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異世界ヒーロー  作者: みやび
ヒーローへ
5/5

そして彼女は目を閉じた。

私は不幸に愛されている

幼い頃に親に捨てられ町のはずれで子供時代を過ごした

腐りかけたパンを拾って食べ泥水をすすった事もある

生きることで精一杯だった

こんな生活が続くのかと思っていた時

私に手を差し伸べてくれた人がいた


その人は暖かい部屋で料理やお風呂

寝る場所や衣服も提供してくれた。

ああやっと私も幸せになれるのかもしれない。

そう思えた。

…でもそれは違った。

冷静に考えてみればわかる事だ。

この世の中に善人なんていない

施しを与えるのであればそこには必ず裏がある。


1週間ほど経った時、その日はきた。

いつも通りに食事を運んできてくれて

私はそれを喜んで食べていた

その時

目眩と頭がぼんやりとしてきて私は床に倒れた

食事に睡眠薬を盛られたのだ


-----そして起きた時にはここにいた。

殺風景でなにもない鉄格子の牢屋に。

恐らく奴隷商人に売られたのだろう

自業自得だ

何も考えず生きてきたからだ

何も抵抗せず生きてきたからだ

他人に施しを受けてその意味を考えず甘えたからだ

睡眠薬を盛られ薄れていく意識の中見たあの男のニヤケ顔を思い出す

自分が嫌になる


私は顔だけはいい。

そこに目をつけたあの男は私の身なりを整わせ

信用させたところで売り飛ばす

なんてありきたりな作戦なのだろう

もういい。もう終わりだ。

何も見たくない。何も考えたくない。

とりあえず眠ろう

風の音しかないこの牢屋で

絶望したくない私は

目を閉じた



「起きてますか。お隣さん」


この何もない場所に来てから一カ月が経った

来た時と変わった事があるとすれば

隣の牢屋の人と夜に少しだけ話をするようになった

何もする事もないしそれが私のほんの少しの楽しみになっていた。


「起きてますよ。お隣さん」


「あら、夜更かしさんですね」


「そちらこそ」


2人でフフフと小さく笑う


話を聞いたところお隣さんは子供の時に

親に売られたらしい。

買われては売られて買われては売られてを

繰り返し今ここにいるという

私は前から少し気になっていた事を質問する


「いつも起きてなにをしてるの?」


お隣さんは私と少し話をした後もいつもすぐ眠らず遅くまで起きているようだった

私はすぐに眠りにつくようにしている

何も考えたくないから

この先の事を考えたくないから


「…もし、この生活を抜け出せたら何をしようか考えているんです」


予想外の答えだった

私は驚いて返答に困ってしまった


「強いのですね…」


「この生活には慣れていますからね」


フフフとお隣さんはいつもより小さく笑った




その次の日の夜

お隣さんといつも通りに話をしていた時

告げられた


「明日ここを出る事が決まりました」


「…っえ?」


それはつまり買い手がついてしまったということだ


「どんな相手…でしたか…?」


「貴族様です。私の顔と体を見て購入を決めたそうです」


奴隷として貴族のもとへ行く

どんな扱いをされるのか容易に想像がつく

私は言葉が詰まってしまった

そんな私を見かねてかお隣さんは話を続けた


「大丈夫です。前も言った通り慣れていますから」


いつかこんな日が来ることはわかっていた

どちらが早いか遅いかだけの話だ

お隣さんは慣れていると言っている

でも私はそうではない

怖い逃げたい誰でもいい助けてほしい

今まで逃げていた現実を想像してしまい

お隣さんと話をしている途中に

私は目を閉じた


次の日の朝

私は隣の鉄格子が開く音で目が覚めた

お隣さんがついに売られてしまう

普段は誰もいない牢屋があるだけの部屋に大人が3人いる

奴隷が逃げない為の見張り役だろう

夜に少し話す仲だとはいえやはりどこか悲しい

お隣さんが牢屋を出て歩く音が聞こえる

外に行くには私の前を通った先にある階段を登るしかない

大丈夫だ

お隣さんは慣れていると言っていた

お隣さんならきっとうまくやるだろう

私が気にする必要なんて…


お隣さんが私の牢屋の前を通る


…私はハッとした

彼女は泣いていた

慣れているなんて嘘だ

本当は私と同じだったんだ

怖かったのに苦しかったのに助けてほしいのに

私に気を使って強がっていた…?


「どおして!!!」


私は無意識に大声で叫んでいた

監視役達とお隣さんが驚いた表情で私を見ている


「私達は幸せになりたかっただけなのに!

生きていればいつかきっといい事があると思って頑張っているだけなのに!」


「幸せになっちゃダメなの…?」


監視役が私に近づいて来る


「そんなの理不尽だよ…」


言いたい事を言えた

ずっと胸の中に隠していた想いを言えた

後悔はない


------そして私は目を閉じた




「そうだよな」


…っえ?

目を開けた私は目の前の光景に唖然とした

監視役の3人が倒れ、お隣さんの手錠と

私の牢屋の鉄格子が壊されていた。


そして…剣を背負った男性が立っていた



「幸せになれないなんて…そんなのは理不尽だ」


「だから俺が来た!」


私はまだ事態を飲み込めずにボーッとしていると


「お隣さんっ!!」


お隣さん…いや彼女が抱きついてきた

私はようやく事態を飲み込めてきたからなのか

涙が溢れてきた


「ッあなたは…?」


私がそう聞くと彼は眩しい笑顔で答えた



「ヒーローだ!」



























































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