奏という女
灯りのついていた部屋は奏先生の部屋だったらしい。この学校は先生一人一人違う個室を持っているようだ。配信機材などがおいてある。
「早速質問させてください。」
俺は部屋に入ってすぐにそう言った。
「先生は何者ですか?」
シンプルな一番の疑問を投げかける。俺をなぜ推薦してこの学校に入学させたのか。旋のことを知っていたのはなぜか。
「私の本名は白川奏、お父さんは間さんと同じところの研究員だった。だから、君達のことを知ってる。お父さん達に作られた理解者の中で、最も優秀な理解者とその媒体。」
なるほどな…俺達を兵器として知っていて近づいてきたわけか。
「じゃあ…敵ですか?」
「違う。私は5歳の時、父を島田達に殺されてから、その復讐のために生きてきた。なにが島田を一番苦しめられるか考えて思いついたのは、君を島田の兵器として使わせないこと。父は万が一の時のために、研究データを私に残していた。そのデータから君たちのことをずっと調べていたの。」
「調べていた?それは、監視とかしていたということですか?」
「そうだよー、君が中学生になる頃くらいから今日まで、理解者のビジョンを通じて見ていたよ。」
中学生から…ちょうど俺が家庭の異常性に気づいたくらいだ。この人は、それを見ていた上で今まで接触をしてこなかったのか。
言葉では言い表せない、やるせない気持ちになる。この人が助けていてくれれば…今俺はどうなっていたのか。
だが、言葉にはしない。
「そうですか。納得しました。」
「いやー、何とか死なずに生きてくれて良かったよー。家庭環境最悪だったから自殺しないか心配だったんだー。」
その言葉を聞いて何となく理解した。
おそらくこの人は人として生きる心を捨て、殺された父親の仇をとるためだけに生きる怪物として生きてきたんだろう。
家族を思える気持ちが残っているだけ、マシだとは思うが。この人は俺に似ている。
「俺まだ理解者のことも自分のことも分かってないので、教えて欲しいです。」
なんとなく相手の気持ちを理解したことで、冷静になれた。淡々と質問をしよう。
「あ、そうだよねー。ちょっと待っててー。」
先生がテーブルの上のパソコンを起動する。
起動されたパソコンに映し出されたのは、恐らく研究データだろう。
「まず、理解者は本体の未来の可能性を読み取って、その中で最高の世界線の心身を形にしたもの。その体は、ブラックホールで発見された物質である異次元物質で構成されていて、その体が実体を得るには本体を媒体として、脳をシンクロさせないといけない。シンクロして実体を得た時、理解者の身体で2つの思考がある共鳴状態になり、脳の解放率が高いほど、次元を超越した力を使える。これが基本の情報かな。」
なるほど、異次元物質のこと自体は公に発表もされていたがそれが理解者の正体だったのか。
ー(この情報はボクも初めて聞くことがあったよ、共鳴状態ってなんかかっこいいね!)
俺も中々好きな感じだ。
「今聞いた話だけでも理解者の凄さは伝わったんですけど、旋のことを理解者の中でも優秀だと言っていたのはどういうことですか?」
「旋っていうのは理解者の名前?なら私もそう呼ぶことにするねー。
旋君のことをそう言ったのは残っていたお父さん達のシュミレーション結果からだよ。旋君は理解者の中でも本体とシンクロ率が高いらしい。だから、君の脳解放率が例えば20%とかだった時に、30%くらいの力を使えるらしいんだー。」
シンクロ率か…。良いね。
ー(確かにそうだったらかっこいいけど、実際はそうじゃなくて…データが想定より上振れたのは別の理由があるんだけど…)
そうなのか?
(うん。君の脳解放率が特殊なのが関係あるんだけど…複雑だから実戦で教えようと思ってるんだ)
流石にそんなことを聞いたら黙っていられないだろう。
「俺自身のステータスとかは関係ないんですか?例えば、脳解放率が以上に高いとか。」
「データにはなかったけど、調べてみよーか。」
そう言って先生は俺の頭に何かをかざした。
「あー、5%…凡人だねー。」
くそ旋、期待させやがって。
ー(ふふ…)
「君が本当に兵器なのか怪しくなってきたなー。」
くそ。何か俺にもあるはずなんだ…。何か!
「大丈夫ですよ。結果がどうなっても俺は世界を変えるために生きるって決めたんです。才能が何もないことはもう十分知っていましたから。」
本当は割り切れていないから、ここにいるのだろうが。他人には理解してるように見せなければ。
憐れまれるのは絶対に嫌だ。
「ありがとうございました。そろそろ寮に戻ります。また、話を聞かせてください。」
「はーい。おやすみなさーい。」
寮に戻った俺は寝る前にVライバーを観ようと思ったが辞めた。寝る準備をしてすぐに眠った。
1日のストレスを癒すための時間だったが、今は要らない。全ての負の感情はとっておこう。
いつかくる戰いの時まで。
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