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レイシアス人は、狩りをする  作者: 夜羽


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わたしの頭の中の住人

 わたしの頭の中にはレイシアス人が住んでいるの、と言った時の、彼の憐れむような視線を、わたしは思い出し、ちょっとだけ哀しくなった。

 彼は、とてもいい先生で、親身になってわたしの頭の病気について考えてくれている。わたしの頭の病気とは、つまり、多重人格(解離性同一障害)と呼ばれるものだ。

 主人格ホストのわたしは、江梨子といって、みんなにはエリエリと呼ばれている。みんな、といっても、わたしと接点を持っている木慈と、隆太と、明音と、凛音だけなんだけど。それ以外の副人格については、ホストであるわたしも、完全に把握しているわけではない。記憶の、つながりすら、薄い。

 十人くらいいることは、間違いない。

 ただ、問題なのは、レイシアス人なのだった。レイシアス人は、実は、わたしの分裂人格ではないのだ。彼は、どこか他所の星からやってきた、憑依特性を持ったエイリアンで、その本性は残酷で、殺戮と狩猟を喜びとする、とんでもない種族の末裔だ。

 この地球にやってきたのは、たまたまで、群れからはぐれてしまったのだと、彼はいってるようだけれど、本当のことは、わたしには分からない。彼は、そのほとんどを眠ってすごしている。だから、たいていは大人しいのだけれど、興奮させてしまうと、とんでもないことになる。

 きっと、飢えたハイエナの群れよりも、手に負えなくなる。

 だから、わたしたちは、多少なりとも、彼のことを怖れてもいたし、接し方も分からないでいた。凛音以外は。


 凛音は、俗にいうサイコパスで、残虐嗜好の変態少女だった。といっても、現実にわたしの体を使って、猟奇的なことをするのではない。彼女は、ただ、ひたすらに空想するのだった。残虐な空想と、妄想の中に、際限なく沈み込んでいくのが凛音という少女の特性。

 その凛音と、レイシアス人の波長が合うのも、だからある意味、当然のように思えた。

 凛音という少女はたぶん、わたしの中で育った、逆説的な反逆人格で、妄想でトラウマを消そうとしているのだと、わたしは思う。残虐な妄想は、消しゴムのようなものだ。

 わたしが、心の中のイメージに見る凛音は、抜群に美しい。いつも、自分だけの特等席、巨大岩風船の上に座り、厭世の修行僧のごとく、猟奇な世界を彷徨い続けるのだ。で、その巨大岩風船のてっぺんにいる、凛音の隣に、レイシアス人が座ったとき、みんなびっくりしたものだ。

 ホストのわたしを含め、誰だって、凛音の風船には触れることさえ、許してもらえなかったのだから。

 わたしたちと同じで、レイシアス人も、すぐにわたしの脳の特性を利用して、心の中に自己のアバターを投影する術を身につけた。それは、現実の姿ではない、仮想の姿であったけれど、わたしにも、他のみんなにもそれが、レイシアス人だとすぐに、分かったのだった。

 なぜなら、明らかに異様だったからだ。凛音より一回りは大きい身体に、ねじれるように伸びた枯れ枝のような、細い腕と脚が、接着剤でくっつけたように不釣り合いに、ぶらさがっている。昆虫が進化して知的生命体になったら、あんなふうになるんじゃないかって姿だ。そんなレイシアス人と、楽し気に話してるのだから、凛音って女の子は、やっぱり変態少女なのだ。といっても、わたしの分裂人格なのだけれど。

 このレイシアス人のことを、打ち明けたのは、先生が初めてだった。もちろん、親に言うなんて、論外だ。成人して以降、親とは、もう疎遠になっているけれど、幼かった頃のわたしは、俗に言う虐待児だった。平気で振るわれる暴力は、確実に、わたしの心の一部を破壊した。

 成人してからも、その過去の記憶は、PSTDのように残っていて、頻繁に精神科に行っては、薬をもらう生活が続いた。そんなとき、会ったのが、サイコセラピストの、久留麻紀一先生だった。まだ、若い、顔立ちの整った清潔感のある先生だった。

 久留麻先生の診断は、いつも丁寧で、じっくりと時間をかけて、わたしの話を聞いてくれるので、話し終えたときは、いつも、わたしの心は晴れやかな気分になるのだった。

 だから、先生にだけは、レイシアス人のことを話す気になったのだ。

 でも、先生は、わたしの症状が一段と悪化してしまったと勘違いしてしまったのだろうか、憐憫の視線が、わたしには辛かった。実際、管理しきれないほどの人格を抱えてしまって、四苦八苦しているわたしの中に、レイシアス人が入り込んできたのだから、ある意味、症状の悪化どころではない。

 先生は、手に負えない、もう一つの凶暴な人格が増えてしまったと思っているようだったけど、違うの。

 レイシアス人は、わたしの分裂人格ではない。それだけは、はっきりと、わたしには分かっているのだった。

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