裂け目の家
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。襲い来る盗賊達を倒した二人は共に故郷を目指し旅に出る。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
明け方の砂漠を、トワとフォレスはラクダに跨がり、東に向かって進んでいた。
フォレスは眠そうにトワに話し掛けた。
「ねぇ、トワ。日の出が見えるよ。そろそろ休もう」
「もう少し進もう。まださほど気温が上がっていないからな。進める間は進んだ方がいい」
トワがそう言うと、フォレスは堪えていた欠伸をして頷いた。
夜通し慣れないラクダで移動することは、10歳のフォレスには相当な疲労であるから、仕方がない。
「なぁ、フォレス」
歩きながら、トワがふいにフォレスに声を掛けた。
「なぁに」
「君に頼みたいことがある。
この先、どんな場合でも、俺が不死身であることは他人に話さないで欲しい。知られると色々面倒でな」
「いいよ。それなら、日本生まれってことも内緒にした方がいいね。日本が砂に埋もれたのは結構前だからさ」
「機転が利いて助かる。ありがとな」
しばらく進むと、砂の山々の向こうに崖のように切り立った岩山が現れた。土を固めたかのような岩肌は横に長く伸び、近付くほどに高くそびえて巨大な壁のようだった。
「うわあ!凄く高いね」
「ああ。こんなにバカデカイと登れやしない。時間はかかるが、回り道するか」
トワは岩壁の左右を交互に見て、
「よし、あっちの方が近そうだ。行こう」
と、壁の右側の端を指差してフォレスに言った。
その時、
「待ちな。そこのアンタ方」
しゃがれた老人の声がした。
二人が振り向くと、そこには紺色のローブを纏った老女が杖をついて立っている。
「あなたは…?」
「私の名はバーバラ・アイ。通りすがりの老いぼれさね」
彼女は被っているフードの下で、口元に大きな皺を作り、微笑んだ。
「アンタ方はここらじゃ見ない顔だね。旅人かい?」
「はい。トワと申します。こっちのフォレスと旅をしております。あなたはここにお住まいで?」
「そうだ。でも、長く居やしないよ。この辺りは野盗だらけだからね。さっき、あの角を曲がったら、アンタら崖の上から銃で撃たれとったよ」
「えっ」
フォレスは青ざめる。トワがマントの懐から双眼鏡を出して右側の崖の上を見ると、人の頭が見え隠れしていた。
「本当のようだ。命拾いしたな」
「えええっ」
フォレスはますます青くなる。老人はフェッフェッと笑って背を向けた。
「付いて来な。しばらく隠れた方がいいよ」
「トワ、どうする?」
不安げに聞くフォレスを安心させるように、トワは優しく頷いた。
「…とりあえず付いて行ってみよう。大丈夫。何かあってもお前だけは必ず助ける」
二人はバーバラ老人の後に続いて、岩壁を左へ進んだ。
壁に沿って歩く内に、岩壁に縦に伸びる大きな裂け目が現れた。大きいと言っても、遠くから見れば単なる岩の凹凸の影に見えるだろう。それほど見えにくい裂け目だった。
裂け目から差し込む外の光は、中の洞窟のような空間を照らし出した。トワは、よくここを見つけたものだと感心した。
そこには、モンゴルの先住民が使いそうなテントが立っていた。その横には、馬小屋がある。バーバラは二人にラクダを馬小屋の柱へ繋がせ、テント内へ招いた。
中に入ると、フォレスは目を丸くし部屋の中を見回した。
久しぶりになってしまいました。
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