ヨルカの決意
ユミルさんの後ろを歩き、リビングへ向かう。
すると広いリビングと大きくて綺麗なシャンデリアが目に入った。
「うん、何となく予想してたけど広いなぁ」
「お兄ちゃん!このソファーすっごくふかふかだよ!」
あまりの広さに驚いてる俺を他所に、クレアはリビングにあるソファーを堪能している。
「夢みたいだね!リブロで住んでた部屋の何百倍もの広さを誇る家に住めるんだよ!」
「そうだな。リブロに住んでた頃と比べると夢みたいだよ」
リブロに住んでた頃はアムネシアさんのアパートに住んでおり、6畳しかない部屋でクレアと暮らしていた。
そのことに懐かしさを感じつつ、俺たちはソファーに腰掛ける。
そして、簡単に自己紹介を行う。
事前に誰が一緒に暮らすことになるかは伝えていたが、顔を合わせるのは初めてだ。
特にリーシャとレオノーラはクレアとヨルカさん、シーナさんの3人とは初対面だ。
「リーシャと申しますわ。歳はクレア様の一つ下になりますので遠慮せずリーシャと呼んでください」
「レオノーラです。私も敬語や様付けなどせずレオノーラと呼んでください」
「うんっ!よろしくね!リーシャちゃん!レオノーラちゃん!」
相変わらずコミュ力の高い妹様は王女様に対して様付けせず、普通に話しかける。
「ねぇねぇ!2人はお兄ちゃんのどんな所が好きなの!?」
「そうですね。わたくしは……」
と言って3人で俺の好きなところを話し出す。
(あ、あの人たち、こんなところで何話してんの!?周り見て!?使用人たちの目が暖かいぞ!)
周囲から見られる暖かい目を見て俺は顔を赤くする。
その後、俺が会話を打ち切るまでリーシャたちは俺の好きなところを語り続けた。
「嬉しかったけど……使用人のいないところで話してほしかった……」
使用人がいなくなったリビングで俺はリーシャたちの話を思い出す。
「ついカミト様のことを話しすぎましたわ。まだまだカミト様の好きなところを語ることはできますが」
「ですね。半分も語ることができませんでした」
「………」
どうやらリーシャとレオノーラは本心で言っているようだ。
「この調子で残り5人もお願いね、カミトくん」
「あはは……」
「……残り5人?」
ヨルカさんの発言が気になったクレアが首を傾げる。
「ううん、なんでもないよ。ウチが何かアドバイスをしたら未来が変わってしまう可能性があるからね。これ以上は秘密かな」
「……?」
クレアはヨルカさんの発言を理解できなかったが俺は理解できた。
(きっと未来で婚約者が7人いたことを言ってるんだろう。そして、それを告げたら未来が変わってしまう可能性があることも)
何故かヨルカさんは仕切りに未来のことを気にする。
そして未来と同じ光景を望んでいる。
その兆候は俺がソラさんに鑑定結果を伝えた後も現れた。
『会話がすれ違ってたことに気づいてたのなら言ってくださいよ!』
『そんなことすると未来が変わる可能性があるからね。できるだけ介入しない方向にしてるんだ』
『未来が変わる?』
『うん。カミトくんたちには幸せになってほしいからね』
あの時は意味が分からなかったが、ようやく理解する。
(多分、ヨルカさんは俺に未来で見た7人の女の子と婚約してほしいんだろう。その上で魔王を討伐したいと思っている。だからヨルカさんはできるだけ介入しないんだ。本来なら婚約している人と婚約できなくなるかもしれないから)
なぜ俺に7人の女の子と婚約させたいのかは理解できないが、ヨルカさん1人で背負い込む必要はない。
そのため俺は大きな声で「みんなに紹介するよ!」と言って話しかける。
ヨルカさんのことは『500年前に賢者と呼ばれていた人』としか事前に説明しておらず、なぜ今目覚めたのかを説明していない。
つまり魔王が復活する件を3人は知らない。
「前にも伝えたけど、この人がヨルカさん。いずれ復活するであろう魔王を討伐するために約450年間眠ってたんだ」
「「「魔王!?」」」
3人が驚きの声を上げる。
そんな3人へ、ヨルカさんからしてもらった話を全て話す。
俺のスキルとソラさんのスキルが500年前に魔王を封印した『剣聖』と『聖女』のスキルを引き継いでいること。
ヨルカさんが復活する魔王を討伐するために約450年も眠りについたこと。
そして俺と俺の婚約者7人が魔王と戦っていたことを話す。
婚約者の話をする時はヨルカさんが俺の話を遮ろうとしたが、俺は最後まで全て話した。
「なるほど。このままだと私たちは魔王に負けて死んでしまうんだ」
「それは嫌ですわ!せっかくカミト様と婚約できたのに!」
「お姉様の言う通りです!すぐにでも対策を取らなければ!」
そう言ってリーシャとレオノーラが話し始める。
(ヨルカさんの話によると魔王復活は2年後。それまでにどれだけ強くなれるかが大事だろう)
そんなことを思っていると、ヨルカさんが話しかけてくる。
「カミトくん。なんで婚約者が7人いることを伝えたの?魔王が復活することだけで良かったと思うよ?」
婚約者のことまで伝えると婚約者の数が減ることを心配しているのだろう。
だが、そんなことは心配しなくて良いことを俺は伝えなければならない。
「ヨルカさんって『未来が変わるから』と言って俺たちに深く関わろうとしませんよね?」
「うん。だってカミトくんが7人の女の子と婚約できなくなるから……」
「それ、やめませんか?」
「……え?」
俺の問いかけにヨルカさんが固まる。
「俺、ヨルカさんと出会えて良かったと思ってます。この世界や俺たちのことを第一に考えてくれて、とても頼もしいです。だから俺、もっとヨルカさんと仲良くなりたいです。そして他の人たちともっと仲良くなってほしいです」
「カミトくん……」
ヨルカさんが俺の名前を呟く。
「未来のことを気にして一歩引くのをやめて、もっと俺たちに干渉してください。どうせ、ヨルカさんが目覚めた時点でガッツリ俺たちに干渉してるんです。今更、未来を変えないために介入を控えるとか遅いですよ」
俺は思っていることを素直に伝える。
「あははっ。みんながカミトくんのことを好きになる気持ちがわかるよ」
付きものが取れたかのような顔でヨルカさんが笑い、何かを呟く。
「……?なにか言いましたか?」
「ううん、何でもないよ!これからは遠慮なくみんなと関わろうって言っただけだから!」
そう言ってヨルカさんが俺に向けて指を指す。
「カミトくん!ウチ、みんなとたくさん関わる!ウザがられるくらい関わるよ!そしてカミトくんに7人の女の子と婚約してもらう!ぜーったい、婚約させるから!」
そう言ってヨルカさんが可愛く笑った。