表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

整形美人<10>

「そりゃまた…」

気の毒すぎて、掛ける言葉も無い。

見ることさえ出来なくなった神楽くんは、ますます暗く後ろ向きになる。

そして、高校生になった神楽くんの前に、都会からの転校生が現れた。

社交的で明るく、頭も良い。田舎の因習にも縛られず、神楽くんにも分け隔てなく接してくれるその子に、神楽くんは友情と感謝の念で接した。

大学生になって、多くの若者たちが地元を離れていく。地元から大学へと通うのはかなりの距離があり、神楽くんは当然ながら地元へと残り、実家の手伝いをしながら、時折帰郷する友人と、楽しく過ごしていた。

誰も神楽くんの周囲にはいなかった。その子以外は。

唯一の友人に友情を越えた想いを抱いているのは、家族にはすぐにばれる。

引き離され、寂しい想いを抱く神楽くんに、今度は縁談が持ち上がったのだ。

「私たちは神への捧げ物。家族など持つわけにはいかない。当然、神楽に時代の巫女の父親になってもらわないといけないのよ」

「おい、それじゃ、神楽くんの意志は何処にあるんだ?」

反論した松平の表情は非常に硬い。

何の自由も楽しみも与えられず、友人からさえ引き離して、今度は家の為の縁談か?

「勝手でしょう? それで家を出たんですよ」

「当たり前だ。人柱じゃねーか」

俺も思わず、反論していた。

「顔を変えたのは、少しでも明るくなるかと思って」

「お陰で探すのに時間が掛かったわ。神楽、お遊びは終わりよ。帰って頂戴」

居丈高に宣言した女が立ち上がる。今にも神楽くんの手を引いていきそうだ。

俺は女の前に立ち、松平が横から神楽くんの肩を抱く。

「神楽くん、パソコン打てる?」

松平の唐突な問い掛けに、神楽くんが首を捻った。

「教授の研究室で、研究資料をまとめてくれる人を募集している。給料は安いけどね」

成程、目を離さないようにする訳か。

「じゃ、松平と一緒にここに住むか? 部屋は余ってるし」

俺の元女房は夢見がちな性格で、小さいが、いもしない子供部屋がふたつある。

今の状態でアパートへ返すのは、危険だ。

どうやら、姉には逆らえない性格らしく、さっきだって俺たちが止めなければ、ふらふらと立ち上がりそうな雰囲気だった。

「パソコンは出来ます。あの、ここに住むって?」

「冗談じゃないわ!」

皇姫が激しい調子で立ち上がる。

どうやら、気位の高いお姫様はこの展開にはご不満そうだ。

「貴方たち、一体なんなの? まるでナイト気取り。可笑しいんじゃない? こんな地味な子に!」

「地味じゃないと思うがな」

俺は嫌みったらしく、神楽くんの肩に手を置いた。確かに今の神楽くんの顔は、非常に華やいだ美貌である。

皇姫がぐっと言葉に詰った。

「俺はついでだが、松平はどうかな? 殿、どうなさいますか?」

俺は態と松平にそう呼びかける。こんな時代錯誤な女には、松平の名前は有効だろう。

「真田。世話を掛ける」

俺の思惑に乗ったのではなく、松平の改まった頼みごとの時の癖だ。

「承知いたしました」

そう云うだろうことは見越した俺は、素直に頭を下げた。

「神楽くん。コンビニ、しばらく休むかい?」

「いえ、辞めます。迷惑は掛けられない」

聞いていられないとばかりに、荒々しく皇姫が身を翻した。誰も後は追わない。

バタンと扉を閉める音が響き渡った。



「いいのか、真田?」

「いや、やりすぎた。ここまで煽るつもりじゃなかったんだが」

正直なところ、深く関わるつもりじゃなかったんだが、あんまりな皇姫の言い草に、思わず口が滑った。

「お前、そんなことやってるから、奥さんに逃げられるんだぞ」

「解ってる」

お前に云われなくても解ってる。俺は口が過ぎるのだ。女房が出て行ったときの大喧嘩だって、言い過ぎた自覚はある。だが、それが俺である以上、何度も繰り返すのは目に見えていた。

「真田さん。本当にいいんですか?」

「ああ。売り言葉に買い言葉って奴だがな。口から出ちまったもんは仕方が無い」

頭をかく俺に、神楽くんは居住まいを正す。

「お世話になります」

三つ指付いて、マナーの見本のように頭を下げられて、俺は視線をさまよわせるだけだった。



その日の内に神楽くんが荷物を持ち込んできた。

家出してきたのに相応しく、大き目のドラムバッグひとつに全ての荷物が入っているらしい。着替えと、暇つぶし用に文庫本が数冊。モバイルパソコンに携帯電話。身の回りの品意外に広げられたのはそんなものだ。

コンビニのバイトは、さすがにすぐに辞める訳にはいかず、シフトの入っている週末までは続けるらしい。

その間は、松平が送り迎えをするということで片がついた。

「お前は来ないのか?」

「ああ。俺まで迷惑を掛ける訳にはいかんだろう」

遠慮する松平だが、別にそんな必要は無いのにと首を捻る。

「あのな、俺はこれから神楽くんとお付き合いしようと思ってるんだぞ? やっぱり、不味いだろ?」

あ、そう。割と硬いんだな。お前。

俺が意外そうな顔をしていたのが判ったらしい。松平は口を尖らせたまま、

「これが女相手ならいいがな。俺も神楽くんも男相手は初めてだ。勢いにまかせてなんて出来るか」

「お前、判ってはいたけど、真面目な男だな」

女相手にはかなりモテていた男だっただけに、もっと遊んでるのかと思っていたんだが。俺もかなり自分基準で物を見ていたらしい。

それとも、それだけ本気と云うことか。

「上手くいくよう、祈ってるぜ」

ぽつりと告げた言葉だが、松平はかなり感激したようだ。

いきなり、俺にがばりと抱きついてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ