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整形美人<13>

「あれ、松平は?」

シャワーを浴びて出てくると、神楽くんが出掛けようとしているところだった。

「もう出掛けてるみたいですけど?」

「おいおい」

それは不味いだろう。

「待て。神楽くん、送っていくから」

俺は急いで着替えて、出て行こうとする神楽くんの後を追った。

「昨日、カッコよかったですよ」

並んで歩く神楽くんが、クスリと笑う。

「云わないでくれ」

「何故ですか? あれで松平さんが引いたってことは、俺のことなんか所詮はその程度ってことでしょう?」

「違う!」

俺は松平を良く知っていた。そんな男じゃない。

「落ち込んでるんだよ。松平は。そんな風に思わないでくれ」

自分のことしか考えていなかったことに気付いて、すごく落ち込んでいるんだ。

「やっぱり、真田さんって松平さんのこと好きなんじゃないですか?」

「嫌いで十数年もつるんでる訳がないだろう」

好きの種類は違うけどな。神楽くんが誤解をしているのは承知の上の返答だ。

「だったら、俺にもチャンスありますか?」

「チャンス?って、何の?」

「俺、真田さんが好きです」

「ああ。そう?」

何となく、云われるかとは思っていたから、驚きは無い。

大人になれば、察しぐらいは付くもんだ。

「本気ですから」

睨みつけるように俺を見るのは、軽くいなされたと思っているからだろう。

さて、この後に松平に何て云おうか。


コンビニに着いたのをいいことに、俺は返事もせずにさっさと逃げ出した。

面倒ごとはご免こうむる。

研究室に行くと、松平と珍しく教授が揃っていた。

いつもなら、柔らかい表情を浮かべている筈の松平の仏頂面に、研究室に陰鬱な空気が漂っていた。

「真田くん」

長い白髪をオールバックにした宗像教授は、明らかにほっとした顔をして、助けを求めるように俺を見る。

「おはようございます、教授」

俺はなるべく明るく挨拶をして、昨日までに目を通した学生連中の論文の内容についての話に入った。

食事を取りながらになるが、それを気にするような教授では無い。

それに、ぽつぽつではあるが、松平が自分の意見を述べる。仕事には真面目な奴なのだ。

いくらか、空気も軽くなったところで、教授が腰を上げた。

どうやら、立ち去るにも気が引けていたらしい。

教授が部屋に篭もると、俺と松平の二人だけになる。気まずいことこの上なかった。

「松平、お前に話さなきゃいけないことが…」

黙ったままではいられない。多分、今朝の神楽くんの様子では、このまま、知らんフリを決め込ませてはくれなさそうだ。

「神楽くんに告白でもされたか?」

自嘲するような笑いが、松平の口元に浮かぶ。

「松平、誤解するなよ。俺はお前が惚れた相手だから、神楽くんの面倒を見ているんだ。お前の大事な相手で無ければ――――」

「そうかな。俺が神楽くんを諦めたと云ったところで、お前が神楽くんを放り出すようには見えない」

そりゃ、買いかぶりすぎだ。俺にはそんな責任感は無い。

「んな訳ないだろ。俺は…」

「お前は自分で思っているより、ずっと優しい男だよ。ただ、口が過ぎるだけだ」

俺を見透かすように見る松平の視線は、居心地が悪かった。

「お前の女房は見る目のない女だっただけだよ。神楽くんには、男を見る目もあった訳だ。俺よりお前を選ぶのは正しい」

俺の中で何かがぶちっと切れる。

「あんな箱入りの小僧に何が判るって云うんだ?」

松平の襟首を掴んで怒鳴りつけた。

「お前より俺の方がいいなんざ、あの小僧の理想の投影だろうが! お前までそんなのに振り回されんな! お前の方がずっといい男だ!」

睨み付けた俺を、松平はきょとんとした顔で見ている。肩で息をする俺に向けられた松平の顔が、いつもの穏やかなものへと変った。

「ああ。悪い。そうだな」

「今度、後ろ向きな発言かましやがったら、本気でぶっとばすぞ」

俺は吐き捨てるように、掴んだ松平の襟を放す。

「ちゃんと、今日の帰りはお前が送れよ? 俺は男の趣味は無いからな。ひたすらしっぽ巻いて逃げ回るぞ」

「やっぱり、告白はされた訳だ」

「ああ。本気だとよ。子供の初恋なんて、熱病の一種だ。付き合うほど暇じゃない」

松平も薄々は感じていた訳だ。そりゃ、絡みたくもなるだろう。だからって、俺に押し付けられても困る。

「とりあえず、今日の昼飯はお前のおごりだ」

そのくらいしてもらってもバチは当たらない筈だ。

「OK」

松平が指を立てるのに、俺は手を振って、授業に向かう事にした。

「真田」

呼びかける声に足を止める。

「お前、ホントにいい男だ」

真面目な顔でいうなって、照れるぜ。

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