意地の張り合い。
交戦か、回避か。
「敵機みゆ」
護衛機の音声が会議室に流れた。皆腰を浮かせ驚いた。空軍が会議室と繋げたようだ。粋なことをする。
「待機せよ」
ザエギ宰相が述べ護衛機に伝えられる。
「了解」
数に負けていない頼もしい声が返った。
敵意は無い、救助を認めよ、と再度伝えよと外務担当者に命じた。外務担当はその旨を伝えている。相手からは同じ言葉が返る。
「当方に於いて救助に当たる。幸運を待たれよ」
「相手の艦艇はどこに居る」
近くには居ません、と海軍担当が回答した。
「なぜ?」
カガン少佐が思わず口にした。ァ国の真意が分からない。
ザエギ宰相が再び指示した。
「ァ国の僚機に次ぐ。貴国の13機はミサイルフリゲート艦にロックオンされている。無謀な行動は厳に慎むように要請する」
僚機と言ったのはァ国は友好国だからだ。パイロットがザエギ宰相の言葉を伝えた。
「確認したと翼で回答しています」
パイロットが敵機の様子を伝えた。13対3機で勝ち目はないのに落ち着いた語調だ。外務担当者が、人命救助は時間との戦いだ、侵入許可を求める、と電話口で叫んでいる。ザエギ宰相が警告ミサイルを撃てと命じた。警告ミサイルは指定位置でフレアを出したのち爆発する。直ちに警告ミサイルが発射された。暫し流れる静寂の後、パイロットが
「警告ミサイル確認」
と伝える。しばし後、
「敵機に変化なし」
と冷静な分析を伝える。
「護衛の3機が10分後合流する」
パイロットが刻々と伝える。
「攻撃態勢を取れ」
ザエギ宰相が命令した。外務担当者おろおろするばかりだ。護衛機は敵機の上空を取るべく急上昇した。下と上から敵機を狙う作戦だ。突然不利な位置に置かれた敵機は混乱した。外務担当者が、攻撃する意図はない、侵入を許可せよ、と涙声で叫んでいる。パイロットも同じ言葉を繰り返す。敵機は空で止まっているように見える。敵機は迎撃態勢は取らない。指示を待っているようだ。
「警告ミサイルで取り囲め」
ザエギ宰相は引く気は無いようだ。
「敵機の周囲に警告ミサイルを確認。敵機に逃れる方位は有りません」
パイロットが報告する。相手に話す声も聞こえる。
「かって僚機だったパイロットに次ぐ。ミサイルの数で貴君に勝ち目はない」
ァ国と共同訓練した時の知り合いのようだ。
「侵入せよ」
ザエギ宰相が命令した。
「これより人命救助に向かう。時間は無い。邪魔をするな」
パイロットが冷静に伝えている。救難機が護衛機の後ろに付いた。そして一直線に救助に向かった。敵機は真横につけている。
外務担当者が震えている。どうした? とみな視線を向けた。真っ青な顔で竦んでいる。
なにがあった? 恐る恐るといった風情で、
「只今伝達がありました。少年の遺体を収容した。直ちに届ける、とのことです」
皆が宰相に視線を移した。宰相はじっと空を見つめたまま動かない。何か言葉を発せる人は居ない。怒りの爆発が支配を強める。どうする? 報復? だが場はじっと動かない。宰相は身動きしない。やがて厳かな空気が広がって来た。宰相の顔に悲しみが浮かぶ。誘われたように皆の眼に涙が浮かび、流れる。
「遭難海域に到着。救難艇の動きがみられます」
パイロットが場違いの声で話す。誰も返事しない。カガン少佐が宰相からマイクを奪い、ミエンの遺体が収容された、駆逐艦とミサイルフリゲート艦が収容に向かう。護衛機は艦艇の護衛に当たれ、と命令した。
「了解」