「そうさ。ここにある絵は、ぜーんぶ私の夢なんだ。
今は砂漠を転々としているけどね、いつかこの絵の中の街で楽しく遊んで暮らすのさ。
行く先々で旅の商人から、いろんな街の絵を買い取って飾るたび、それが楽しみになってねぇ。
貧しい暮らしをしてても、絵を眺めてたら頑張ろうって思えるのさ」
バーバラは幸せそうに紅茶を啜りながら語った。
フォレスはその様子を見て、何故か哀しくなった。
「素敵な夢ですね。よくこれだけの絵を集められましたね」
トワがにこやかに言った。まるで営業活動のような笑みだ。
「若い頃に占いで随分稼いだからね。金はあるのさ」
「しかし、これだけの数を運ぶのは、大変じゃありませんか?」
「ロバと荷車があるから何てことないさ。ロバにとっちゃしんどいだろうがね。それに、歳を取ってからはあまりすぐ移動せずに、一つの所に最低でもひと月は住むようにしてるのさ」
そういえば、とフォレスはラクダを繋いだ馬小屋を思い出した。ロバはそこにいるのだろう。
「砂漠の旅は厳しいですからね。女性一人では苦労も多いでしょう」
「なぁに、長いことやってるんだ。そんなにヤワじゃないよ」
「達者な方だ。私共も見倣わなければなりませんね」
「何言ってんだい、丈夫そうな体して」
老人は皮肉っぽく言って笑った。
「そういえば、アンタらはなんで旅してるんだい?」
「旅が性に合ってるんです。同じ場所にずっと留まるってことができないもので」
トワは旅の本当の目的を話さなかった。フォレスは静かに二人の話を聞いた。
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