屋敷
俺がリーシャ様とレオノーラ様に想いを告げた後、2人が俺の腕に抱きついてきた。
「幸せですわ」
「私もとても幸せです」
嬉しそうな顔をして抱きついている2人。
「わたくし、カミト様がお母様に『婚約の申し込みに来ました』と言った時は安堵で涙が出てしまいましたわ」
「カミト様とお付き合いできないという不吉なことを考えてしまう日々でしたので、私も嬉しすぎて涙が出てしまいました」
不吉なことを考える日々を送ることになったのは俺が返事を先延ばしにしたから。
「す、すみません。告白の返事が遅くなってしまい。これからは絶対にリーシャ様とレオノーラ様を悲しませるようなことはしませんので。な、なんならお詫びにお二人の言うことを何でも聞きます」
「「何でも!?」」
俺の言葉を聞き、一瞬でキラキラした目となる2人。
「は、はい。待たせてしまったことへの罪悪感がありますので俺にできることなら……」
俺がそう返事をすると、「ちょっと待ってください!」と言って、2人が作戦会議を始める。
「お、お姉様っ!何をお願いしましょうか!?」
「お、落ち着くのよ、レオノーラ!わたくし達で考えた『カミト様にやってほしいことベスト100』の中から一つお願いしましょう!」
「そ、そうですね!ならカミト様からキスをしていただくのはどうでしょうか!?」
「待って!キスはさすがに早すぎるわ!まずは段階付けて……」
等々、テンションが高いため、俺に丸聞こえで作戦会議を始める2人。
(『俺からやってほしいことベスト100』ってなんだろ。ものすごく気になるんだが)
そんなことを思いつつ待つこと10分。
「き、決まりましたわ」
「1つに決めるというのは難しいですね」
「そ、そうですね」
作戦会議が丸聞こえだったので難しさは俺にも伝わってきた。
「で、では……こほんっ!」
リーシャ様が咳払いを挟み、俺にしてほしいことを伝える。
「わたくし達と話す時に敬語は要りませんわ。もちろん名前に『様』も付けないでください」
「だって私たちは……こ、婚約者ですから」
『婚約者』という単語にレオノーラ様が照れながらも、してほしいことを口にする。
「そ、そうですね。俺たちは婚約者ですから」
そう言って俺も「こほんっ!」と咳払いを挟む。
「リーシャ、レオノーラ。大好きだよ」
「「〜〜〜っ!」」
俺の言葉を聞いて2人の顔が真っ赤になる。
「こ、これは癖になりますわ」
「そ、そうですね。呼び捨てからの甘い言葉……もう一回お願いしたいくらいです」
そんなことを呟いた2人は顔を見合わせて頷く。
「カ、カミト様!もう1度!もう1度お願いしますわ!」
「私も聞きたいです!」
「あはは……」
そんな感じで、その後もリーシャとレオノーラの3人で心地よい時間を過ごした。
そして数日が経過する。
「こ、ここが今日から俺たちの家になるのか」
「お兄ちゃん!私たち大金持ちだよ!」
「いや、実際大金持ちなんだが……」
俺たちの目の前には貴族しか住むことが許されないであろう屋敷がある。
「こちらがカミト様とクレア様の家ですわ」
「部屋の数は30部屋以上。広いリビングに大きなお風呂。そして玄関前には噴水と庭師による庭園があります。他にもたくさん部屋がありますので、気に入っていただけると嬉しいです」
リーシャとレオノーラが大荷物を持って簡単に説明してくれる。
この家は俺とメルさんがS級ダンジョンを攻略した際の報酬として女王陛下がくれたものだ。
「カミトくん。なかなかすごい家だね。ウチ、ここに住むことに抵抗を感じるよ」
「ヨルカ様。カミト様のおかげで宿代が浮きましたので、そのお金で美味しい物を食べに行けます。なので遠慮なくカミト様のご自宅に居候させていただきましょう」
「なるほど!確かに宿代が浮いて美味しい物が食べられる!さすがシーナ!名案だよ!」
そして俺たちの側にいるヨルカさんとシーナさんが盛り上がる。
(アンタら宿代払ってないだろ。俺が宿代を払ってるから居候させることになったんだよ)
ヨルカさんたちは魔王討伐の研究で忙しいため働く時間がない。
よってヨルカさんとシーナさんには生活費として大量の金銭を渡していた。
「わたくし達もお母様からカミト様の屋敷で暮らすことに了承を得ましたわ!」
「なので毎日カミト様とお会いできます!」
リーシャとレオノーラが俺と一緒に暮らしたいと女王陛下に言ったら二つ返事で了承を得たらしい。
そのため今日は2人ともテンションが高い。
「さて、みなさん中に入りましょう。お互い、自己紹介もまだですから」
俺が声をかけてみんなを誘導し、俺たちは屋敷の中へ入る。
すると…
「「「「お待ちしておりました、カミト様」」」」
たくさんのメイドに出迎えられた。
「お、おぉ……」
使用人をたくさん雇っていると聞いていたが、想像以上の人数だ。
この場だけでも30人はいるだろう。
「カミト様。本日より、この屋敷でメイド長を務めさせていただくユミルと申します。何かご用がありましたら私にお伝えください」
50代後半と思われる女性が丁寧なお辞儀と共に挨拶をする。
「よ、よろしくお願いします」
(こんな立派な屋敷に加え使用人まで用意してくれるなんて。女王陛下には頭が上がらないな)
リーシャとレオノーラが一緒に住むということもあるのだろうが、設備は整っており、使用人たちも大勢いる。
何より…
「シャーリーさんもこれからよろしくお願いしますね」
「はっ!警備はお任せください」
俺の声に反応したシャーリーさんが“ばっ!”と目の前に現れ膝をつく。
ここは王宮よりも警備が手薄になってしまうため、女王陛下直轄の組織『シャドウ』が警備を担ってくれることとなった。
そのリーダーであるシャーリーさんが警備に関しては長となる。
ちなみに屋敷で働く者は料理人や庭師、『シャドウ』の面々含め、全員女性しかいない。
理由をリーシャたちに聞いたら『メル様が来られた時、困りますので』とのことだった。
「S級冒険者であるお兄ちゃんと『賢者』と呼ばれてたヨルカさんがいるから警備なんていらないと思うけどなぁ」
(うん、俺もそう思う)
隣で呟くクレアに激しく同意した。