目覚め
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。襲い来る盗賊達を倒した二人は共に故郷を目指し旅に出る。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
日はすっかり落ちたが、昼間の熱気はまだ砂漠に立ち込めている。
次第に闇が深くなる中を、二人は進んだ。
「村の人達って、どのくらいいたの?」
「あまりよく覚えていないが、50人はいたと思うぞ」
「クル村より多いね」
「彼らはみな自然の神を信仰していた。あまりに狂信的に。俺はそれが嫌で、成人した後、村を出た。その頃だ、目の能力に目覚めたのは」
フォレスは突然の告白に、飛び上がった。
「えっ、自然に目覚めたの?」
「ああ。驚くよな。どうしてなのか俺にも分からん。不死身の身体になったのも、その頃からだ」
「自分が不死身だって、どうやって分かったの?」
フォレスは恐る恐る聞いた。トワは淡々と話し出した。
「俺が村を出たことで、怒った村の奴らが追って来て、殺されそうになった。いや、殺された。でも、何故か死ななかったんだ。
それどころか、相手の方が死んじまった。目が合っただけなのに、あっさりとな。恐ろしかったが、必死で逃げた」
フォレスは息を飲んだ。
「そんな……殺されそうになったなんて…それに、殺すつもりはなかったのに…死んじゃうなんて……あんまりだよ」
「神を信じなかった罰かな」
トワは自嘲気味に言った。フォレスが首を振る。
「そんなことない。トワは何にも悪くないよ」
「はは、冗談だよ。神なんていない。もしいたらぶん殴ってやるよ」
トワは軽く笑って言った。
「でもな、悪いことばかりでもないんだ。村中の人間が俺の敵だったが、親友のスヒコは違った。
スヒコは、俺と同じで神への信仰心はなかったが、バカな俺と違って冷静でな。すぐには村を出ていかなかった。
あいつは、俺が逃げたことで監禁された両親を心配して、密かに逃げる手引きをしてくれたんだ」
「勇気のある人だね。とても危険なことなのに」
「ああ。今でもあの時の恩は忘れない。
何年か後、遠く別の村で再会できたよ。スヒコにも両親にもひどく怒られたが、俺が生きていたことを泣いて喜んでくれた」
「よかった。三人とも無事で……あれ?」
フォレスは聞いている内に、自分が涙ぐんでいることに気づいた。
トワはそれを見て微笑んだ。
「こんな赤の他人の家族の為に、フォレスは泣いてくれるんだな」
フォレスは顔を袖で拭いながら笑った。
「へへっ、友達なんだから当たり前だよ」
フォレスの言葉に、トワは感慨深く頷く。
「友達か…そうだな」
「あ、でも…その時は無事でも、その人達は今はもう生きていないんだよね…何千年も前の時代の人達だもんね。なんだか変な感じだな」
「確かに、未来の人間が過去の人間の心配するのは、少し変わってるな」
トワは面白そうに言った。
「でも、ま、ありがとな、フォレス」
「こっちこそ、辛い話だろうに、話してくれてありがとう」
「なに、大したことじゃない。三人とも処罰されることなく幸せに天寿を全うできたんだ。その点では、ハッピーエンドな話さ」
「でもさ、やっぱり親しい人に先立たれるのは、辛いでしょう?僕の親みたいに殺されたわけじゃなくてもさ…独りだけ生き続けるって…辛そうだよ」
「そうでもないぞ?長く生きてりゃ良いことだってある」
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