目覚め
特別な才も環境もない、ただの人間。
そんな人間を14年間やってきたイリオ。
仲のいい両親と優しい兄、生意気だけど可愛い妹。
秀でて裕福なわけでも、貧乏なわけでもない。
ある1点を除いては…
14歳の成人の儀式。特別変わらない日常にめでたい日だからと朝家を出る前に少しだけ豪華な食事を楽しみに、ただ何も考えずに、ただただ前に進んでいたあの日。
それは急に舞い降りてきた。
変化とは時に自分の意思に関係なく訪れるものであり、それが尽く良い事であるはずも無い。
才とは生まれ持つものだが発芽の時期は分からず。
環境とは生まれ持つものだが決して不変ではないのだ。
日が登り、空気がほのかに暖かくなってくる。
そんな空気を切り裂くような怒声が響き渡る。
「……オ………きろ…イ……!………イリオ!!!」
「んー…まだあとちょっと……」
「おい!!今日は成人の儀式があるんだぞ!」
「……んー………ん?」
「行かないとお前はいつまで子供だぞ〜?いいのか〜?父さんは全然構わないけどな!」
「ほらイリオ、今日は大事な日でしょ。帰ってきたら3色鶏のステーキって約束お母さん忘れてないわよ。」
父と母のどんな言葉よりも、3色鶏のステーキという素敵なワードに吊られてイリオは飛び起きた。
「ハッ!!そうだった、こうしちゃいられない!ありがとう父さん母さん!」
「朝ご飯はどうするの?」
「大丈夫!話が終わったらオロス達となんか食べるから……とにかく行ってきまーす!」
「まだ全然早いわよ〜!」
勢いよく家を飛び出したイリオの背中を見ながらフーロは隣にいるアルをジトッと見つめる。
「まったく、この落ち着きのなさは誰に似たんだか?」
「まぁまぁ、元気があるのはいい事じゃないか。」
「ふふ、そうね。」
「朝からうるさいなぁ、またお兄ちゃん?」
「そうだ、起こしちまって悪いなプロイ。俺達もご飯食べたら見に行こう。」
目を擦りながら部屋に入ってきた末っ子のプロイをアルが抱き寄せリビングに向かうのだった。
ここはミトウ王国にあるホジョウ村、これから変わってゆく運命の始まりの村である。
〜〜〜
まだ日が昇って間もない、そんな時間に大声で戸を鳴らす男が1人。
「アフィーー!おっはよーー!!」
「おーーーーいっっ!!!」
すると中から訝しげな顔をした大柄な女性が出てきた。
「……おいクソガキ…。」
「お!アフィーの母ちゃん今日も元気!?俺は今日もぜっこうチョッッ?!?!」
言い終える前にイリオの脳天に岩のような拳骨が炸裂する。
「朝からギャーギャーギャーギャーうっさいんだよイリオ、アフィルテならちょうどさっき起きて顔洗ってるとこだよ。」
「中入って待ってな。」
そう言うと踵を返して家の中に入って行く。
「っっ痛ぇー…!相変わらず馬鹿力なんだよなァ。」
「でもやっぱりアフィーの家っていい匂いするなー。」
玄関に入りキョロキョロと周りを見渡す。
昔から来ているイリオだが、季節や時期で変わる花はいつ来ても見入ってしまう。
花屋を営んでいるアフィーことアフィルテの家は中に入ると様々な花が飾ってあり、このホジョウ村に留まらず近隣の町からも人が買いに来るほど人気な理由も窺える。
店舗スペースとなっている部屋を抜け奥に行くと最低限の飾り付けのみの質素なリビングになっており、イリオは慣れたようにリビングの椅子に腰掛けた。
「あ…いーくんお、おはよう。」
「お!アフィおはよう!今日もモジモジしてんなー!」
「はぁ他人の家でどっしり構えてるアンタがおかしいんだよイリオ。」
少し遅れてアフィルテと母アンヌが入ってくる。
「今日はあんた達の成人の儀式だね。儀式ってもこれから先の人生の話をされたり楽しいもんじゃないだろうがちゃんと神父さんの話を聞くんだよ。」
「当然だろアフィーの母ちゃん、俺は夜の3色鶏の為ならいい子にだってなれるんだよ!」
「さ、3色鶏…いーくん好きだもんね。」
「それは良かったね、お母さんに感謝するんだよイリオ。アフィルテ、うちも今日はシザーフロッグの丸焼き用意しとくからね。」
「ほ、ほんと!?ありがとうお母さん!」
アフィルテがこれ以上無いほど輝いた目でアンヌを見つめる。