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ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね

作者: 白河夜船

あたしが覚えていることなんてなにかあったかしら。

過ぎ去ったことはすべて過ぎ去ったこととして、今なにもここにはない。

ときどき誰かから投げられた言葉が小さな石ころのように、池に落ちて波紋をひろげ、いつかの風景を浮かび上がらせるのだ。


母の作ったトンカツにかけられた真っ赤なケチャップ。高校生のときあたしを殴った彼。その学ランの金ボタンの上から2番目が取れかけだったこと。一週間前、線路脇で見かけたオオバコや、一年と数ヶ月前のピンクのあめ玉のあじ。

それらは波紋のなかに揺れて浮かび、形がはっきりしないうちに消えてなくなるのだ。

あたしが覚えていることなんてなにかあったかしら。



「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」と君は言った。


ほんとうにそうね。

なんだって忘れてしまう。

今この目の前に見えているもの以外すべて見えていないもの。

もうなんだって忘れてしまって、今しゃべっているこれ、この言葉、そのものでさえも、もう片端から忘れてしまってもうあたしのものじゃない。生きることのすべてが夢の世界のことみたい。ああこれも誰かの言葉なのだっけ?


あ。ひとつだけ忘れずに、どこにも行かずにずっとあたしのなかでぐるぐるまわっているものがあったそれは「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」と君が言ったその言葉。その君の声も顔も、もう忘れてしまったのに。

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