敵基地奇襲攻撃
敵基地奇襲攻撃 聖戦の始まり
会議は散会しザエギ宰相とカガン少佐の親子が残った。力を溢れさせていた顔筋は皮膚の奥に隠れ、悲しみ色に薄く、両者死人のように表情を失っている。光る涙に僅かに命が見える。涙は流れず溢れそうになると引き悲しみを留まらせる。お互いの涙にミエンの姿を見て時間は止まり続けていた。
翌日貴族院から召還を受けた。一触即発の事態に震えたのだろう。悔やみの言葉もなく叱責から始まった。ザエギ宰相はやんわり非礼を指摘した。
「議長、1分間の哀悼の場を頂戴したい」
議長が皆に立つように促した。のろのろと物理的に重い腰を上げる貴族員たち。儀礼はお手のものの儀典官が悔やみの言葉を述べ皆が従った。急先鋒の議員が、気勢を削がれて、大きく咳ばらいをして、ザエギ宰相に対した。
「国体を危うくした事態にどう責任をとるか」
「交戦したとしても、数発ミサイルを撃ち合うだけでじゃれ合い程度で済んだ」
「そんな事が言えるわけないだろう」
「万が一撃ち落されても我が方は直ぐに救助・収容する体制にあったが、ァ国には無かった。従ってァ国が撃ってくることは無かった」
「ァ国を怒らせたことにはどう申し開きする」
「ァ国は怒りませんよ。逆、だと認識して頂きたい」
日国は猛然と抗議して然るべきなのに、貴族院はうやむやに済ませたいのだろう。
「ァ国大統領から遺憾の旨直接電話があった。我が国としては受け入れる」
「日国宰相の子供が撃墜された。偶然と見做すのは御目出たすぎる」
ザエギ宰相はァ国にとって目の上のたん瘤だ。その状況は貴族院の共通の認識だ。貴族院はァ国に恭順を示したい。
「一旦弱みを見せれば、ㇿ国、c国に付け入られる」
正論だ。だからァ国の懐に入りたい。
「だが故意の撃墜とは証明できない。自動防衛システムの誤射だと言われれば受け入れるしかない」
「おや撃墜は認めておられるんですな」
皆黙る。
「だったらねちねちとお得意の嫌味材料にすれば宜しいではないか。ちょっとの手柄を引き出せば宜しい」
大半の貴族院議員は苦虫を噛み殺すしかない。
日国は君主立憲制で国王がいる。しかし弱く表に出ることは無い。行政の長が宰相である。
「日国には気骨の宰相が居る。他国は手出しが出来ない。議員諸君に在らせられては安心して国務に励んでほしい」
ザエギ宰相は言いおいて悠然と席を立った。
その夜、父ザエギ宰相の元に子供たちが集まった。
聖戦の始まり
敵基地奇襲攻撃 1機のα級戦闘爆撃機が闇に紛れて敵軍港に向かう。ステルス性能に加え、水面3ⅿを飛行する戦闘機を認識出来るレーダーは無い。風防は雨に打たれ視界は無い。それでも戦闘爆撃機は正確に進む。
α級戦闘爆撃機は大都市を10機で壊滅できるB-9爆撃機の能力を1機で超える。搭載弾薬はTNT比のRE係数は驚異の39.5。C4でさえ花火に思える。爆轟は極めて強大で爆速はマッハ30を超え衝撃波は全てをなぎ倒す。
リゾート地にある軍事基地は軍人にとっても憩いの場である。攻撃されるとユメユメ思わない。延々と拡張を続けてきた基地は大海洋を支配し遥かな大陸にも睨みを利かせている。土曜日の深夜。歓楽街に繰り出した軍人も意地汚い夢の中だ。自動の防空監視システムに異常はない。忙しなく変わるモニターはいつしか催眠術に変わる。意識を失った目がモニターを監視している。
山の上のレーダードームが赤く染まった。次いで排水量4万トンの駆逐艦が火柱を上げた。避けた穴に2発目が命中する。駆逐艦は割け沈む。けたたましいサイレンが基地を襲う。赤いサーチライトが狂乱して辺りかまわず照らしまくる。黒い影は上空を通過し風が体を倒す。1機300億の戦闘機の格納庫が爆発した。次々爆発する。被害額に同情を禁じ得ない。黒い影は軍港に舞い戻る。避難を開始した空母艦載機が次々に落ち海に火を消した。
アルファ旧戦闘爆撃機の操縦席に座るのは16歳の少女、ザエギ宰相の4番目の子にして長女のエリンだった。この戦闘機を操縦できるのは少尉以上である。だからエリンは最年少の少尉である。ステルス機は肉眼では見える。夜の攻撃に備え光吸収率99%の塗料を塗られた機は真っ黒だ。昼間に見ると怖すぎてエリンは気に入らない。推力22トンのジェットは鳥が羽ばたく如く時折吹けば良い。滑空する機はエリンをバレリーナのように踊らせる。断続的なジェットの火は追尾不能で狙うのは不可能だ。