講師の依頼
「カミトくんに7人の女の子と婚約してもらう!ぜーったい、婚約させるから!」
そう言ってヨルカさんが可愛く笑う。
「それにしてもお兄ちゃんが7人の女の子と婚約するなんて。リーシャちゃんやレオノーラちゃんだけじゃ飽き足らず他の女の子まで手を出しちゃうってことだね」
“このこの〜”とクレアが俺の脇腹を突いてくる。
「……はっ!」
クレアに指摘されて重大なことに気がつく。
(俺、めっちゃクズ男だな!)
なぜなら『俺、未来で7人も婚約者がいるらしい!もしかしたら婚約者が増えるかもしれないけどよろしくねー!』と言うようなものだ。
しかもクレアの言った通り、「リーシャとレオノーラだけでは満足できないから婚約者を増やしました」と捉えられてもおかしくない。
そのため、俺は必死に不確定な未来であることを伝える。
「な、7人の婚約者というのは未来の話だ!これから起こり得る未来ではないからな!あと5人も増えるなんて俺の方が驚いてるくらいだから!」
そう必死に伝えるが…
「そう思ってるのはお兄ちゃんだけだよ」
「そうですわ。あと5人も増えるかは分かりませんが、少なくとも1人は増えると思ってます」
「だから未来でカミト様の婚約者が7人いることに驚きなんてありません」
怒る素振りなど見せず、まるで分かりきったことのように話す。
「……あれ?」
「お兄ちゃん、冷静に考えて。そもそも未来で7人も婚約者がいるんだから、リーシャちゃんやレオノーラちゃんが怒ることなんてあり得ないよ」
「た、確かに……」
リーシャとレオノーラが婚約者が増えることに抵抗していたら7人に増えるなんてあり得ない。
「私の見立てではあと4人は増えるかなー」
「わたくしの見立てだと1人しか思い浮かばないのですが素晴らしいことですわ!」
「はい!カミト様の魅力が私たちにしか伝わらないなんておかしいですから!」
「……え、もしかして2人は婚約者が増えることに賛成なのか?」
みんなの態度が予想の斜め上だったため質問をする。
「わたくしはカミト様のことが好きな人を1人知っております。そして、その人ともカミトを支えることができれば良いと思っておりますわ」
「そもそもカミト様は私たちが独占すべきような人ではありません。だから7人も婚約者がいても驚きはしませんよ」
「お兄ちゃんに7人もお嫁さんがいる!つまりお兄ちゃんの魅力に気づいてる女の子が7人もいるってこと!私、とっても嬉しいよ!」
「さすがカミトくんの婚約者たち!良い子すぎる!」
「あはは……」
婚約者2人とクレアが賛同する。
どうやら俺は婚約者を増やしても問題ないらしい。
(だからと言って積極的に増やす予定はないが)
そんなことを思いつつ、魔王討伐に向けて動き出した。
あれから数日後。
リーシャとレオノーラが女王陛下にも魔王復活のことを話し、女王陛下も本格的に動き出した。
「今のところ分かっている情報は魔王復活が2年後ということだけね」
「はい」
俺は女王陛下の問いかけに首を縦に振る。
ちなみにこの場には俺と女王陛下、ソフィアさんの3人がいる。
「なぁ、未来ではリーシャ様のことを婚約者って呼んでたのか?」
「はい。そうみたいですね」
「なら未来のカミトくんたちが魔王と戦ったのはリーシャ様が18歳の誕生日を迎える前ってことだ」
「………あっ!そうか!リーシャ様が18歳を迎えたら俺たちは結婚するのか!」
「そういうことだ」
「つまり長くても1年半しか猶予がないってことね」
リーシャはつい最近16歳になったばかり。
なのであと1年半以内に魔王と戦う未来がやってくることは確定している。
「っとなればカミトくんが取る行動は1つ。魔王復活までできるだけ強くなることだ。幸い、王都周辺には3つのS級ダンジョンがある。上手く活用するといい」
「分かりました」
という形で今後の方向性が決まる。
すると少し女王陛下が困った顔をされた。
「ならカミトへお願いする予定だった例の件は辞めた方がいいかもしれないわ」
「例の件……とはなんですか?」
「あぁ。S級冒険者のカミトくんとメルに冒険者学校の生徒たちを指導してもらおうと思ってたんだ。実力があって将来有望な数人を」
「へー、そんなことを考えてたんですか」
詳しく聞くとニーファの件で冒険者の数が減少したため、冒険者学校で優秀な生徒に対し、冒険者学校卒業後、即戦力となるように講師をお願いしたかったようだ。
「でも冒険者学校の生徒たちに教えるよりも強くなってもらう方を優先した方がいいから、この話は無かったことにした方がいいかもしれないわ」
そんな話を女王陛下とソフィアさんがする。
(もしこの話が無かったことになったら未来が変わってしまうってことだよな)
聞いた話によると元々計画していたようで、未来の俺は絶対引き受けていたと思う。
(ヨルカさんは俺が婚約者7人と幸せになることを望んでいる。生徒や先生の中に未来の婚約者がいたらヨルカさん、悲しむだろうなぁ)
ヨルカさんの話によれば7人の婚約者のうち、1人だけ未だに俺と出会っていない人がいるらしい。
なので俺は引き受けることにする。
「その話、俺は受けます!」
「……いいのか?」
「はいっ!ずっとダンジョンに潜ってるわけにもいきませんから!適度な息抜きも大事ですので!」
「そうか。カミトくんがそう言うならお願いしようか」
「任せてください!」
とのことで数日後、俺は冒険者学校で指導することとなった。