間という男
眠りに落ちたと同時に、脳内に直接記憶が流れ込んでくる。死者の記憶を見た時と同じく、一人称視点の記憶だ。
誰の記憶かはすぐに分かった。これは、旋の記憶だ。
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「よし、実験は成功だ!これで理論の証明ができたようなものだ。」
「これで、日本の軍事力はさらに強化される。核兵器さえ目じゃない!」
ザワザワと何かの実験の成功を喜ぶ白衣を着た大人たち。
「あ、あなたたちは誰ですか?ここは…」
「おはよう、律くん。君には現状把握を速やかにしてもらわないといけないんだ。」
そう言って大人の1人がこちらにカメラのようなものを向けたとき、体が痺れた。
「…っ、なにか流れ込んでくる…」
ズズッ 場面が切り替わる。
「いいかい?君は自分がオリジナルでないことを自覚した。そして、自分自身の生まれてきた理由を。この先に始まる戦争のことも。」
40代くらいのスーツを着たスタイリッシュな男だ。
「うそだ…。あの記憶は、本当は存在しないの?じゃあボクは、偽物ってこと…?」
「違うさ。君も、あの子も、どっちもが黒世律だよ。二つの心と体を持ってる特別な存在なだけだ。」
あの子とは多分、俺のことだろうな。
「あの機械で流された情報が本物だったとしても、今の世界に本当にそれは必要なんですか?」
「…。もう少し先の話ではあるが。本当に戦争は起こる。そしてそれには、核兵器や生物兵器も用いられるだろう。沢山人が死ぬ。」
「でもそれは、世界に何のメリットがあるんですか?誰が始めるの?」
「私達日本だよ。今の世界は醜すぎる。世界滅亡
の危機が囁かれていた時は争いをやめて結託していたのに、滅亡の危機が過ぎ去った次の年にはもう各国で争いが起きている。そんな学習しない愚かな国々を君のような理解者を始めとする科学兵器たちで蹂躙する。それが、依頼者の考えらしい…」
「そんな…。話し合いとかちゃんとしたんですか?それに、ボクに情報を流したみたいにすれば伝わると思うんですけど…」
「そうだ。最初はそのために作られた技術だった。だが、現在の理論では対象者が限られていた。」
「対象者…?」
「本来これは、脳への直接的介入が必要な技術なんだ。だが死者や君のような固まった体を持たないものには脳に介入することなく情報の出し入れができる。または、脳の解放率が20%以上の人間が対象になるんだが、通常の人間の脳の解放率は5%。まれにいる天才と言われるような存在でも10%くらいなんだ。」
「脳の解放率?なんとかならないんですか?ボクみたいな技術を作れるんなら難しくないんじゃ…。」
「少なくとも俺は、兵器なんて作りたくて作ってるんじゃない!この仕事は日本のトップに依頼されて仕方なくやってるんだ!なんとかこれが、世界のためだって自分に言い聞かせて…。」
日本のトップって…総理か。この時の総理は誰だったっけ…。
そんなことを考えていたら、いきなり荒々しく部屋のドアが開いた。
「そ、総理…」
バンッ!
「ご苦労だったな、間。お前の残したものは俺が世界を壊すのに、しっかりと使ってやる。」
さっきまで話していた男が銃で撃たれていた。周りにいた人達も、ボディガードのような男が次々に撃ち殺した。
「うわぁ!血!誰か…誰か!」
ダメだ俺、血は本当に無理だから見れない…。
「そんな反応をするな…。お前は俺の兵器になるんだからな。さあ、こ…掴めない?」
男が手を掴もうとしたが、実体がなかった旋を掴むことはできなかった。
「り…律…。」
「あ…間さん!生きてるんですか!」
「科学兵器を作ったことは後悔している…。だが、お前を作ったことは、後悔していない。俺はお前を、本当の子供のように思っていたぞ…。」
そういって男は手から紙を渡そうとした。
「む、無理だよ。ボクには実体がないから…」
声は震えていた。
「もう俺はそんなに長くない…。だから今は頼む。信じて受け取ってくれ。」
男の目から光が消えた。
「くっ…」
旋は紙を手に走り出した。それと同時に律の夢は終わりを迎える。
ーーーーーーー
あの夢が終わってどのくらい寝てただろう。
「おそよう」
「起きてたのか。俺、どのくらい寝てた?」
「ボクが起きてから3時間くらいだね、もう午後の2時だよ。」
「寝過ぎた…なんで起こしてくれなかったんだよ。」
「ボクもあの時のこと思い出してたんだよ。」
「そっか…。とりあえず色々分かったわ、ありがとな。」
この世界の闇って言われてたのは戦争のことだったのか…。それに、脳解放率とかいろいろな情報が集められた。
大きな進歩だ。世界を変えるピースがどんどん集まっていく。
しばらくは情報をより沢山集めないといけないな。
「あのさ、さっきの総理って島田鷹人だよな?今も総理続けられてるのってなんでなんだ?」
「考えても無駄だよ。彼の表の顔は圧倒的善人。過去最高の政治家なんて言われてるのは律も知ってるだろ。」
「そうだな。でもさすがにおかしいんじゃないか?旋はアイツの依頼で作られた兵器なんだろ?あいつからは逃げられたもののそれからなんの手も打ってないんじゃないか?」
「確かに、今まで何もして来なかったのは怪しい。もしかしたら今日、ボクが君から外に出られるようになったのはあいつが関わってるのかも知れないね。」
「なるほど、これからもその考えはもっておかないとな。…そういえば、間?から渡された紙ってなんでさわれたんだ?それに、なんて書いてあったんだ?」
「あの紙はリーセルって言う、次元干渉が出来る物質で作られてたらしくてね、だから2.5次元のボクが3次元に干渉できたんだ。紙には、律の家の住所と、律の中で過ごせってこと、あとはまだ話せないこと。」
「いろいろ気になるけど、まずリーセルってのは人工的物質だよな?それも間が作ったのか?」
「そうだね。これがないとボクも君も力を使えないらしいから、間違いなく関連して作られたものだと思う。」
「次元干渉って凄すぎんだろ、天才じゃん間。」
ガチャ、とばあちゃんがリビングに入ってきた。
「何?ばあちゃん?」
やばい。1人で話してると思われたか?
「何か手紙が来てたから。それだけ。あんまり大声で歌いなんなよ〜。」
「う、うん。ありがとう」
あ、なんか1人で歌ってるやつだと思われてた。嫌なんだが。
「やばいな、ここにずっといるのは危険かもしれない。てか、危険なやつだと思われる。」
「ま、まあとりあえず手紙読んでみようよ。」
差出人は…
「名無し?…新設 日本高等学校 入学のお知らせ。なんだこれ?」
読んでいただきありがとうございます。
まずいですよこれは…