表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/22

整形美人<3>

帰宅途中の神楽くんを捕まえると、案の丈、非常に嫌そうな顔をされる。まぁ、当たり前だ。

「すまなかった!」

頭を下げた松平にも一瞥を投げただけである。

迷惑だと顔にはっきりと書いてあった。

頭を下げたままの松平を放っておいて、俺は神楽くんに向き合う。

「申し訳ないが、この男の話を聞いてやってくれないか?」

「聞くだけでよろしいんですか?」

警戒もあらわに神楽くんがじろりと俺を見た。気持ちは判るが俺は今回に関してはまったくの中立だ。人様の恋愛に口を出すほど空しいものは無い。

「もちろんだ。どんな答えを返そうが、それは君の自由だ」

「は?」

しまった、俺は松平の用事が何か知っているからそんな答えになったのだが、当然神楽くんには理解不可能だったらしい。

いよいよもってどんな話だと、いぶかしげに眉をひそめられてしまった。唇がきゅっと引き結ばれる。

その表情を見て、俺は言葉の選び方を間違えたことを自覚した。すまん、松平!

「ほら、松平。話をしろよ」

これ以上、ここには居たたまれなくて、俺は未だに頭を下げたままの松平の肩を叩いた。

「しかし、まだ許してもらっていない」

松平がかたくなに頭を上げないのを見て、神楽くんが大きくため息を吐く。

「一体、何に謝ってますか?」

そう云った神楽くんの声は冷たく、顔は明らかに怒りの様相を示している。拳を軽く腰に当てたままの立ち姿は、まさに仁王立ちと云う奴で、それは何処か時代劇の若武者を思わせた。

つり上がり気味の大き目の瞳が松平を睨みつけている。その顔は確かに綺麗なんだが、何処か違和感があった。その和風の顔立ちを妙に華やかにしているくっきりと引かれた二重まぶた。それが違和感の原因だと気付く。

「君の目を整形だと云ったことだ! ホントにすまなかった!」

あ、それか。違和感。云われてみて納得した。

「それの何が悪いか判ってますか?」

「あ、え…、その。でも怒っているんだろう?」

「俺が怒ってるから、謝っている訳ですね?」

あちゃー、やっちまったよ、松平。俺は隣で、思わず片手で顔を覆った。

「貴方は何故、俺が整形だと思ったんですか?」

「思ったんじゃない! 判ったんだ!」

松平が、音のするくらい勢い良く顔を上げる。

「骨格と明らかに合っていない、不自然な瞳。君はもっと純和風の美しい顔立ちの筈だ!」

スイッチの入った松平は何処かイッた瞳で、神楽くんの両腕をがしっと掴んだ。神楽くんは呑まれたように松平を見ている。

「この美しい骨格。今時の若者のような、似非西洋人体型とは違う、本当の日本人の体型なのに、頭身が高くて、しかもがっしりとしていて。それにそってキチンと付いた筋肉も素晴らしい!」

松平が骨格をなぞるように、神楽くんの腕をさすり、頬ずりしようとした瞬間。

不穏な気配に、俺は松平の首根っこを掴んで引きずり倒した。

見上げると、神楽くんの膝が宙を蹴り上げている。

「中々に過激だね、君も」

「変態に良いようにされる趣味はありませんから」

明らかに舌打ちをした神楽くんの顔は、怜悧な美貌とでも云うのか、確かに松平の気持ちも判らんでもない。

「待ってくれ!」

くるりと踵をかえした神楽くんに、松平が咳き込みながら呼びかける。

「それで、許してもらえるのだろうか?」

妙に自信の無さげな松平の声に、ちらりと神楽くんが視線を投げた。

「何を、ですか?」

「君のせい…」

「ストップ!」

松平の言葉の奔流を、神楽くんはひとことで封じる。

まぁ、ホントに整形しているなら、こんなところで整形整形と連呼されたくは無いよな。

「二度と、その言葉を云わないでください。そうすれば許して上げます」

「ああ、ありがとう!」

松平は単純に喜んでいるが、それでいいのか? お前、その先の話はどうするんだよ?

俺としては、後顧の憂いを失くす為にも、きっぱりと振られて欲しいんだが。

だが、綺麗な歩みで立ち去る神楽くんを、見惚れるような顔で松平が見送っているのを見ると、これは何を云っても無理だと判断した。

「真田! ありがとう、お前のお陰だ!」

「いや、俺は何も」

神楽くんの姿が見えなくなった途端、松平が勢い良く振り返り、俺に抱きついてくる。

「お前が話を聞いてくれるように、神楽くんにお願いしてくれなければ、きっと彼は話も聞いてくれなった」

この男は骨格フェチのど変態だが、馬鹿では無かった。そのくらいは判る程度には聡いのだ。

「神楽くんが謝罪を受け入れてくれた祝杯だ! 奢らせてくれ!」

いや、それは半歩下がっていたのが、スタートラインに立っただけなんじゃ?

「呑もうぜ、真田!」

肩を叩いて促されると、松平の歩調はスキップせんばかりに、上機嫌なのが判る。さすがに、これに水を注す気にはなれず、俺は渋々と口をつぐんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ