9 行軍
1.出かけた先でのふるまい方をわきまえる
山に行くなら、山に行くのに、ふさわしいことをしないと、遭難する。
海に行くなら、海に行くのに、ふさわしいことをしないと、おぼれる。
なにをするにしても、そこにふさわしい、ふるまい方をしてこそ、失敗しないですむ。
だから、孫子の兵法では、山、川、ぬかるみ、平地など、戦うところに応じて、そこにふさわしい、ふるまい方としなさいと教えるんだ。
2.「あるある」を知って見かけから真相を見抜く
これまで見たり、聞いたり、したり、されたりなどして、わかったこと。これを「経験則」と言う。いわゆる「あるある」だ。
この「経験則」を知っていれば、ぱっと見ただけで、「相手がなにを考えているのか」とか、「今なにが起きているのか」とか、調べなくても、わかるようになる。たとえば、バスケ部あるあるを知っていれば、バスケ部員のことがわかるみたいな感じでね。
だから、孫子の兵法では、そんな「経験則」のうち、戦争に関するものをとりあげたんだ。まさに「戦争あるある」だ。
たとえば、「敵が遠くから戦いを挑んでくるのは、戦いやすいところにいるからだ」とか、「だしぬけに休戦しようと言ってくるのは、たくらみがあるからだ」とか、そういった感じだ。
ドイツの偉人、ビスマルクも言っている。「賢者は他人の経験に学ぶ」
3.リーダーに必要な4つのこと
①よく考えて動く。
②みんなを協力させる。
③敵のことを調べる。
④みんなを従わせる。
みんなを従わせるには、まずやさしくして心をつかみ、それから厳しくして悪さを許さないようにする。そのうえで、ふだんから命令を守ってあたりまえという雰囲気をつくるんだ。
なお、心をつかまないで、ただ厳しくするだけでは、だれもついてこなくなるから要注意だ。
『孫子』行軍(全文訳)
孫子が言いました。
およそ状況に応じて上手に軍隊を動かし、見かけから実情を判断する方法は、次のとおりです。
(まず軍隊をうまく動かす方法ですが)
①険しい山を行くときは、谷にそって進みます。②安全なところを目ざし、高いところにいるようにします。③低いほうを目ざして戦い、高いほうに向かってはいけません。以上は軍隊が山岳地帯にいる場合です。
①川を渡るときには、渡ったらすぐに川を離れます。②攻め手がもし兵をひきつれ川を渡って来たら、川のなかで迎撃してはいけません。③敵の半分を渡らせてから攻撃すれば、有利になります。④戦おうとする人は、川の近くにいて攻め手を迎撃してはいけません。⑤安全なところを目ざし、高いところにいるようにして、水の流れに逆らうようにしてはいけません。以上は軍隊が河川地域にいる場合です。
①塩分が多かったり、ぬかるんでいたりする土地は、すみやかに去り、とどまってはいけません。②塩分が多かったり、ぬかるんでいたりする土地で敵と戦うことになったなら、飲み水や馬草があるところにいて、林を背にするようにします。以上は軍隊が沼沢地域にいる場合です。
①平坦なところでは、なだらかなところにいるようにします。②右後方が高くなるようにします。③前方が低く、後方が高くなるようにします。以上が平陸地域に軍隊がいる場合です。
およそ以上4つの軍隊にとって利益となる配置に仕方は、黄帝(昔の名君)が四方の強敵に勝った方法です。
およそ軍隊は、高いところを好んで、低いところを嫌うようにします。明るいところを重んじて、暗いところを軽んじるようにします。生活しやすいようにし、高くて明るいところにいるようにします。これが必勝につながり、軍隊に病気がなくなります。丘陵や堤防のところでは、必ずからりとしたところにいて、右後方が高くなるようにします。以上は、兵士の利益となるものであり、地の利となるものです。
上流が雨で、水が流れてきたとき、川を渡るのをやめ、川が落ち着くのを待ちます。
絶澗(こえられない山間の渓谷)で、天井(急な斜面に囲まれたくぼ地)、天牢(山がけわしかったり、霧がかかりやすかったりなどして、入りやすいけど、出にくい土地)、天羅(草木のおい茂っている土地)、天陥(土地が低くて水がたまりやすく、ぬかるみやすい土地)、天隙(二つの山の間にある狭くて通りにくい土地)に出くわしたなら、必ずそこからすみやかに立ち去り、近づいてはいけません。こちらはそこから遠ざかり、敵はそこに近づくようにします。こちらはそこを前にし、敵はそこを背にするようにします。
軍隊の近くに、地形が険しかったり、水たまりやくぼ地があったり、水草が茂っていたり、ちょっとした林があったり、草がうっそうとしていたり、伏兵が隠れられそうなら、そこを慎重に探索します。敵兵がひそんでいる可能性があります。
(次に見かけから実情を判断する方法ですが)
敵が近くにいて静かなのは、地形の険しさを頼りにしているのです。
敵が遠くにいて戦いを挑んできて、こちらをおびき出そうとするのは、敵のいるところが戦いやすくて有利なのです。
森の木が揺れ動いているのは、敵が進軍してきているのです。
たくさんの草がどこそこで障害となっているのは、なにかワナがあると疑わせようとしているのです。
鳥が飛び立つのは、その下に伏兵がいるのです。
獣が驚いているのは、敵が包囲しようとしているのです。
砂ぼこりが高くまっすぐに立ちのぼっているのは、戦車隊がやってきているのです。
砂ぼこりが低くたれこんでいるのは、歩兵隊がやってきているのです。
砂ぼこりがあちこちからあがり、ひょろひょろしているのは、薪を拾っているのです。
砂ぼこりが少なくて、行ったり来たりしているのは、陣地を築いているのです。
敵からの使者の言葉が丁寧で、敵軍が備えを増しているのは、進もうとしているのです。
敵からの使者の言葉が強気で、敵軍が前に出て駆けまわっているのは、退こうとしているのです。
軽戦車が先に出て、敵陣の横についているのは、布陣しているのです。
約束していないのに休戦を求めてくるのは、謀略があるのです。
走りまわって兵士をならべているのは、戦いを決意しているのです。
敵兵が中途半端に進んでくるのは、こちらを誘い出そうとしているのです。
敵兵が杖をついて立っているのは、食料が不足しているのです。
水汲みの担当者が先に水を飲んでいるのは、水が不足しているのです。
敵兵が有利なのに出撃してこないのは、兵士が疲れて士気が低下しているのです。
鳥が集まっているのは、そこにだれもいないのです。
夜中に呼びまわっているのは、恐れているのです。
軍隊が騒動しているのは、将軍がしっかりしていないのです。
旗が揺れ動いているのは、混乱しているのです。
役人が怒っているのは、士気が低下しているのです。
水汲みの人が営舎に戻らないのは、追いつめられているのです。
ねんごろにためらいながらゆるやかに相手と語っているのは、人望を失っているのです。
ひんぱんに賞しているのは、兵士が思いどおりに動かなくて苦しんでいるのです。
ひんぱんに罰しているのは、兵士が戦おうとしないので困っているのです。
先に乱暴して後で反発する相手の多いことを恐れるのは、きわめて配慮が足りないのです。
贈り物をもってきて謝罪するのは、休息したがっているのです。
兵士が怒って互いに反撃しあいながら、いつまでたっても決戦しようとせず、かといって退却しようともしないなら、必ず慎重に見極めないといけません。
兵隊は、兵力の多さがものをいうというものではありません。向こう見ずに突進することをなくし、とりあえず力を合わせ、敵情を調査し、相手を攻略するようにすれば十分なだけです。そもそもただ思慮がなくて、敵を軽くみるだけなら、必ず相手に捕虜とされます。
兵卒がまだ懐いていないのに罰するときには、納得しません。納得しなければ、使いにくくなります。兵卒がすでに懐いていても罰が行われないときには、使いません。ですから、文徳によって兵士を結集させ、武威によって兵士を整然とさせます。これが「必ず取る=必ず攻略できる」ということです。命令がふだんから守られていて、そのうえで人民に命令を守るように教えるときには、人民は納得します。ふだんから命令が守られていなくて、それなのに人民に命令を守るように教えるときには、人民は納得しません。命令がふだんから守られていれば、みんなと心を一つにできます。




