冒険者学校へ 4
先ほどの模擬戦を踏まえて指導を行う。
「みんなの技量は今ので分かった。改善して欲しい点もたくさん見つけた。まずはサヤ」
俺はサヤとシャルちゃんに改善点を伝える。
【剣聖】スキルで剣聖の技術を引き継いだ俺なら剣術の指導は簡単だ。
「2人は今言ったところを重点的に特訓してくれ」
「「はい!」」
「そしてユメさん」
「は、はい」
自信なさそうに俯くユメさん。
「剣筋がとても良い。家で何千、何万と剣を振ってきたことがわかるぞ」
「……え?」
褒められるとは思わなかったのか、ユメさんが驚きの表情となる。
「この剣術は俺に匹敵するレベルだ」
正確には500年前の『剣聖』に匹敵するレベルだが。
「だからスキルが使えないのはもったいないと思う。ユメさんさえよければ、ユメさんがスキルを使えない原因を考えてもいいか?」
「そ、それは構いませんが……カ、カミト先生の時間を無駄にしてしまうと思います」
きっと色々な方法を探したのだろう。
ユメさんの言葉から諦めていることが伝わってくる。
だが、俺はユメさんが本心から諦めているとは思っていない。
そのため俺はユメさんの手を握る。
「っ!」
突然握られたことにユメさんの体がビクっとなる。
「ごめん、突然触って。でも触って確認したかったんだ。ユメさんの手を」
「ユメの手……ですか?」
「あぁ。そして分かった。ユメさんが毎日欠かさず剣の素振りをしていることを」
女の子には似合わないマメだらけの手。
「これはユメさんが本心では諦めていない証拠だ。俺はそんなユメさんを見て、ユメさんのためになりたいと思った。だから全然無駄な時間じゃないよ」
俺はユメさんに優しく語りかける。
「………そ、そんなことを言ってくださったのはカミト先生だけです」
俯いているため表情は分からないが、俺の説得は成功したようだ。
「よし。じゃあ、時間の許す限り今日は俺と模擬戦をするぞ。指摘された部分の練習は1人でもできるからな」
「「はい!」」
その言葉に返事をする2人と、握られた手を見つめるユメさんがいた。
臨時講師初日が終わる。
「うーん、どうしたものか。やっぱり賢者さんで原因を調べるのが手っ取り早いか」
俺は屋敷のリビングでユメさんのことを考える。
「カミトくん、今日の臨時講師はどーだったの?」
するとヨルカさんから話しかけられた。
「あぁ。大変だと思ったよ」
俺は素直に感想を伝える。
「しかも教える子たちがみんな女子生徒しかいないんだ。年頃の女の子ばかりで気を使うよ」
「へー、リーシャちゃんとレオノーラちゃん以外も女の子なんだ」
「あぁ。メルさんの妹のサヤにセリアさんの妹のシャルちゃん。そしてユメさんっていう女の子だな。あ、それと先生もフィーネさんっていう女性だったなぁ」
俺が簡単に出会った人を説明すると…
「なるほど。最後の1人は冒険者学校で出会ったのか」
ボソっと何かを呟く。
「……?どうしましたか?」
「ううん、なんでもないよ。臨時講師、頑張ってね」
そう言ってヨルカさんが立ち去る。
「なんだったんだ?」
俺は首を傾げながらヨルカさんを見送った。
翌日、今日も俺とメルさんは臨時講師として冒険者学校へ足を運ぶ。
そして昨日と同じように俺はサヤとシャルちゃん、ユメさんの3人を指導する。
「指導を始める前にやりたいことがあるから、サヤとシャルちゃんには個別訓練をお願いするよ」
開口一番、俺は2人にそう伝えてユメさんを見る。
「ちょっと時間もらえるかな?」
「は、はい」
ユメさんが俯きながら応える。
それを聞いて俺とユメさんは練習場の端へ移動する。
「今日はユメさんがスキルを使えない原因を考えようと思うが……もしかして俺って怖い?」
2人きりになってからというもの、ユメさんは手をモジモジさせて挙動不審のような態度をしている。
顔を上げずに俯いていることに加え、前髪が長いことで表情も読めないため、変なことをしてしまったと考えてしまう。
「い、いえ。そ、そんなことありません」
ユメさんはすぐに否定してくれるが、オドオドした態度は変わらない。
(怖くないなら……あっ!もしかして体調が悪いのか!)
気分が優れないことを言うことができず、我慢していると思った俺はユメさんを注意深く見る。
すると頬や首元が赤くなっていた。
「ユメさん、ちょっと動かないで」
「は、はい」
俺は動かないように指示したユメさんへ歩み寄り、熱がないか確認する。
「カ、カミト先生……」
「ちょっとごめんね」
「っ!」
ユメさんの体がビクっとなるが、俺はお構いなしにユメさんの前髪を持ち上げてオデコに手を当てる。
その際、長い前髪で見ることができなかったユメさんの顔を初めてみる。
(待って、めっちゃ可愛い娘やん)
頬まで赤く染めているユメさんは、ここにいる美少女たちに負けず劣らずの容姿をしていた。
クリッとした大きな目と庇護欲をくすぐる可愛らしい容姿。
そんな容姿をしているとは思わなかった俺はユメさんのオデコに手を当てたまま固まってしまう。
「あ、あの……カ、カミト先生。は、恥ずかしい……です」
「っ!ご、ごめん!」
俺は慌ててオデコから手を放す。
「い、いえ。ユ、ユメの体調を心配してくださったことは分かりましたので。ユメは元気ですから安心してください」
未だに頬の赤みは治っていないが、ユメさんが元気というので追求はしない。
俺は変な空気を変えるため、「コホンっ!」と咳払いを挟む。
「そ、それで、ユメさんだけを呼んだのは理由があるんだ」
「理由……ですか?」
「あぁ。俺のスキルでユメさんを鑑定しようと思ったんだ。俺の鑑定スキルはかなり優秀だから、スキルが使えない原因が分かるかもしれない」
俺たちは出会って2日の仲なので、賢者さんを褒めるのは癪だが、そうでも言わないと鑑定させてくれないと思った。
「わ、分かりました。カミト先生なら……」
「ありがとう、ユメさん」
無事、鑑定させてくれることに安堵しつつ、俺はユメさんを鑑定した。