弟を殺される。一触即発
救助のため海域侵入許可を求めたがなんと、拒絶された。手は有るか?
弟ミエンの練習機ケイゼットの動きが瞬間で止まった。異常を感知した緊急システムが機の情報を発信する。突然飛び込んできた位置情報に管制室の動きが止まった。全員が立ち上がり固まった。機がきりもみで落ちているようだ。どうした? 撃墜されたようではないか。きりもみで落ちていく機は枯れ葉のようにゆっくりだ。分解している? 推力は全くない。自立落下だ。機の異常で爆発したのか。いや。瞬間の軌跡の変化は撃墜を表している。爆発とは違う。負の軌跡がある。やはり撃墜されたのか。位置を見て皆驚いた。ァ国の防空識別圏に深く入り込んでいる。では警告もなく撃墜されたのか。
直ちに遭難情報を出しァ国に救助を依頼した。同時に撃墜事象に備え緊急危機対応会議が招集された。司会の言葉をさえぎってザエギ宰相が口を開いた。
「現状の説明を簡潔に頼む」
緊張している各担当に変わり、息子のカガンが答えた。
「艦艇と航空機を派遣しました。ァ国に水域への侵入許可を求めている所です」
「何時救助に当たれる」
「救難機は2時間後です。救助ボートと隊員を空中投下します。救難飛行艇の到着は3時間要します」
「分かった。事故の詳細は?」
「現在、ミエンが脱出できたかは分かりません。自動で発射されますから可能性はあります」
「ァ国の対応は?」
「救助に向かっている。ァ国において責任をもって対応すると返事をもらっています」
「逐次報告を求めるように。で事故の原因は?」
「空中分解ですが、事故か攻撃されたのかは不明です」
「なぜ攻撃されたと考える?」
「空中分解なら、残機は進行方向にある程度進むはずですが、ほぼ垂直に落下しています」
「撃墜とは穏やかでないな。なぜそう考える」
「ミエンはァ国水域に600kmも侵入しています」
「そうならば警告があるだろう」
「ミエンの練習機はァ国も認識しているはずです。ミエンだからとも考えておかなければなりません」
「いやいや、ミエンと分かっているなら攻撃するはずがない」
そこに報告が入った。
「ァ国において救助するから日国は対応に及ばない。ァ国水域への侵入は許可しない」
担当者が緊張し震える声でメモを読んだ。報告後も直立して動けない。全員の血がサッと引いた。蒼く固まり動けるものは居なかった。なぜだ、あり得ない対応だ。しかし呆然としていることはできない。思考に戻ろうとそれぞれが動きを見せ始めた。だが意見を述べるものは居ない。ザエギ宰相が、
「戦闘機を護衛につけよ。引き続き救助に当たれ」
陸、海、空、各担当者は目を点にしてザエギ宰相を見た。あり得ない、交戦に発展する。自重すべきか。誰も口を開けるものは居ない。
「その旨、伝達しろ」
命令された外務省の担当者が立ったが、席を離れることは出来ないようだ。
「どうした。早くしろ」
「しかし、慎重に考えなければなりません」
「慎重と時間は相いれない。この場で伝えよ」
命令に従うしかない。思考を遮断した風な顔で、ァ国大使館に伝達した。
「海、空は直ぐに動け」
海、空の担当者は即座に参謀本部に、作戦を立案し実行しろ、大声で伝えている。皆はそれを聞いている。
「護衛機は負いつけるか?」
「ァ国水域に入る前に追いつけます。ほぼ同時になりそうですが」
ガガンは空軍の少佐である。ガガン少佐が口を開いた。
「ァ国の対応はスクランブル程度でしょう。ここは無人ドローンとさらに戦闘機を追加すべきです」
「無人ドローンは何機出せる?」
「100機出せばァ国は引くでしょう」
「相手の布陣はどうなっている?」
ザエギ宰相がさらに尋ねた。外務省の担当者が、
「布陣って。交戦状態ではありませんよ」
と割って入った。話が危なすぎる。
「勿論だ。交戦しようとは思っていないよ。それは相手も同じだ」
「しかし危険な賭けです」
「相手も同じだ」
空軍の担当者にメモが届けられた。
「G島とM島からスクランブルが見られました。その数およそ13機」
「我が護衛機は何機だ」
「3機です」
相手にならない。追加の護衛機も3機しかないと担当者が報告した。交戦できない、引くべきか。ザエギ宰相も流石に黙った。空軍の担当者が、
「交戦できません、引き返すべきです」
と分かっていることを述べた。海軍の担当者が報告を受けた。
「天の配剤か、駆逐艦とミサイルフリゲート艦が居ます。13機程度なら対応可能です」
と晴れ晴れしく場を仕切った。