自分より自分
旋は話し始めた。
「まず、ボクはこの国の政府に作られたんだ。」
「旋のように、3次元に飛び出す2次元のような曖昧な存在を作ることができる技術が、17年も前に完成していたことを国が秘匿しているってことか?」
「うん。秘匿すべき技術であると、この国が定めたんだ。その理由を話す前に、ボクのことを話さないといけない。
まずこの技術の正体は、2次元空間でしか出来なかったようなことを3次元、つまり現実で出来るようにするものなんだ!」
それはつまりアニメとか漫画でみた、あんな技やこんな技を…。厨二病心が疼いた俺はテンションが上がった。だが、同時にその技術の危険性にも気づく。
「ワクワクする気持ちもあるけど、かなり危険なものなんじゃないか? これも使う人によっては…」
「まさにそれが大きな問題の1つなんだ。君だけに特別にボクがいるわけじゃない。おそらく君と同年代に生まれた人達にボクみたいな存在がついていると思う。そしてその中に悪用する人もいるかもしれない。」
「もしいるとしたら、これから見つけていかないといけないな。」
「飲み込みが早いね! さすがシンク…」
何をいいかけてやめたのかわからないが、早く話を進めようと思った俺は
「飲み込みが早いのは、話しているのが自分だからじゃないか?」
と、ちょっとかっこつけて言った。
「ふふ、かっこつけで言ったことだろうけど。…嬉しいな。 …言うつもりはなかったんだけど、やっぱり言うよ。」
「どうしたんだ?」
なぜかすでに、旋が自分であることを受け入れつつあった俺は、急に空気が変わったのを感じてそう問いかけた。
「ボクのデータ上の人生は生まれた時にはもう終わっていたんだ。律が生まれた時にスキャンされた最大限の可能性がボクだから。ボクは君が0歳の時にすでに17才だったんだ。それからはずっと君の中で君と同じ感覚を味わっていた。なぜか今日きみにだけ姿が見えらようになったのかは分からないけど、分かる。
ボクは律の気持ちが分かるよ。」
ああ、そうか。また、心が熱くなる。
俺の人生に、同じ感覚を味わってきて、自分を理解してくれている存在ができたから。
それが、嬉しかったんだ。
そして、今の話を聞いてわかった。旋も1人だったんだ。仮想世界の記憶からの続きを、俺の中で1人で過ごしていたんだ。
「っ、そうか…ありがと。」
最近は誰にも言えてなかった感謝の言葉を久しぶりに口にした。
少しの静寂の後、旋が口を開く。
「 律、ボクが君に、生きる理由を与えるよ。
そして、それがボクが生まれてきた理由になる。
ボクを…信じてくれるか?」
今まで何かと、理由を探してきた人生だった。それを誰かに与えられて、しかも与えることができるなんて思っていなかった。
「ああ、俺はお前を信じる。」
2人の頬をつたう涙が、2人に信頼と生きる理由が芽生えたことを証明していた。
「君が信頼してくれたなら、あの方法が使えるよ。その方が多分、ボクのことも世界のことも知ってもらえるから。今日は、もう一回寝てくれない?」
「そういえば俺、デッドなんとかで気持ち悪くなって二度寝しようとしてたんだったな。分かった。でも、どうやって―」
「説明はもう疲れたから。また、夢の中で会おう。」
旋は空気のなかに消えていった。
確かに沢山説明させてしまったな
そう考えながら、俺は二度寝をした。