第一章~平行世界との出会い~No,1
※
――あぁ、これで一体何度目だ、この光景は……。
灼ける野原、燃え上がる木々、倒れる家。ここがどこなのかはわからない。でも、深い記憶の奥底を刺激する、とても懐かしく思える村。
その村……いや、その世界事態が今、終わりを迎えようとしている。
荒れた空に開いた巨大でどこまでも漆黒の穴。この世の全てがそこに吸い込まれていくようだ。
とても小さくて、まだ二歳にも満たなそうなこの中の俺は、何も出来ずに――いや、何が起きているのかすら分からないまま、女性――顔は見えないが髪が長いためおそらく女性だろう――におぶられ、女性は何かから逃げるように懸命に走り続けている。
音は聞こえず、女性が炎の近くを走っても熱さえ感じない。ただ、見える景色は残酷なまでに鮮明だ。
しばらくすると、一人の男性がこっちに向かって走ってくる。しかし、この男性の顔だけが不自然な影に遮られ輪郭程度しからわからない。
だが、やけにごつく筋肉質な身体と、簡素な麻糸で仕立てられた服しか着ていないことから、この村で農業でもしているただの人なのは明白だった。
やがて女性は必死で走る足を止め、俺を背中から降ろした。男性が女性の元にたどり着くと、男性は土下座でもするような体制で涙を流しながら俺に向かって必死に言葉を投げかけているが、何を言っているかは当然わかるはずがない。
ただ一言だけ、俺の左頬に手を添えながら発せられた、男性の最後の言葉だけは、いつも決まって頭に響く。
その言葉には、俺に対しての悲しさや寂しさ、この状況に対しての怒りや絶望など、全ての負の感情が込められていたように聞こえた。
「ごめんな、ヒカル……」
その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は途絶え、現実に引き戻される。
※
自室で目を覚ました松島光琉は、上体を起こし、半ば無意識的に右頬を触った。頬にはいつの間にか涙が流れていて、その感触が手に伝わった瞬間、それを乱暴に拭った。
「また、あの夢か……」
そう呟くと、光琉は周りを一瞥した。
何の変哲もない簡素な部屋だ。約8畳の大きめな部屋の床には灰色無地のカーペットが敷いてあり、中央のテーブルには読みかけの漫画がそのままにされている。ベッドの反対側に当たる壁の右角には勉強机があり、ノートパソコンが開いたままの状態で置いてある。その横には半分以上空きがある本棚。そして、左端には扉がある。テレビの類はこの部屋にはない。
「あんな村、見たことも聞いたこともねぇんだけどなぁ……」
誰が聞いているわけでもない文句を口にしながら立ち上がると、寝巻きであるジャージ姿のまま部屋を出てリビングへと移動した。――ここにも、生活に必要な最低限度のもの以外は何もない。
キッチンで食パンをトースターに入れ、焼きあがるのを待ちながら、リビングの窓からベランダに出て、夜間干してあった洗濯物を取りこんだ後、何気なく街を見下ろした。
そこにあるのは、いつもと変わらない、何の変哲もない都会の姿だ。
ここは、この辺りの住宅街では最大規模の全十七階建てマンションの十三階なので、街はよく見渡せる。
住宅街なので、近くを見下ろせば一軒家や団地などがずらりと並んでいて、遠くを見渡せばこのマンションの高さを遥かに凌ぐビル群が屹立している。道路に木々が並んでいたり、公園にちょっとした草むらはあれど、あの夢のような草原や森はどこにも存在しない。そんなことは当たり前だ。ここは、西暦2015年日本の神奈川県川崎市だ。郊外ではあるが、決して田舎とは言えないぐらいには発展している。
そのはずなのだが、毎度あの夢を見る度にこみ上げてくる懐かしさは、どこから来ているのか、わからないままだった。