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整形美人<6>

「へ?」

俺は非常に間の抜けた問いを返したと思う。

「だから、神楽くんが付き合ってくれるって云ってくれたんだ!」

「付き合うって…」

俺は呆然としてしまった。松平はもちろん、神楽くんだって男が良い訳では無い。

松平は確かにいい男だし、男として魅力的ではあるとは思う。だが、それは同性を落せるような類のものではなかった。

神楽くんだって、いくら熱心に口説かれても、絆されて承知するようなタイプでは、決して無い。

俺は、別種の心配が頭をもたげてくるのを感じていた。


松平の家は、親は平凡なサラリーマンだが、一応松平家の末裔にあたり、一年に一度くらいはきちんと本家で、親族の集まりがあるような家だ。

妙なやからに目を付けられないとは限らない。

それをどこまで承知しているのか?

俺の頭には、神楽くんの不気味な笑みが浮かんでいた。


「やぁ、神楽くん」

にっこりと笑った松平に、神楽くんはうろんな視線を投げる。

当然だが、何故俺がいるのかと問いたげな視線だ。

「お目付け役付ですか?」

「まぁな。コイツはこれでも箱入りなんだ。勘弁しろ」

純粋な松平の不安を煽るのは、簡単だった。松平の口から付いてきてくれと云わせればいい。

「俺のことは気にしなくてもいいから、勝手にやってくれ」

「そうですか。それじゃ、遠慮なく」

神楽くんは綺麗な顔に、不穏な笑みを浮かべて、松平の腕を取って歩き出した。

でれっと松平の秀麗な顔がやに下がる。

俺はとぼとぼと、その後ろを付いて歩くだけだ。


男同士だという事を覗けば、いや、男同士であってもお似合いといわざるを得ない二人だ。

神楽くんの顔は、華やかな花の咲いたような中性的な美貌だし、松平も男臭くないタイプの男前で、鑑賞材料としては申し分ない。周囲からの視線を集めまくりだ。落ち着かない事この上も無い。

もっとも、松平はそんなことに頓着をするようなタイプではなかった。

好みの骨格をまじかに鑑賞する機会を与えられて、うっとりと眺める目は、どう見てもいっちまっている。

「骨格フェチの変態め」

俺の口から漏れた本音を、神楽くんが耳ざとく聞きつけた。

「それは同意ですね。この人、俺の何処がいいんでしょうか?」

「だから、骨格だろう?」

それ以外に、松平が情熱を注ぐものは無い。

「第一、そう思うんなら、何で松平と付き合う事にしたんだ?」

俺の疑問に、神楽くんは何を考えているのか判らない笑みを浮かべた。

「面白そうでしたから。それにこれだけ口説かれたら、一度くらいは付き合ってみてもいいでしょう。ひと月ほどのお試しです」

言葉も今時の若者らしくないくらいに丁寧で、俺には縁の無い、気品という奴が漂っている。これが松平と並ぶとしっくりとくるのだ。

「お試しねぇ…」

そんなのでいいのかと松平の方を見ると、松平はうっとりとお気に入りの鎖骨を眺めている。

駄目だ、これは。と俺は肩を竦めた。

とりあえず、暇潰し程度なら、口を出すことも無い。

俺はさっと立ち上がった。とりあえず、お邪魔虫は退散するとしよう。

「あれ、いいんですか? 大事な殿を俺に預けて」

「ああ。勝手にしろ」

とりあえず、松平の名前を利用しようとしているのでなければ、どうでもいい。

恋愛沙汰ならば、ちょっとくらいは痛い目を見たほうが、この男にはいい薬だ。

少しは成長してもらわないと。

「へぇ。貴方はこの人が好きなんだと思っていましたが」

「は?」

俺と松平の二人が異口同音に聞き返した。

「まさか!」

「キモイことを抜かすな!」

俺と松平が声を上げると、神楽くんはきょとんとした表情でこっちを見上げる。これは、半ば本気でそう思ってたな。

確かにココ数年ずっとつるんでいる所為もあって、そういう冗談のネタにされることは一度ならずあるが、俺も松平もそっちの方はまったくのノーマル嗜好で、相手をそういう対象として考えたことなど、まったく無い。

「もう少し若ければ、君なら考えたけどな。このデカイ男になんぞ、勃つか!」

「神楽くんは、俺がそんな男だと考えていたのか?」

本気で嫌な顔をする俺と、疑われたことが心外だと掻き口説く松平に、神楽くんの綺麗な顔が、ますますきょとんとなった。

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