敵基地破壊
エリンは基地を破壊し尽くす。
兄カガンは原潜を。
機は次兄ミガンによる特別仕様機だ。機銃と機関砲を備えて2世代も5世代も前の戦闘機のようでミサイルを積まず身軽い。全て基地の奇襲攻撃の為だ。基地上空を嘗め尽くし爆撃したいとのエリンの要望の為だ。機銃は対空、機関砲は対地、対艦用だ。最も銃弾、砲弾の炸薬は極めて強大だから数撃つ必要はない。ポンポンと打つのみだ。従来の感覚からすれば気が抜けている。銃身が過熱されないのは利点でステルス仕様の妨げにならない。バンカーバスターは必要に迫られ搭載しているがこれも炸薬の性能故軽量化できた。また落としてしまえば帰りは高高度を一目散に逃げ帰れる。
単機の奇襲ではミサイルは使えない。数発落として終わりなら意味がない。全ては弾薬の性能に帰結する。そこから考え出されている。使用しているのはニトロ基、9個からなる新合成のナインニトロである。25㎜機関銃から発射される銃弾は50㎏爆弾に匹敵する。35㎜機関砲から放たれる弾は250㎏爆弾と変わらない。発射火薬にもナインニトロを少量使って射出速度は飛躍した。エリンの機の弾薬はきわめて豊富だ。バンカーバスターも積んでいる。B-9爆撃機10機に相当する所以である。
エリンは巨大基地を隈なく破壊する積りである。しかし基地は余りに大きい。グズグズしていたら夜が明ける。花火は夜のほうが良い。α級戦闘爆撃機はエリン同様軽やかに舞う。最後は山向こうの弾薬庫に決めている。戦闘機が緊急発進してきた。それを蚊を叩く如く撃墜する。発進するのを待っている余裕がある。やみ雲に撃ってくる弾が当たる筈がない。空に光跡を描くばかりだ。航空基地の戦闘機など全て破壊した。格納庫も破壊し尽くした。まだ軍港には多くの戦闘艦が停泊している。全てを轟沈させるつもりだ。原子力潜水艦ジョンKも見える。慎重に避けて、あらかたの艦船を撃沈した。次いで狙うは敵の頭脳だ。地表の指令部は破壊した。地下の施設を慎重に狙う。地表の目標を失ってエリンは悪戯娘のように舌を出した。どうしようかな。バンカーバスターはやみ雲に撃ったら穴を掘るだけだ。しかもナインニトロだ。隕石の直撃と変わらない。直径Ⅰⅿの隕石と同じかな。AIに聞こうと思ったがどうでもいいやと思いなおした。山の地下要塞は破壊したあとは地下の司令部だ。司令部には3発落とした.地中深く貫通したバンカー爆弾はそれでも盛大に火を噴き出し地表に大きなキノコ雲を作った。確かにシオンの国の80発も見ごたえがあった。機関砲に余りがある。格納庫に敵機が格納されているだろう。丁寧にお見舞いした。250㎏爆弾相当だ。天上も抜けるだろう。最後は弾薬庫だ。島の反対側の住民も地震だと飛び起きるだろう。
原始力潜水艦のハッチには乗組員たちが先を争って帰艦していた。緊急潜航に非常招集が掛かった。寝ぼけていた乗組員が我先にとハッチに飛び込む。その中にカガン大佐と潜入していた乗組員が居る。二人はエリンの活躍に盛大に火の粉を被っていた。やり過ぎだよ、少し呪っている。潜入は10年も前から行われていて、ようやく活躍の機会が来た。潜入隊員は4階の指令室に最短で走った。既に士官たちが出力を上げ潜航体制を取っていた。カガン大佐は入り口ドアをロックした。入って来ることは出来ない。船長・副船長などを躊躇なく撃った。残りの操縦員などは操舵室から追い出した。館内に窒素ガス充填の案内放送が流れる。総員退避せよ。潜入隊員が総員退避の手順を実行する。残り3分。タイムリミットがカウントされハッチは締められた。潜入隊員は自動潜航のボタンを押した。原潜は潜航し港から退避する。自動操縦に任せておけばいい。潜望鏡を上げエリンの活躍の後を眺めたいが原潜の複雑な操縦は出来ない。邂逅地点に向かおう。海図を見て行き先を入力した。3時間後、会合地点には海岸防衛の非武装の船が出張っていて潜水隊員たちが大挙乗り込んできた。見慣れない原潜の操作にあれこれかまびすしかったがやがて原潜は深度を増していく。
ァ国の巨大基地が破壊しつくされた。何十兆円の被害か想像もできない。ァ国は大海洋の支配を失いかねない。原潜が奪われたことは想像もできない痛手だ。だがァ国は何も出来なかった。わずか1機の戦闘爆撃機に破壊され、二人に原潜を奪われた。とても公表できない。他国が宣戦布告したわけでは無い。手を上げる先がない。基地が破壊されたことは隠したくても隠せない。
宇宙から破壊の跡がこれでもかと届けられる。全てのメディアがもはや喜劇だと囃し立てた。ァ国の建国以来の未曽有の出来事だ。政府が吹き飛んでおかしくないがむしろ防衛本能が先に立ったのか大統領は安泰だった。しかし最も戦力の整っていた基地が破壊された。およそあり得ない。だが基地が破壊されただけで占領されたわけでは無い。軍事バランスが崩れたとしても全体としては僅かだ。だが他の基地が攻撃されたら防げるか。一晩で基地が破壊されるなら世界にある基地をとても守れない。むやみに反撃しようにも原潜を盗まれている。それは眞に盗まれた。100万の軍人が恥じても埋められない屈辱だ。十分に核武装された原潜が盗まれるなんておよそこの世界にあり得るだろうか。
ㇿ国の海洋艦隊は衰えてさほどの脅威ではない。ただ原潜を覗いて。