激昂
この学校の登校時間は9時前後とゆるやかなようだ。朝の弱い俺にはありがたい。
先生と話したあの日から数日が経過した。寮での生活のおかげで生活リズムも整ってきた。寮に入ってからはメディアに触れることはなくなり、学校から帰ってきたら風呂とご飯を済ませ、すぐ寝る。そういう生活をしていた。この学校はどうやら本当にVライバーになりたい人間が集まってるらしく、授業は午前中が通常授業で午後の3時間がこの学校独自のものになっている。
その内容は日によって異なるが、教師による直接指導や機材の説明から、機材などのトラブルへの対応を学ぶなど様々なものがある。一年生では知識、二年生では技能を学ぶ。そして三年生で実際にVライバーとして配信活動をする。一定の視聴者を得ることが卒業の条件らしい。
俺はイラついている。もう分かっていると思うが、俺はVライバーになるために学校に通っているわけではない。奏先生は俺を、島田の兵器にしないためだと言っていたが、このままじゃただライバーになって終わる。てか、卒業できない可能性まであるぞこれ…。
奏先生はあれからまだ話していない。正直に言えば苦手なタイプだからあまり何回も話しかけることは避けたい。だから、1つ核心をついた質問を考えてから話をしたい。
他の生徒や教員も特別な接触はしてこない。奏先生以外はみんな、俺のこともライバーになりにきた奴と思っているんだろうな。
ー(やっぱり初日に話しかけにいかなかったのが悪いよ。誰もまだ友達になってないじゃん…)
いいって言ったはずだ。別に青春しにきたわけでもないんだからな。
(拗ねてるじゃん)
拗ねてねえよ
旋も中々に口うるさくなってきた。本当に友達はいらないんだけどな…
ーそもそも向こうから話しかけてきたら話しぐらいしてやるけど、話しかけてこないじゃん。
(それは律が入学式の日、君に面白そうだって放課後話しかけてきた人を無視したからだよ…。一体どうしたんだよ、前の高校では友達沢山いたよね?)
よくわからないけど調子乗ってそうな奴だったし、脳内でお前と会話してたんだから仕方ないだろ?
それに、前の学校でどう過ごしてたかもう覚えてない。だけど、友達がいらないっていうのは本当だ。見ていると辛くなる。
学校に早めについた俺に、奏先生が話しかけてきた。
「どうしたんですか?」
「ついてきてー。」
いつも通りの力のこもってない声色で話しかけてきた彼女は、すぐにスタスタと歩いて行く。
心が壊れている人間は何を考えているか分からないな。
奏先生が足を止める。そこには何人かの先生とたくさんの生徒が集まっている。学校に早めについたとはいえ、見かける生徒が流石に少ないと思っていたらこんなところに集まっていたのか。
「奏先生、この子が例の?」
少し年をとった見た目の男の先生がそう言った。
「はい、お待たせしましたー。黒瀬律くんでーす。」
「よく分からないんですけど、どういう状況なんですか?」
「この生徒たちは君と同じ理解者の本体でー、後はそれを知っている先生たちだよー。」
「またいきなりですね…この前話した時、知っていて黙ってたんですか?」
「聞かれてたら答えてたよー。」
殺す。お前のせいで余計な心配を…
「そうですか…接触をさせたということは今から何かをするんですよね?」
「ああ、そうだ。他の生徒は入学式の時に全員集まったのに、君は何をしていたんだ?」
さっきより一回り若い男性教師が、冷たさも感じるような声で言った
ええ?
「君以外の生徒とはもう擦り合わせしてあるんだ。実際に使って理解者の性能も確かめている。」
年はさっきと同じくらいに見える男性教師が不満げに言った
ええ?
「待ってください!彼は悪くない…。おそらく奏先生が何も伝えていなかったんでしょうから。」
この中で一番若い見た目の男性教師がそう言って、俺を庇うような姿勢を取る
そうだよ、こいつまじで…。
「でもー、最高傑作の理解者を持ってるのは過去のデータから分かっているのでー。訓練なんていらないかなーと思ってー。」
奏先生がそう発言した時、生徒たちが俺を睨むように見てきた。
いや待て待て待て。勝手がすぎる…。
「俺も理解者を実際に使えるなら使いたいんですけど…。それよりまず、やっぱりこの学校は理解者を持つ人を集めて何かするために国が作ったということですか?」
「そうだ、実際にこの学校で理解者を持つ生徒は100人くらいだがな。他の生徒は本当にライバーになりにきているはずだ。」
「なぜですか?どういう意図で…?」
「理解者とは兵器だ。公にはされていないが、既に戦争で使われている。」
なに?俺は思わず奏先生の方を見るが、何も反応はない。
聞いてないぞそんな重要なことを…。本当にまだ一部しか俺は知らないのか…。
だが、一番まずいのは想定外がすぎるということだ。俺の考えていたことは、まず前提に島田はこれから動き出すということだった。それなのに、事実では既に戦争は起こっていてそれを発表していなかっただけだった…!さらには理解者は想像よりも数が多い上に既に戦争に使われてしまっている…。仮に他に理解者が存在しても、旋が現れた時に同時に現れただろうと思っていたのに…。
俺は世界を変えるためにこの力を使おうとしているのに、その力に対抗する力がそれと同じ力なんて…。
くそ…!!!くそくそくそくそ、どうすればいいんだ!
ー(落ち着いて!確かに想定外ではあるけど、間さんが残してくれたことが本当ならボク達の力は他の理解者の比じゃないはずなんだ!!それに、少なくとも奏先生は信用できると思うんだ、ここは冷静に話を合わせよう…)
…ごめん。ありがと。
冷静だな…お前は。俺にはないものだ…。
「ですが、俺の理解者が現れたのは十日前くらいです。これは意図したものなんですか?」
「おそらくは、理解者を作った人間が設定した時間だと思われる。今年は世界が3000年を迎えた節目の年だろう?それと偶然である可能性は低い。意図は分からないがな。」
「では、これまで戦争に使われてきたという理解者は?」
「君の理解者とは別の人達に、政府が依頼して作らせていたものだ。ここにいる他の生徒たちも日にちは違えど今年理解者が現れたらしいから、同じ研究で生まれたのだろう。この場所は君達を兵器にするための訓練する場所なんだ。特に君には期待しているよ。最高傑作らしいからな。」
黙れ…お前らの期待に応えることは無い…。
情報の秘匿、法外な政策、身勝手な戦争。
どれも、知らなければ怒りを覚えることもなかっただろう。こんなことはこれまでの人生にもあった。
秀でたこともなくて、何かを変えられるわけでもないのに、世界の理不尽さだけには敏感で。やり場のない感情で溢れていた。
決めたよ。これまでの全てのやり場のなかった感情を全て力に変えてやる。理不尽をぶっ倒すための力に…!!!
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