異世界ヒーロー
「もうすぐあの時期だね!」
幼馴染であるまゆが興奮気味に僕に言ってきた。
あの時期とは、僕の住んでいるこの村で1年に1回開催される祭りのとある儀式の事だろう。
その祭りは僕が生まれる少し前にできた祭りのようで、この村にしては珍しく外からも大勢人が来るほど賑わう。
その理由はこの村の中心に聖剣があるからだ。
その聖剣は地面に刺さっており大人が何十人と力を合わせて引き抜こうとしても抜けない程だ。
村長曰く
「聖剣に選ばれし者にしか引き抜けんのじゃっ!!」
…だそうだ。
まぁ、そんな話を誰かれかまわず話しているうちに
あれよあれよと大勢の人が村に押し寄せてきたのだ。
我こそはと言わんばかりに毎日人が押し寄せて来て流石の村長もそんな状況をよしとせず1年に1回のみ
聖剣へ挑戦できる日を設けた事がこの祭りの始まりらしい。
だが、実際は聖剣なんて呼ばれてはいるがその剣が一体なんなのか。いつからそこに。なぜ抜けないのか。その全てが不明だ。
こんな祭り事のようになる前は
この剣は村の神様のようなものだったらしい。
村を出て外へ出稼ぎに行く時、森に食材を探しに行く時など何かあるときにはこの剣の前に行き御参りをするのが通例だったらしい。
なぜこの剣がそれほど祀られていたのかというと
この村は剣を中心として民家が建てられているからだ。
否が応でも村の中心にあるこの剣を意識せざるを得ない。
その考え方が剣を神にしたのだろう。
それが今じゃ祭りの出し物にされるなんて神も報われないなぁ。
「ミライも聖剣に挑戦するの!?」
まゆが僕にまた興奮気味に言ってきた。
「いや、僕はあまりそういうのには興味ないかな」
まゆは頬を膨らませて僕を睨んでいる。
いや、ホントつまんない男ですみません…。
我ながらそう思う。
「そんな事よりもうすぐまゆの誕生日だよね。何か欲しいものとかある?」
これが僕が今日まゆに聞きたかった本題だ。
「んー。何もいらない!ミライがいればそれでいいー!」
まゆが僕の胸に飛び込みながら言った。
まゆも僕も今年で17歳になる。
まゆの両親も僕の両親も僕たちが7歳の時に亡くなった。
以来、村の人の協力もあり2人でなんとかここまでこれた。
17歳。つまり成人になる。
まゆが先に成人になるけど僕も少し遅れて成人になる。
成人になると何がいいかというと村を出る事ができる。
町にでて商売を始めるもよし、冒険者になるもよし。
自由だ。
僕はまゆと町にでて商売を始めようと思っている。村を出て商売をしたい僕にはありがたいこの村は外から大勢の人が1年に1回やって来る。そんな人達に話を聞き、すぐには成功しないかもしれないけれど昔から色々考えて来た計画がある。
食べていくには申し分ないはずだ。
問題はまだまゆにこの話をしていない。
断られたりしたらどうしようと中々話せずにいた。
まゆの誕生日前には話さなきゃなぁ…
そうだ!来週の祭りの日に話そう!
そう心に決めた。