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冒険者学校へ 6

「ユメ様にそのような呪いが……」

「そして呪いを解除するには心から愛する人へキスをしなければならないのですね」


 俺はユメさんの鑑定結果をリーシャとレオノーラに話す。


「あぁ。俺も力になりたいが、恋愛のこととなると俺よりもリーシャたちの方が力になれるはずだ」

「わかりましたわ!わたくしとレオノーラにお任せください!」


 リーシャの発言にレオノーラも頷く。


「ありがとう。頼りにしてるよ」


 とのやり取りをした翌日。


「今後はできるだけユメさんと2人きりで過ごせ?」

「はいですわ!」


 リーシャが元気に応える。

 その横には頬を染めたユメさんがいる。


 朝早く屋敷を出たリーシャとレオノーラが、冒険者学校に着いた俺へ、到着早々そんなことを言い出した。


「ユメ様は心から愛する人へキスしなければ呪いを解くことができません!しかも、キスされた相手もユメ様のことを心から愛していなければなりません!」

「だからカミト様にはユメ様に好きな人ができた時、ユメ様のことを好きになってもらえるようアプローチの練習が必要ですわ!」

「な、なるほど。要するにユメさんが好きな人を堕とすための練習台になってほしいということか」


 2人の意図を理解する。


「わかった。リーシャたちが言うなら引き受けるよ」


 婚約者がいるのに婚約者でない女の子と2人きりで過ごすわけにはいかないが、婚約者であるリーシャたちが許可したので、俺は引き受けることにする。


「ありがとうございますわ!」


 俺にリーシャが感謝を伝えた後、ユメさんに声をかける。


「ユメ様!頑張ってください!わたくし達は応援してますわ!」

「私たち、ユメ様なら大歓迎ですよ!」

「は、はい!が、頑張ります!」


 ユメさんが胸の前で両手を握り、気合いを入れる。


(応援?大歓迎?変な声かけだな)


 ユメさんへの声かけに違和感を感じつつも、俺は今後、ユメさんとできるだけ過ごすこととなった。




「そ、その……よ、よろしくお願いします」

「あ、あぁ」


 リーシャたちのお願い通り、俺はユメさんと2人きりで過ごす。

 今は午前の授業が終わり、昼休憩となっている。

 俺たちは周りに誰もいないベンチに腰掛け、持参した弁当を食べる。


 学校には学食というものがあるが、屋敷に料理人のいる俺は料理人が作ってくれた弁当の方が美味しいので、学食を利用しない。

 しかし大半の生徒は学食を利用するため、ユメさんが弁当を持ってきていることに驚いた。


「ユメさんは学食を使わないのか?」

「は、はい。学食より弁当を自分で作る方が安上がりなので」


 2人きりになってからというもの、全く俺と顔を合わせてくれないユメさんが、ぎこちない様子で答えてくれる。


「へー、ユメさんは自分で作ってるんだ。えらいね」

「はぅ……そ、そんなことありませんよ。安上がりなので弁当を自分で作ってるだけです」


 と言いつつも褒められて嬉しそうなユメさん。


(ユメさんは家で待遇が良くないとフィーネ先生から聞いていたが……まさか自分で弁当を作っているとは……)


 剣術の名家で産まれたにもかかわらずスキルが使えないことで、家では肩身の狭い思いをしているらしい。

 冒険者学校に通わせてるだけ、ありがたく思えとのことだ。


 その話を聞き、俺は俯きながら嬉しそうな顔をしているユメさんの頭に手を置く。


「あっ……」

「ユメさんはえらいよ。自分の境遇を変えようと努力して頑張っている。そんなユメさんを俺はすごいと思うよ」


 頭を撫でながら優しくユメさんに伝える。


「……ぐすっ…」


 すると俺の言葉を聞いて涙を流し始めるユメさん。


「うぇっ!ちょっ、ユメさん!?」

「す、すみません……ぐずっ……そ、そんなこと言ってくださったのはカミト先生が初めてで……うぅ……」


 そう言ってさらに涙を流し始める。

 そんなユメさんを見て、あたふたする俺。


(こ、こんな時は……っ!そうだ!)


 とある方法を思い出した俺は、隣で泣いているユメさんを自分の胸に引き寄せる。

 そして先程と同じように優しく頭を撫でる。


「カミト……先生?」

「昔、妹のクレアが泣いてた時、毎回俺の胸を貸してたんだ。それでクレアは泣き止んでたから、ユメさんも泣き止むかなぁーって。周りには誰もいないから、気が済むまで泣いていいよ」

「うぅ……うわぁぁぁぁんっ!」


 俺はユメさんに胸を貸し、ユメさんが泣き止むまで頭を撫で続けた。




「お、お見苦しいところをお見せしました……」

「気にするな。これも先生の仕事だからな」


 ユメさんが真っ赤な顔で言う。

 長い前髪で見えないが、きっと両眼は赤くなっているだろう。

 その様子を見て、ずっと気になっていたことを聞く。


「なぁ、ユメさん。なんでユメさんは前髪を伸ばしてるんだ?」

「え、えーっと……じ、自分に自信がないから……です」


 そう言うユメさんは今もなお俯いている。


「俺はユメさんの顔、可愛いと思うぞ」

「はぅ!」


 自分に自信を持ってもらうために言った何気ない一言に、変な声を上げるユメさん。


「ど、どうした?」

「い、いえ。その……本当にカミト先生はユメのこと、可愛いと思いますか?」

「へ?」


 まさかの切り返しに俺は聞き返してしまう。


「そ、その……カミト先生はユメのこと、どう思ってるのかなーと思いまして……」


 手をモジモジさせ、恐る恐る聞いてくる。


「そ、そうだな。努力家で可愛い女の子だと思ってるよ」

「かっ、可愛い……」


 素直に褒めたらユメさんの顔が真っ赤になる。


「あぁ。だからユメさんの力になりたいと思ってる。困ったことがあれば俺が力を貸すから、自分に自信を持ってほしいな」

「あ、ありがとうございます。カミト先生……」

「あぁ。いつでも頼っていいからな」


 そう言って再びユメさんの頭を撫で、2人で食事をした。




 翌日。


「だ、誰!あの娘!」

「こんな可愛い娘がこの学校にいたなんて!」


 等々の声が学校に到着した俺の耳に入るが、俺は気にせず教室まで歩く。


 すると、「カミト先生!」と、ユメさんが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 そのため振り返ると、リーシャたちに負けず劣らずの美少女がいた。


「え、えーっと……も、もしかしてユメさん?」

「は、はい!な、長かった髪を切ってみました。ど、どうでしょうか?」


 ユメさんが上目遣いで不安そうに聞いてくる。

 今のユメさんは前髪を短く切り、腰までの長さがあった黒髪も肩の辺りまで短くなっている。

 そして前髪を短く切ったことでクリッとした可愛らしい大きな目も現れている。


「あぁ。とても可愛いよ」

「そ、そうですか。えへへ……」

「っ!」


 初めて見るユメさんの嬉しそうな顔にドキッとする。


「こ、これからはカミト先生を堕とすために頑張ろうと思います。か、覚悟してください!」


 そう言ってユメさんが走り去る。


「好きな人を堕とすための練習台である俺を本気で堕としに来るのか。ってことはユメさんが呪いの解除に本気で挑み始めた証拠だな」


 そう思い嬉しくなる。


「簡単に堕ちないよう頑張ろう!」


 そう呟いて俺も気合を入れた。

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