魅了スキル《メロメロビーム》が強すぎて、今日も敵が自己紹介の途中で消える
ある日の登校中、私――石破魅美(17)はトラックに轢かれそうになった。
歩道は確かに青信号だったはずなのに。
ふと意識を取り戻すと白い部屋。
状況を飲み込めないでいると、おっさんの声が頭に響く。
『我は破壊の神。貴様を異世界へと転移させる。特典として能力を選ぶがよい』
これは噂に聞く異世界転移?
私がそんなことを考えていると、目の前に文字が浮かぶ。
特典スキル:
『破壊光線』
『死ね死ね光線』
『メロメロビーム』
……なんか偏ってない?
物騒じゃない?
破壊光線と死ね死ね光線はどう違うわけ?
威力?それとも精神的ダメージの有無?
というか神様のネーミングセンスがちょっと……。
「メロメロビームはどんな能力ですか?」
恐る恐る、誰もいない空間に尋ねる。
すると、私の問いに答えるように目の前に文字が浮ぶ。
『ビームに打たれた対象を魅了して言いなりにさせる』
……これも方向性は違うけど十分に物騒だな。
でも他の二つは完全に戦闘的な能力だし怖い。
消去法でこれしかないか。
仕方なくメロメロビームを選択しようとした。
そう心に決めた瞬間、見知らぬ場所に立っていた。
石造りの床に壁。豪奢なタペストリーが掛けてある。
なんか謁見の間みたいな……?
「勇者が召喚されました」
横に立っていた三角帽子をかぶった人がそんな声を上げる。
その声に周囲の人たちが「おおっ!」と沸き立った。
「よく来てくれた勇者よ」
そう言ったのは王冠を被った人。目の前の豪華な椅子にふんぞり返っている。
たぶん王様かな?
王様のもったいぶった長い話を要約するとこうだ。
『この世界には魔物が住んでおり、数年前にその頂点に立つ魔王が生まれた。魔王は強大な力で世界を支配しようとしている。どうか力を貸してほしい』
なるほどテンプレ通りだ。
「私は元の世界に帰れるんですか?」
一番重要なことを聞くと、王様はまたもったいぶって語り出す。
その要約はこう。
『呼んだのは死にかけた人間のはず。そのまま返すとあなたは間もなく自分の世界で死ぬ。どうしても帰りたければ帰ってもよい。ただ魔王の核を使えば現世で死ぬ前の瞬間に返すことができる。魔王を倒すことは互いにとってWin-Winのはずだ』
……何か、うまく言いくるめられている気がする。
でも実際トラックに轢かれかけたのは事実。
ということで、ただの女子高生が『メロメロビーム』だけを武器に魔王を倒す旅に出るのだ。
行程は旅慣れた護衛騎士が数人ほど同行した。
食料確保も野営の準備も彼らが手際よくやってくれる。私は特になにも考えなくていい。
意外と面倒が少ない旅だ。
王都を出発して三日。
街道を歩いていると、先頭の護衛が鋭い声を上げた。
「敵襲!」
護衛騎士が指さす方を見ると、虎ぐらい巨大な魔物が猛スピードで迫ってきた。
怖い怖い!
死ぬ! また死ぬ!
「メロメロビーム!」
私は恐怖のあまり、無意識にスキルを叫んでいた。
私の手からピンク色の光線がほとばしった。
それを見ながら私は思った。
これで虎みたいなのがメロメロになって私に従うの?
ビーストテイマー的な?
それも悪くないかも!
――そんなことを呑気に考えたが、現実は予想の斜め上を行く結果となった。
その虎の魔物はあっけなくメロメロビームの光に包まれ……消滅したのだ。
跡形もなく。塵一つ残さずに。
「え?」
私の呆気にとられた声が街道に響く。
「あんな魔物さえ一撃で消滅させるとは」
「さすが勇者様!」
周囲が拍手喝采で士気を上げる中、私は混乱の渦中にいた。
あれ?
魅了する能力じゃ……?
それからメロメロビーム無双が始まった。
旅の途中で現れた魔王の配下たち。彼らは一様に強そうな雰囲気で登場する。
「我は魔王四天王の鉤爪ピューマン! 我が鉤爪の威力は…」
「メロメロビーム!」
ピューマンと名乗った半獣の男は口上が終わる前に一瞬で塵となって消えた。
「ピューマンは四天王の最弱! 我こそは天空を舞う魔将……」
「メロメロビーム!」
翼を持った気持ち悪い男が現れて自己紹介の途中で塵となる。
「我こそは四天王で最強の防御力を持つ男! 名は……」
「メロメロビーム!」
岩みたいなでっかいのが目の前に来て、同じく一瞬で消し炭になった。
「勇者よ。よくぞここまでたどり着いた。我は四天王最強にして魔王様の右腕たる竜将……」
「メロメロビーム!」
「ぐああ!」
巨大な竜みたいなのが目の前で御託を並べたが、体に風穴を開けて動かなくなる。
……
旅の一行もはじめは緊張感を持って戦いに挑んでいた。
けれど、敵という敵が冗談のように倒されていくから気が抜けてきたらしい。
しかもメロメロビームは魔力的なものを消費するわけでもなく、対価なく無限に発動できるようだ。
もはや完全にピクニックムードである。
「イシバ様。その強力な攻撃魔法はどのような能力なのですか?」
護衛騎士の一人が焚火を囲みながら興味深そうに聞いてくる。
「これはメロメロビームと言って、相手を魅了して言うことをきかせるらしいです」
「ご冗談を。簡単に手の内は明かせないというわけですね!」
そう言って護衛騎士たちはみんなで笑う。
いや、冗談かよと言いたいのは私だけど……。
苦笑いを返すしかなかった。
そして何の障害もなく魔王城に辿り着く。
不気味な黒い城の門をくぐると、中の魔物が私を見るなり叫ぶ。
「破壊の悪魔が来た!」
「ひああ!」
魔物たちはクモの子を散らすように逃げていく。
もはやどちらが侵略しているんだか……。
城内を進み、いかにも玉座の間っぽい場所にたどり着く。
その玉座に腰かけ、こちらを見下ろすイケメンがいた。
漆黒の髪に赤い瞳。いかにも魔王って感じだ。
「勇者よ。我こそは当代魔王イ…」
「メロメロビーム!」
もうお決まりだ。口上を言い終わる前にメロメロビームで先制する。
ピンク色の閃光が魔王を直撃した。
しかし、魔王は消滅しなかった。
黒く焼け焦げながらも、彼はまだ立っていた!
さすが魔王。根性ある!
そして、黒焦げの魔王は口の端を歪めてニヤリと笑った。
「……なんだそのふざけた名前の技」
それが彼の最期の言葉となった。
前のめりにがくりと倒れる。
魔王のイなんとかさんはそのまま砂になって消えていった。
彼の最期は穏やかな笑顔だった。
それがメロメロビームの魅了によるものか。
それとも、ふざけた名前の技で死ぬことへの自嘲か。
私には判断がつかなかった。
こうして魔王の核らしき黒い球を持って帰る一行。
魔王討伐にかかった日数として歴代で断トツのトップ記録らしい。
なんていうか……。
そして、帰還の準備は異常に速やかに進められた。
まるで「危ないやつは早く帰れ」と言わんばかりのスピードで、私は帰還の魔法陣の上に立たされる。
気持ちは分からなくもないけどさ……。
光に包まれて意識が飛ぶ。
ふと、頭の中でテロップが流れる。
『魔王討伐特典! 現世でもメロメロビームの使用が可能となった!』
……いや、いらないよ!
全力でツッコミを入れると、意識が引き戻される。
ハッと目を開けると見慣れた通学路。
目の前を猛スピードのトラックが通り過ぎた。
どうやら本当に轢かれる直前の時間に戻ったらしい。
……本当にあのビーム使えるのかな。
どこかで試す?
いや、場所を考えないと大変なことになる。
もし使ったとして、また相手が消し炭になったら?
危険すぎる……。
こうして、トラックに轢かれる運命をチャラにした代わりに危険人物となってしまった私は、今日も普通の高校生に混じって学校に通うのであった。
【△△市ローカルニュース・〇月〇日】
深夜、市内の△高校裏山付近から、まばゆいピンク色の光線が天に向かって立ち上ったとの目撃情報が複数寄せられた。
光線は数秒間続いた後に消失したという。動画などの記録には残っていない。
翌日、裏山の調査では不自然に巨大な孔を開けられた樹木が発見された。
県警は隕石の落下、または落雷による被害の可能性があるとして調査を進めており……




