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「妹を見習え」と笑われ続けた私が家を出た翌日、王国が大騒ぎになりました

作者: 鬱沢色素
掲載日:2026/10/27

「セレナ! お前との婚約を破棄させてもらう!」


 王都でも有数の美しさを誇る我が伯爵家。

 その応接室に、鼓膜を震わす大声が響き渡った。


「……理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか」


 私は優雅にティーカップを傾けながら、婚約者であったはずのギルハードにそう問いかける。


「理由だと? 自分の胸に手を当てて、問いかけてみるんだな! エミリアの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。妹の残した偉大な功績の数々を、お前は知らないわけではあるまい!」


 そう言って、ギルバードは自分の腕にしがみつくエミリアへと軽く視線を移した。


 エミリア。

 私の妹。

 愛らしいプラチナブロンドの髪を持つエミリアは、怯えた小動物のように肩を震わせながらも、その口元には優越感に満ちた笑みを浮かべていた。


「──エミリアは王都の食糧不足を解決する流通ルートの開拓! 長年赤字続きだったこの伯爵領の財政を、たった一年で黒字に転換させた! さらには毎年被害を出していた河川の氾濫を防ぐ、緻密な治水計画の立案! しかも……」


 ギルバードの熱弁は止まらない。


 先月流行した病に対する薬草の供給網整備、痩せた土地でも育つ新農法の導入、そして領内の孤児院への手厚い支援制度の構築。


 それら全てが、か弱く心優しいエミリアの成し遂げた『奇跡の御業』なのだと、声を大にして彼女を褒め称えた。


「いやぁ、ギルバード殿の言う通りだ。エミリアは我が伯爵家の誇りだよ。この子は昔から天使のように優しくて可愛く、なにをやらせても完璧だった」


 そう満足そうに頷きながら口を挟んだのは、同席していた私のお父様。

 お母様は口こそ挟まなかったものの、エミリアを愛おしそうに見つめて両手を合わせた。


 一方、ギルバードとお父様の称賛を一身に浴びたエミリアは、「そんな、大したことはありませんわ」と頬を染めて俯く。

 その見事な謙遜ぶりに、ギルバードはさらに熱を込めて彼女の肩を抱き寄せた。


「それに比べて……姉であるお前はなにをした?」

「なにをした、とおっしゃいますと?」

「とぼけるな! お前はただ部屋に引きこもり、小難しい顔で書類を眺めるばかりで、領民のために汗を流したことなど一度もないではないか! エミリアの陰に隠れて何もしない無能な女など、私の婚約者には相応しくなかったのだ!」

「ええ、その通りね。セレナ、お前も少しは妹を見習ったらどうなの?」


 お母様が心底呆れたというように溜め息をつき、お父様も侮蔑の笑みを浮かべて私を見下ろした。


「恥知らずな姉のせいで、エミリアにまで肩身の狭い思いをさせられては敵わん。ギルバード殿、セレナとの婚約を破棄し、エミリアと新しく婚約を結び直すことを正式に許可しよう。そしてセレナ……お前には、今日中にこの屋敷から出て行ってもらう!」


 実の娘に対する、追放の宣告。

 貴族の令嬢にとって、実家から追い出されることは社会的な死を意味する。


 だが、私は一切焦ることはなかった。

 婚約者と家族たちがぎゃあぎゃあと喚いている光景が、まるで滑稽な三文芝居かのように見えた。


「……承知いたしました。今まで育てていただき、ありがとうございました」


 私は反論することなく静かに立ち上がり、完璧なカーテシーをしてから、彼らに背を向ける。


 荷物をまとめるため応接間から出て行く前に、私はほんの少しの好奇心に突き動かされ、振り返った。


「出ていく前に……一つだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか」


 まさか私がなにか言うと思っていなかったのだろう。ギルバードとエミリア、両親の四人が一瞬だけ眉をひそめる。


「なんだ、今更未練がましく泣きつく気か?」

「いいえ」


 私は首を横に振り、微笑む。


「みなさまは本当に、後悔なさいませんね?」


 その問いかけに、四人はきょとんとした顔。

 やがて、腹を抱えて笑い出した。


「はははっ! 何を言うかと思えば! 誰がお前のような役立たずを手放して後悔するものか!」

「せいぜい野垂れ死なないようにね、お姉様」

「そんな負け惜しみを言う暇があるなら、さっさと出ていけ!」

「野犬に食べられるなら、屋敷の敷地内を出てからにしてちょうだいね。掃除が大変だもの」


 みんな、私の言ったことに疑問を覚えすらしない。


 ……まあいい。

 最終通告はした。あとから泣きつかれても、後悔するのは彼らの方だ。

 これ以上は、もうなにも言うまい。


「……左様でございますか。では皆様のご多幸を、心よりお祈り申し上げます」


 頭を下げ、私は今度こそ応接間を後にした。



 ◆ ◆



(ギルバード視点)


 あの陰気で無能な女、セレナを追い出した翌朝。

 僕の周りには、いつもより和やかで温かな空気が流れていた。


 最高級の茶葉が香る中、僕は愛しのエミリアと肩を寄せ合いながら優雅なティータイムを楽しむ。

 目の前では、伯爵夫妻が目を細めて僕たちを見守ってくれている。


「セレナがいなくなっただけで、これほど清々しい朝を迎えられるとはな」


 にやりと口角を上げる。


 セレナとの婚約を破棄してばかりだったが、エミリアとの新たな婚約手続きはすでに進めている。

 僕自身も侯爵家だという立場と、この伯爵家の影響力。

 そしてなによりエミリア自身の圧倒的な功績を考えれば、王家も諸手を挙げて僕たちの婚約を祝ってくれるはずだ。


「それにしても……去り際のセレナの態度は、思い出すだけで腹立たしいな。『後悔なさいませんね?』だと?」

「ただの負け惜しみですよ! ギルバード様が気になさる必要はありません!」


 不意に零してしまった声を、エミリアが拾う。


 エミリアの言う通りだ。あいつのことを考えれば考えるほど、むしゃくしゃするだけである。


 セレナよりも美しく、圧倒的な功績があるエミリア。

 一方、あいつは部屋に引きこもり、小難しい顔で書類ばかり眺めているばかりだった。

 領民のためになに一つ行動を起こそうとしなかった無能な女など、思い出すだけで反吐が出る。


「お姉様も、今頃はどこかで反省しているのかしら」


 ああ……心優しいエミリアはこんな時にも、自分を散々貶めてきた姉のことすら気にかけている。

 なんと慈愛に満ちた女性だろうか。


「エミリア、君は優しすぎるよ。あんな役立たずの心配などしなくていい。君は、これからも僕とこの国を支えてくれれ」

「ええ、もちろん。ギルバード様のお力になれるなら、私、なんだって頑張ります!」


 恥じらうように頬を染めるエミリアの肩を抱き寄せようとした──その時だった。



「──失礼いたします!!」



 バンッ! と乱暴な音を立ててサロンの扉が開かれた。

 優雅な空気を切り裂くような無作法な振る舞いに、僕は思わず眉をひそめた。


 突然現れたのは、王宮の文官服に身を包んだ初老の男だった。

 その顔には滝のような汗が浮かび、肩で激しく息をしている。


 見覚えがある。

 王宮の中枢で働く、宰相の側近の一人だったはずだ。


「なんだ! 騒々しい。伯爵家のサロンに断りもなく踏み込むとは、いかなる用件だ!」


 僕が鋭く咎めると、文官は転がるように私たちの前まで駆け寄ってきた。


「も、申し訳ございません! しかし、一刻を争う事態なのです! セレナ様は──セレナ様はどちらにいらっしゃいますか!?」

「セレナだと?」


 僕は思わず聞き返してしまう。

 王宮の人間が、あの無能な女に今更なんの用だというのだ。


「あのような出来損ないなら、昨日のうちに屋敷から追い出してやった。ヤツはエミリアとは違い、領民のためになにもしていなかったからな」

「ああ……」


 当然のことを言ったまでなのに、文官はガックシと膝から崩れ落ちた。


「……お、追い出した……では、セレナ様は屋敷を出て、今はどこにいますか?」

「僕の知ったことか。どうせ、どっかでのたれ死んで──」

「とんでもないことを!」


 僕の言葉を遮って、文官はこう捲し立てる。


「本日は王都の流通網の最終決済を頂かねばならないのです! それだけではありません、治水工事の承認も、新農法に必要な特殊肥料の手配も、全てセレナ様の判がなければ動かないのですよ!? のたれ死ぬなんて、もってのほかです!」

「は?」


 思わず、聞き返してしまう。


 こいつはさっきからなにを慌てているんだ。

 流通網の決済? 治水工事の承認?

 それらは全て、隣にいるエミリアが手掛けた事業ではないか。


「お前は酷い勘違いをしているようだな。それらの偉大な功績は全て、ここにいるエミリアが成し遂げたことだ。決済が必要なら、エミリアに聞けばいい。そうだろ? エミリア……え?」


 隣にいるエミリアを振り返っると、彼女は何故か顔面を蒼白にし、ガタガタと震えていた。


 ど、どうしたんだ、エミリア。

 どうして、そんな顔をするんだい……?


「寝言は寝てから言ってください!」


 声を荒らげる文官。


「長年赤字続きだったこの伯爵領の財政再建案を練り上げたのも、河川の氾濫を防ぐ緻密な治水計画を立案したのも、全てセレナ様ご自身です! 寝る間を惜しんで彼女が一人で行っていたのですよ!」

「さっきから、お前はなにを言ってるんだ……? それらは全て、エミリアがやったことじゃないか」

「そ、そうです。あれは、私が……!」

「エミリア様は、セレナ様が徹夜で仕上げた完成資料を受け取り、王宮や領地で『自分がやった』と表向きの発表をしていただけではありませんか。 実務を担い、計画を動かしていたのはセレナ様自身だったというのに!」

「貴様こそバカなことを言うな!」


 エミリアの父上でもある伯爵が立ち上がり、声を大にして叫ぶ。


「セレナ、そんな大それたことをできるはずがない! エミリアこそが天才で、セレナはただの引きこもりだ! お前たち王宮の人間が、なにか勘違いをしているのだろう!」

「ええ、そうです! なにかの間違いですわ!」


 伯爵夫人も必死に同意するが、文官は決して首を縦に振らず、冷静な口調でこう言った。


「勘違いをしているのは、あなたたちの方です。セレナ様という王国屈指の実務家を失った今、この国がどうなるのか分かっているんですか?」


 エミリアの功績が、全てセレナのものだった?

 まさかそんなバカな話が……僕が愛したエミリアは天才で、捨てたセレナは無能だった。

 そうだ、そうでなければならないのだ。


「出鱈目を言うな! そんな妄言、誰が信じるというのだ! これ以上、エミリアを貶めるようであれば、しかるべき対応を──」


 僕が激昂して文官の胸倉を掴みかかろうとした、その瞬間。



「──その者の言うことは、全て真実である」



 威厳に満ちた声が、サロンに響き渡った。


 開け放たれた扉の向こうから、数名の近衛騎士を従えて歩み出てきたのは壮年の男性だ。

 豪奢なマントを羽織り、鋭い眼光で我々を見据えるその御方を見た瞬間、僕の全身からサッと血の気が引いた。


「こ、国王陛下……!?」


 紛れもない。

 この国の最高責任者──国王陛下だ。


 僕は慌ててその場に膝をつき、深く頭を垂れる。伯爵夫妻もエミリアも、慌てふためいて僕の後に続いた。


「セレナ嬢から一報を受け、急いでここへ赴いたが……やはり遅かったか。ギルバード、そして伯爵よ。貴様らは、我が国において最も優秀な頭脳を持つ至宝を、あろうことか『無能』と罵り追放したのだ」


 陛下の言葉に、僕は息を呑む。


「セレナ嬢は慎ましやかな女性だった。自分が表に出ることを嫌い、妹に功績を譲っていた」

「そ、それは本当なのですか……?」

「本当だ。だが、まさか実の家族と婚約者が、彼女の献身に気付きすらしていなかったとは……余の失態だ。まさか、貴様らがそれほど愚かとは思っていなかった」

「へ、陛下! これはなにかの誤解でございます! 私どもは決して──」


 伯爵が必死に弁解しようとするが、国王陛下は片手を上げてそれを制した。


「言い訳など聞きたくない。セレナ嬢が不在となった今、この国は大混乱に陥るだろう。余はその対応をすべく、すぐにでも動かねばならぬ」


 陛下の声に込められた静かな怒りに、僕は絶望的な恐怖を感じた。


 書類ばかり眺めていたセレナが……実は、王国の未来を左右するほど有能だった?

 エミリアは彼女の功績を取っていただけで、なにもしていなかった?


 信じたくない。

 信じたくはないが……陛下の言葉に反論できるほど、今の僕は冷静じゃなかった。


「本来なら極刑に処したいところだが……貴様らの愚行を見逃していた、余の責任もある。伯爵家への全ての優遇措置は即座に停止。また、本日より伯爵家の王宮への立ち入りを一切禁ずる。この処置がせめてもの温情だ」

「そ、そんな……! 優遇処置を停止されて王宮への立ち入りを禁じられてしまえば、我が家はこれからどうなってしまうのですか!」


 伯爵夫人が泣き叫ぶが、国王陛下は吐き捨てるようにこう言い放った。


「知ったことか。自らの手で至宝を捨てたのだ、その報いを存分に味わうがいい。……ギルバードよ、貴様もだ。後の処分は追って沙汰するが、貴族であり続けられると思うなよ?」

「あ……ああ……」


 喉の奥から、間抜けな音が漏れた。


 美しい有能なはずのエミリアと紡ぐ、輝かしい未来。

 エミリアは今、涙をポロポロと流しながら、俯いている。

 その姿には最早、可憐な天才令嬢の面影はない。真実を暴かれて怯えるだけの惨めな少女そのものであった。



『みなさまは本当に、後悔なさいませんね?』



 ふと、昨晩。

 セレナが僕たちに言い放った言葉が、脳裏をよぎった。


 あの時は、セレナの負け惜しみだと思っていた。

 しかし違った。


 あれは僕らへの哀れみ。

 自らの手で全てを壊そうとしている愚か者たちへの、最終通告に過ぎなかったのだ。


「セレナ……っ!」


 床に崩れ落ちたまま、すでに手の届かなくなってしまった『かつての婚約者』の名前を、空しく叫ぶことしか出来なかった。



 ◆ ◆




 ガタゴトと心地よく揺れる馬車の中。

 私は馬車の窓から、朝の光に照らされた街道の景色を眺めていた。


「今頃、実家に王宮の文官や陛下が、慌てて殺到している頃かしらね」


 誰に言うわけでもなく、ぽつりと呟く。


 昨夜、伯爵家を追い出された私は、すぐに国王陛下へ宛てて伝書鳩を飛ばした。


 ギルバードから婚約を破棄されたこと、お父様から屋敷を追い出されたこと、そして王国を去ることを簡潔に記しておいたのだ。


 以前から私の能力を高く評価してくださっていた国王陛下には、少し申し訳ない気持ちもある。

 しかし、私にも我慢の限界というものがあった。


 私がこれまで、自分の功績がエミリアの名前で発表されても黙っていたのは、曲がりなりにも『ここまで育ててくれた』という家族への恩義があったから。

 けれど、婚約者まで奪われ、無能と罵られて追放されたことで、私の中の糸がぷっつりと切れてしまった。


「もう、あの他人のために自分を犠牲にするのはやめよう。今日から私は、自分のために生きるのよ」


 そう口にした瞬間、長年背負っていた重荷が消え、驚くほど心が軽くなる。


 今──私は隣国レグナリアに向かっている。

 隣国からは以前より、内政官として働かないかと熱心な誘いを受けていた。

 今度はそこで自分の仕事を、私自身の名前で公表して、正当に評価してもらうつもりだ。


 やがて、馬車の窓から国境が近づいてくるのが見えた。

 新しい人生の始まりを前に──ふと、実家で何度も浴びせられ続けた『妹を見習え』という言葉を思い出す。


「本当に見習うべきだったのは、どちらだったのでしょうね?」


 馬車から見える風景は、驚くほど澄み切っていた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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雑とか書いてる人は何様なんでしょうねw そんなに文句があるなら自分で超名作を書いてもらいたいものですが何故書かないんですかね? 作者さんの作品はとても素晴らしいので雑音はブロックしてこれからも執筆活動…
雑だろうがなんだろうが 貴重なai判定外の小説ぽいので 皆さん批判しすぎなのでわ? 作者さんガンバ!
う〜ん、雑い。 システムも雑いわ、犯罪者の処罰も雑い。ジャンル設定も雑けりゃ、物語自体雑い。 せめてざまぁぐらいしっかり処していれば我慢できたが、ざまぁすら雑いって褒めるところが全く無いんだが。
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