帰省 2
テントへ向かうとすでに毛布が用意されていた。
野営なので柔らかい布団というわけにはいかないが、そこは我慢しよう。
「これが野営というものなのですね!」
「楽しみですわ!」
先程まで俺と寝ることに緊張していたリーシャたちがワクワクといった様子でテントに入ってくる。
どうやら先程の会話で緊張が解けたようだ。
「王女だから野営とかしたことないよな。屋敷の寝心地と比べると格段に悪いと思うが、そこは我慢してな」
「そんなことありませんわ!」
「カミト様と一緒に寝られるのです!たとえ布団のない場所でも最高の寝心地です!」
「そ、そうか……」
ストレートに言われ、照れてしまう。
「じゃあその……寝るか」
「「はいっ!」」
俺は床に敷かれている布の上に横になると、両サイドにリーシャたちが横になる。
そして両腕に抱きついてくる。
「っ!」
「一晩中カミト様に抱きつけるなんて幸せですわ」
「私もです、お姉様」
そう言う2人はとても幸せそうな顔をしている。
(こんなに幸せそうな顔をするのなら時々、屋敷でも一緒に寝てみるか。俺が我慢すればいいだけだし)
成長途中の柔らかい胸の感触を両腕で感じつつ俺は思う。
「リーシャ、レオノーラ。大好きだよ」
「わたくしもですわ」
「私もカミト様が大好きです」
そう言って2人が俺の頬にキスをした。
翌日。
2人を襲うことはなく、朝を迎える。
リブロで生活していた頃は毎夜、クレアから抱きつかれていたため、2人が抱きついた状態でもある程度眠ることができた。
「おはようございます、シャーリーさん、フィーネ先生」
朝早くから朝食の準備をしている2人に挨拶をする。
ちなみにリーシャたちは「カミト様……」とか呟きながら未だに寝ていた。
「夜の見張りもしてくれたのに朝食まで準備してくれてありがとうございます」
「いえいえ。これも仕事ですから」
さすが女王陛下直轄の組織『シャドウ』のメンバーだ。
睡眠時間が不足しても問題ないようだ。
それにもう既に戦闘が可能な服装に着替えている。
シャーリーさんとフィーネ先生は身体のラインが分かるほどのピッチリとした忍者服を身につけており、シャーリーさんはスラッとした綺麗なスタイルに、フィーネ先生は忍者服を押し上げるほどの巨乳に目がいってしまう。
俺は2人にエッチな視線を向けないよう話題を提供する。
「そういえばクレアと寝たみたいですけど、クレアの寝相はどうでしたか?」
「「………」」
俺の質問に2人が黙る。
「ありがとうございます。今の反応で分かりました」
どうやら盛大に迷惑をかけていたようだ。
「カミトさんとクレアさんはリブロではテントくらいの広さで寝ていたと聞いてます。いつもクレアさんの抱き枕になってたんですね」
「あはは……もう慣れました」
同情のような視線でフィーネ先生が言う。
「ところでずっと気になっていたのですが、フィーネ先生って学校ではドジばっかりしてますが、『シャドウ』関連の仕事だと変なミスはしませんね」
「当然です。大人ですから」
「その返答好きですね」
“ぷるんっ!”と巨乳を揺らしながら堂々と答えるが、毎度この返答ばかり返ってくる。
(大人は何もない床で何度も転んだりしません)
という言葉を声に出したかったがグッと堪え、シャーリーさんに視線を移して返答を促す。
「はぁ。フィーネは今の服装……つまり忍者服を着てる時以外はポンコツなんです」
「なっ!だ、誰がポンコツですか!」
自分のことをポンコツだとは頑なに認めないフィーネ先生が声を上げる。
ちなみに転けた時は毎回床のせいにしている。
「昨夜、寝巻に着替えた貴女は何をしましたか?」
「えっ、えーっと……」
「危うくテントが燃えるところでしたね」
「うぐっ…」
シャーリーさんの発言に言葉が詰まるフィーネ先生。
「そ、そんなことが……」
「はい。テントが燃えてクレア様が燃え死ぬところでした。なので昨夜は盗賊たちから皆様を守るというより、フィーネからクレア様を守ることに重点を置いておりました。クレア様は爆睡してましたので大変な目に遭ったことには気づいてないようですが」
「………」
どうやらフィーネ先生のポンコツ具合を舐めていたようだ。
「あっ、あれはえーっと……」
「何ですか?何か言い訳でもあるのですか?」
「……あ、あの時はクレアさんの近くに虫がいたので追い払おうとしただけで……」
「追い払おうとして火属性魔法をテントの中で放とうとしたのですね」
「……はい」
“しゅん”となって落ち込むフィーネ先生。
普段は落ち着いた大人な女性といった感じだが、シャーリーさんとの会話では可愛らしい。
その姿に笑みを溢しつつ、俺は口を開く。
「まぁ、シャーリーさんのおかげでクレアが無事だったので気にしなくていいですよ」
「あ、ありがとうございます、カミトさん。今回の反省を活かし、次は風魔法で処理しようと思います」
「「………」」
(テントが破れるわ!)
そうツッコミたかったが何とか飲み込む俺だった。