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俺とボクとの青春譚  作者: あららー
2度目の入学
2/9

動き出す

青年は過去から脱却して、前へと踏み出す。

西暦3000年を迎えた世界でも現代と変わらない闇と、現代より大きく発展した技術が交わる時、青年と世界の時間が動き出す。


 俺が今お世話になっているばあちゃんの家は、一軒家ではあるが部屋はあまり多くないので、個人のスペースはない。だから、寝る時はリビングに布団を敷いて寝ている。高校を辞めてからは、そこで一日を終えるようになってしまった。普通の高校生は授業を受けている時間に、俺はアニメや漫画、動画サイトをみて現実逃避している。高校を辞める前もみてはいたが、辞めてからは本当に一日中見るようになっていた。


 そして俺は今、寝る前に推しのVライバーの配信を見ようとしている。

 Vライバー。これはすごい。およそ1000年前で生まれたばかりだったこの職業は、3次元ではないことから嫌悪する人もいたとかいないとか。

 でも今、西暦3000年の世界では誰もが憧れる職業だ。第二の身体とも言える二次元ボディに自己投影する事で、現実ではできないことをできる楽しさや、3次元の身体的特徴に捉われることなくダンスや歌の力、エンタメ力などを評価されるところが大きく注目されている。AIに奪われることがないことも特徴だろう。

 これこそ3次元で凡人以下の俺が成り上がるための道だ、とか一時期思っていたが今は純粋にみる事に徹している。それは、この世界こそ才能が必要な世界だと知ったからだ。

推しのVライバー (くるる)メグ さんと出会ってからよく分かった。

 


 この人まじで綺麗な声してるな、話しも面白いし。

そんな感じで2時間ほど配信に熱中した後、俺は眠ることにした。






 夢を見ているのだろうが、こんな風景は見たことがないのに、妙に感覚が生々しい。しかも一人称視点だ。


 「寒いよ。誰か。助けてよ…」

視界は真っ暗でおそらくこれは雪が降る夜の外だろう。やっぱりまるで自分がこの状況にあるかのように体に冷たさを感じる。

唐突にその夢は終わって次の夢が始まる。

 

 「ごめんなさい…お母さん、お父さん。もう耐えられないっ」 

ドンっという音とともに感覚がなくなっていく。とてつもない衝撃を感じる。

今まで感じたことのない痛みを感じると同時に次の夢が始まった。


 「お前、親に逆らうのか!偉そうに!おまえは!何様なんだよ!」

痛い、大きな男が俺を殴っている。いや、俺じゃないのか?こんなやつにはあったことないだろうし、聞こえてくる泣き声は多分、この視点の人のものだろう。小さな女の子の声。

この夢も男の拳が顔に飛んできたところでいきなり途切れた。


その後も同じような、知らない誰かの視点と痛みを感じた。何人だろう。おそらく全員違う人だと仮定すると、100人近くのものを感じたと思う。形容し難い気持ち悪さがある。


俺は目が覚めても気持ち悪い感覚が晴れず、二度寝をしようとした。


「おはよう」 

ずいぶん爽やかだが、聞いたことない声だ。


「え、誰?」

変なやつが家に入ったのかと思ったが、声は直接頭に話しかけてきてるような感覚だ。平静を装いながら俺は周りを見渡した。


白いサラサラの髪に青と緑のオッドアイ。身長も見るだけで180くらいはありそうだ。

俺は見惚れてしまった。あの夢の気持ち悪さも引いていた。

誰かわからないが、俺が憧れたものをそのまま体現したような人がそこにはいた。


「かっこいいですね、誰ですか?」という2つの率直な気持ち。なぜか敬語を使ってしまった。


笑顔でその男は言った。

「ありがとう。ボクは黒世律だよ、よろしくね。」

なんだこいつは。馬鹿にしてるのか?

急に腹が立ってきた。

「俺だよ、黒世律は。そんなイケメンフェイスで冗談はいい。本当に誰?」

敬語はもう使ってなかった。

「反応は予想通りかな。でも、本当に黒世律なんだ。ボクも。」



「  え?  」



 とりあえず俺は詳しく話を聞いてみることにした。

俺と同じ名前をなのるこいつが言うには、こいつは本当に俺らしい。要約すると、俺とは別の世界からきた俺がこいつらしい。見た目が俺と全く違うのは人生が全く違う世界線の俺だからと言うことだった。


「待て待て、それはそのオッドアイと白髪の説明にはならないだろ。身長とか顔とかだけでも怪しいのに。」


「それはまあ、こっちで体作る時におまけしてもらったんだよ。」


「へあ?」

さらに詳しく話を聞くと、その体は本当に存在してるわけではないらしい。パラレルワールドというか、あくまで科学的研究の結果から導き出された俺の身体の可能性の最適解がこいつで、姿は俺にしか見えないらしい。触ってみると実体もなかった。なるほど、だから頭に直接声が聞こえるように感じたのか〜。

いや、よく分からない。


「よくわかんないけど、Vライバーみたいだな。」

と俺は少し興奮していた。


「そういう感想かあ、この世界線のボクも中々面白いね。気に入ったよ!」

 

なんなんだこいつは、俺にしては自信家すぎるだろ。ますます俺か怪しいな。そんなことを思いながら、他にも色々知りたかったことを思い出して、質問してみた。


「それが本当だとして、誰に何のために作られたんだ?まず、科学的研究って何だ?

科学技術とかはVライバーに興味を持って調べたから色々知ってるつもりだったんだが。

実体がないホログラムみたいなものが意思を持っていて、しかもそれが別の世界線の自分だなんて。

それにそうだ、今日見た夢もおまえに関係あるのか?」

聞きたいことが多すぎてつい早口で問いただしてしまった。


「落ち着いて。んー…それを話すにはまず、この世界の闇に触れないといけないね。今日見た夢はその闇の一部分だよ。」


「やっぱ関係あるのかよお前。あれめっちゃ気分悪くなるんだぞ?」


「さっきからおまえおまえって言ってくるけど、ボクは君だよ?」


 一理あるか。


「じゃあなんて呼べばいいんだよ。おまえが自分で考えたら呼んでやるよ。ただし律とか無しな。自分の名前呼ぶのは恥ずいから。」


「そうだな…ボクは旋って呼んでもらおうかな。」


「え?千?神隠しか?」


「違うよ、旋律の旋。律は旋律の律だろ?2人合わせて旋律ってなんかかっこよくない?」

さすが俺(仮)だな。


「厨二病っぽいけど、嫌いじゃねえ!」


「一言多いよ律。」

笑いながらそう言うこいつを見てふと思った。

誰かとこうやって楽しく話せるのは久しぶりだ。高校の友達以来。

そう思うと、やっぱりこいつは…旋は俺なのかもしれない。

「悪かった、旋。話しの続きを聞かせてくれ。」

そういうと、旋はふふ、と笑って続きを話し始めた。


「あの夢は、世界の闇に殺されたと言ってもおかしくない。そんな子供達の感覚(きもち)だよ。律は自分のこと不幸だって思ってるだろ?」


「そうだな」


「あの子たちも不幸なんだよ。命を奪われたり自ら命を絶ったり。順番を決めるものじゃないけど、

律よりも不幸だ。」


そうだなと思った。

 俺も母から暴力を受けていたが、それは少なくとも死ぬようなものじゃ無かった。自殺しようと思ったことはあっても、結局今も生きているし。



「あの感覚は死者の残した物(デッドサッドメモリー)って呼ばれてるんだけど、本当に死者から記憶を読み取らせてもらったものなんだ。」


「待て、そんな科学技術聞いたことないぞ。いや、そもそもそんなことを言い出したら旋自体の存在も謎になってしまうな。」

だが、これは聞いておかないといけない。

「それは、死体を弄って記憶を取り出したってことか?そうだとしたら…」

「違うよ。記憶を読み取るのは本当に3秒とかしかかからないスキャナーで読み取れるから。もちろん理由もなくそんなことはしない。

律は、その記憶をみて何を感じた?」


 まず思ったのは、あれは世界を変えられるものだ。誰かの感覚をそのまま共有できる。自分の感覚を全くの他人が味わう。誰かを誰かが理解するのにこんなに適したものはない。俺が望んでいたもの。ただ…


「これがもし、良い事に使われるなら俺が望んでいる世界に近づくのかもしれない。でも、悪い事に使われてしまうなら、世界はさらに悪くなる。」


「まあ、いつの時代もそうなんだけどね。強い大きな力ほど使う人によって左右される。あ、でもこれは誰でも見れるものじゃないからそこまで心配することはないよ。」


「どういうことだ?」


「律は今までの人生で凡人以下だと、自分は不幸だと思って生きてきただろ、多分それは概ね間違っていない。」


「それは、知ってるよー。」

あまり向き合いたくない事実だから、口に出すな!と心の中でつっこんでしまう。


「でも、ボクがいれば律は天才だよ。文字通りね。

神様からの成り上がりのチケットを君は持っているんだ。」

 体が熱い。旋に言われたことの意味を理解したわけでもないのに、自分が天才だと言われるだけでここまで体が熱くなる。自分に言われた言葉だけど、だからこそ響いているのかもしれない。


俺を、知りたい。変わりたい。


「教えてくれ俺のことも、旋のことも。」






 ーこの日、俺の人生がまた動き始めた気がした






















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