お母さん、カムバック
俺は何故か玄関で立ち往生を余儀なくされている。生徒会も試験休みに入り、学校から真っ直ぐ帰宅した俺を待っていたのはいつになく真剣な表情をした親父だった。
親父はと言うと、俺に此処で待つように厳命してからリビングに引っ込んでいる。この家は俺と親父の二人暮らしだった筈なのに、なんだか男声とは異なる高い声が聞こえてくる。
とてもプレモニションな予感に突き動かされて、図書館にでも行こうかと逃避的な思考に陥りそうになった頃、親父が戻ってきた。
「羽衣。お前は嫁の母親を世間では何と言うか、知ってるか?」
そう厳かに問いかけてくる親父の背中には明らかに誰かが居た。隠しているつもりなんだろうけど、両足の間から別の足が覗いている。
「血の繋がっていない他人です。出来ればあんたともそうだったら良かったと心から思う」
「嫁の母親は、世間一般におかあさんと言う」
「一万歩譲って継母ですね」
「そう、ママまたは母だ。良く解っているじゃないか、ウイ」
俺の嫌味は役割を果たせずに空気に溶けていく。親父も素で言っている訳がない。
無駄な足掻きをするよりも、先ずは話を聞くことに専念して正論を突き付けたほうが良さそうだと思い、俺は口を噤んだ。
「ウイに紹介したい人が居る」
「再婚なら認めるつもりは無いからな」
「知っている。だから、お前に紹介したいのは再婚相手じゃない」
そう告げて、親父は身体をずらす。そこに現れた人物を見て、俺は開いた口が塞がらなかった。
「おい、お父様この野郎」
この見目麗しい少女は俺と同じくらいの歳と推察する。俺は去年で16歳になっている。
それはつまり、女性なら法的にも結婚が認められる年齢に達しているという事だ。
「お前が生粋の女好きとは言え、息子に近い歳の相手に手を出すなんて、どんな神経してるんだ……」
「待て息子馬鹿野郎。流石にこのくらいの歳の子を嫁にしようとは思わない。捕まる。だから、この子は俺の再婚相手(予定)じゃない」
「じゃあなんだって言うんですか、ド腐れロリペドお父様」
睨みつける。下手な言い訳を聞くつもりはない。再婚なら例え相手がどんなにまともでも断固阻止する所存だった。
しかし、親父の口から出てきた言葉は、そんな俺の決心を嘲笑うかのように浚っていく。
「俺の嫁ではない。彼女は、お前の嫁だ」
前略、お母様。いま、親父をそちらに送ります。