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秒速100m  作者: 楼榮 槐
1巻
2/23

出会い×憎しみ



 予選第一レースが始まった。周りを圧倒させる走りを見せた柘榴は、他の部員を応援することもなくグラウンドの端に向かった。真夏の太陽が照りつけ、体力を消耗させる。少しでも体力温存のために体を休めなければならない。冷えたタオルで顔を拭く。その時どこかで奇声が上がった気がしたが、そんな事、今の柘榴には関係ない。

 問題は柘榴の2レース目だった。1レース目を勝ち抜いただけあって、有力候補も多い。緊張感が漂う。どこからか豆腐を売る笛の音が聞こえてきた。その静けさの中、隣のコースで走る少年に目が留まった。



 肩につくかつかないかの髪ををした、美少年。格好いいとか可愛いとかのたぐいではなく、丁寧に描かれた絵のように顔のパーツ一つ一つが美しい。誰もが見とれるような顔をする少年に、一体どんな走りができるのか?第一レースを勝ち抜いてきたとは到底思えない。走ったり動いたりするのではなく、むしろ静止したままの姿を保っていてほしい。

 全く知らない顔で、長年陸上をしてきた自分でも見たことが無かった。しかしそんなことはどうでもいい。目の前のレースに集中する。

「位置について――――」

「用意ドン!!」合図と共に、音が鳴る。

 またあのずば抜けた走りを見せようとするが、隣を一陣の風が吹いたようなスピードで駆け抜ける姿を見た。

「嘘だろ!?」心の中で呟くが、どうすることもできなかった。追いかけるが、差は縮まらず、気づいた時にはゴールを当に過ぎていた。

「そんな…」

「優勝候補が負けた?」周りから色んな声が聞こえるのと同時に、ドッと倒れ込む。手を地面につき、拳を握る。自分の調子が悪かったのかとタイムを聞いても、いつもとさほど変わらない。それどころか速くなっている。

オレが…負けた?それも予選二回戦なんかで…

「アイツ誰だ!?」誰かが声を挙げる。がばっと体を押し上げ、野次馬の種になっているその風を睨みつけた。

「お前…誰?」自分を抜いた少年に聞いた。少年は目を見開く。

「そういう時は自分から名乗るべきなんじゃないの?まあ、知ってるからいいけど。桐生でしょ?桐生柘榴。毎年優勝候補っていうぐらいなんだから知っててあたり前か。そういう俺は今回が初出場で無名なんだけど。俺の名前は我心ガシン。俺より速そうな奴は」そこで、少年はニヤリと笑う。

「潰しとかないとね」そう言って去っていった。

「カッケー」

「おいおい、今回の試合どうなっちまうんだ?」

「初出場だってさ」周りの野次馬の声が刃のように突き刺さる。何も言い返せないこの状況が苦しかった。そんな中……

「俺、アイツ知ってるぜ!同じ塾に通ってんだ。しかも、アイツトップ!!」

「マジ!?どこ?」その声に振り返る。

「ゼロ塾……」周りが静まり返る。

 一瞬で俺の面目を潰したアイツに絶対勝つ。憎しみから解放されるためにも、アイツ以上のことをしなければならないのなら俺もゼロ塾に行く。そしてアイツにいつか同じ想いをさせてやる。



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