普通の人間
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。襲い来る盗賊達を倒した二人は共に故郷を目指し旅に出る。
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
「緑豊かな自然もそうだけど、トワの子供の頃も全然想像つかないなぁ」
フォレスが眉間にシワを寄せてトワを凝視した。トワはきょとんとしている。
「そうか?大して今と変わらないけどな」
「サングラス掛けてたら顔がよく分からないよ」
「はは、それもそうだな」
「ねぇ、トワはどんな子供だったの?」
フォレスの問いに、トワは難しそうに考え込んだ。
「何処にでもいる普通の子供だったぞ?よく年頃の近い奴と外で遊んだな。
狩りの真似事が好きで、獲物のイノシシ役より狩人役の方が人気だったから、よく仲間内で取り合いになった。
中でもスヒコって奴とは、よく喧嘩したな。でも、気の合う幼馴染みでな。すぐ仲直りしてよくバカやったもんだ。
二人で登るなと言われた大木や櫓に登ったり、地面に落とし穴を作ったりして、よく大人達を困らせてた。
その代わり、厳しい父や心配性の母に随分と叱られたけどな」
「相当やんちゃだったんだね。意外だな」
「そういうフォレスも意外だぞ?この日差しの強い砂漠で暮らしているのに、そこまで肌が白いのは珍しい。
初めて会った時から、他の村人や子供とは違うと思っていたんだ」
トワは日に焼けた自分の頬を指さして言った。フォレスの方が明らかに色白だった。
「それは仕方ないよ。お父さんもお母さんも白人だもの」
「白人が色白なのは、知っているが、それは大昔の話だ。
いくら白人でも、生まれた時から砂漠に住んでりゃ、かなり焼けるんじゃないか?貴族でもない限りは」
「そう思うでしょ?でも、違うんだよ。
肌が焼けにくい代わりに、赤くただれたり、水ぶくれになったりするから、大変さ。いつもちゃんと日除けしないとね。
今より砂漠がもうちょっと少なかった頃、僕らのご先祖様は都会に住んでいたらしくて、全然日焼けしなかったんだって。多分、その遺伝が強いんだよ」
「なるほど。クル村に住むようになってからも肌が白いのは、日焼けしにくい遺伝が残っているからだと」
「うん。でも、砂漠がこの先もずっと続くなら、いずれ僕の子孫も肌が黒くなっちゃうかもね。いや、その方がいいな」
フォレスは自分の頬を指で摘まんだ。
「その方がいいのか?」
「うん。白いのは、良いことないんだ。
日焼けだけじゃなくて、時々いじめられたよ。一部の子達にだけどね。
肌が白いから気持ち悪いってさ。アイツは吸血鬼の仲間だとかも言われたよ」
「酷い奴らだな。フォレスはどうした?」
「僕も、僕の親も普通の人間だ、って言った。それしか言えなかったよ」
フォレスは叱られた犬のように、しょんぼりとした。
「これもツケなのかな?大昔は、白人が色黒の人を差別していたからさ」
弱々しく言うフォレスに、トワはキッパリと言った。
「それは関係ない。人間はいつだって、大体が少数派を虐げるようにできているんだよ。たまたま今の時代の少数派がお前達だっただけだ。
だからといって、お前達が悪い訳じゃない。お前はいじめてきたそいつらに嫌なことをしたか?悪口を言われたからといって、相手を蔑んだり、殴ったりしたか?」
トワに聞かれ、フォレスは首を振った。
「ほら見ろ。お前は何も悪いことをしていない。お前はむやみに人を傷付けるような奴じゃない。まともな人間だよ。
まともじゃないのは、多数派が常に正しいと思ってる、この世の中だ」
トワの言葉を聞き、フォレスはニッコリと笑顔を見せた。
「ありがとう、トワ」
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