1人目と2人目
ソラさんと別れ、ヨルカさんとシーナさんに様々な食べ物を奢った後、俺は2人を連れて宿屋に戻る。
気分転換に外出した俺が女の子を2人も連れ帰ったため、帰宅時はクレアに驚かれた。
だが、すぐに持ち前の明るさで仲良くなり、ヨルカさんのことをお姉ちゃんのように慕い始めた。
ちなみに背丈はクレアの方が大きい。
「それでヨルカさんたちはどこに住むんですか?」
「近くの場所で宿屋を借りるつもりだよ。毎回、ウチが寝ていた研究施設に帰るのは大変だからね。それにウチらは魔王討伐のために強くならなきゃいけないから」
とのことでヨルカさんはこの周辺を拠点にして動くらしい。
「だから、今日はこの辺りにするよ。『聖女』の件はソラさんが何とかしてくれるはずだから、カミトくんはまず自分の気持ちをしっかりと整理してね」
「はい。でないと戦いに集中できませんので」
俺は真剣な顔で返事をする。
その目に迷いはなかった。
「うん、いい表情だ」
そんな俺を見てヨルカさんが微笑む。
俺は先程、ヨルカさんに悩み相談を行っていた。
相談内容はリーシャ様、レオノーラ様からの告白の件。
俺はヨルカさんに「できることなら俺のことを好きと言ってくれた人たちを幸せにしたい。でも、俺に2人を養う甲斐性があるとは思えない」と言った。
すると…
「その2人はカミトくんの大切な人でしょ?なら答えは一つなんじゃないかな?ウチ、カミトくんなら絶対2人を……いや、7人全員を幸せにすることができると思ってるから」
と言われた。
みんなを幸せにする自信がないだけの俺を見抜き、俺の背中を押す言葉をかけてくれる。
(大切な人なら自分の手で幸せにしなきゃダメだろ。甲斐性なしという言葉で逃げず、自分の気持ちに正直になろう)
「良い報告を待ってるからね」
そう言ってヨルカさんとシーナさんは宿屋を出る。
「お兄ちゃん、決めたんだね」
「あぁ。俺は2人からの告白に応えようと思う。だってリーシャ様とレオノーラ様のことが好きだから。絶対、2人を幸せにしてみせるよ」
「うん!それでこそ私のお兄ちゃんだよ!」
俺の返答にクレアが笑顔になる。
「じゃあ、さっそく明日から行動開始だね」
俺は頷き、さっそく行動に移った。
あれから数日後、俺は王宮で女王陛下と謁見していた。
部屋にはニーファの悪事に加担しなかった家臣や貴族が控えている。
そして、リーシャ様とレオノーラ様が俺のことを固唾を飲んで見守っていた。
「それで、今日は何の話かしら?」
「はい」
そう返事をして一拍置く。
そして自分の想いを伝える。
「今日はリーシャ様とレオノーラ様に婚約の申し込みに来ました」
「「カミト様……」」
2人が口に手を当てて涙を流す。
「俺はリーシャ様とレオノーラ様のことが好きです。絶対、2人を幸せにしてみせます。リーシャ様とレオノーラ様、2人と婚約させてください!」
そして2人の母親である女王陛下に決意を伝える。
「リーシャやレオノーラを貰うという意味をしっかりと理解したのね?」
「はい。いずれ女王陛下となられるリーシャ様と第二王女であるレオノーラ様と婚約させていただく意味は理解しております」
好きだから婚約するというだけでは、リーシャ様たちとは付き合えない。
それ相応の覚悟が必要となる。
「俺はこの国が大好きです。ニーファ達がいなくなった今、国民からは笑顔が絶えません。そんな国を俺も守りたいと思いました。リーシャ様やレオノーラ様と一緒に」
俺は自分の覚悟が伝わるよう、女王陛下を真っ直ぐ見る。
数秒の沈黙が訪れた後、女王陛下が口を開く。
「わかったわ。リーシャとレオノーラの婚約を認めるわ」
「「お母様っ!」」
女王陛下の返答を聞いて2人が喜ぶ。
(ふぅ。無事、2人と婚約できたぞ)
そのことに一安心する。
以前、女王陛下の立場ではなく2人の母親としての立場では、俺がリーシャ様たちと婚約することに賛成してくれた。
だから今回は王女2人と婚約する覚悟を示す必要があった。
女王陛下という立場から2人と婚約することへの了承を得る必要があった。
「リーシャとレオノーラ、2人への婚約の申し込みに私は同意したわ」
女王陛下が周りに控えている家臣や貴族たちにも聞こえるように言う。
「今後、カミトはリーシャとレオノーラの婚約者となり、リーシャが冒険者学校を卒業して18歳となった日に2人と結婚してもらうわ。それで構わないよね?」
「はい!」
「いい返事ね。2人のこと、よろしく頼むわ」
「任せてください!絶対、幸せにしてみせます!」
この日、俺はリーシャ様とレオノーラ様の2人と婚約した。
S級冒険者で『英雄』と呼ばれる俺がリーシャ様とレオノーラ様の2人と婚約した話は一夜にして街中に広まった。
「リーシャ様とレオノーラ様がカミト様と婚約したらしいぞ!」
「つまりS級冒険者であるカミト様が王都に住んでくれるってことだ!王都は最強の守護者をゲットしたぜ!」
「何でも告白は王女様2人からだったらしいぞ!」
「リーシャ様とレオノーラ様から告白されたのかー!くぅーっ!羨ましいぜ!」
「王女様のおかげで国は安泰よ!リーシャ様、万歳!レオノーラ様、万歳!」
等々、街中で騒がれていた。
その様子を王宮のテラスから眺めながら、俺はリーシャ様、レオノーラ様と話をしていた。
「あはは……嘘は広まってなさそうですが、さすがに恥ずかしいですね。話題になりすぎです」
「S級冒険者で国の英雄であるカミト様とわたくし達の婚約は国にとって良いことしかありません。話題になるのも仕方ありませんわ」
「おかげで私たち王族の株も上がってます。そんなことのためにカミト様と婚約したわけじゃないのですが」
「その通りですわ。わたくし達は本気でカミト様のことを愛しておりますのに」
2人が頬を膨らませながら可愛く訴える。
そんな2人の態度を俺は嬉しく思う。
「わかってますよ。2人が王族の評価を上げるために告白してないことは。だから周りの声は気にしなくていいです。むしろ王族の評価を上げることができて嬉しいくらいなので」
「それなら安心ですわ!」
「はい!私たちが偽りの愛で告白したと思ってほしくありませんから!」
俺の返答に2人は安心したのだろう。
2人から笑顔が溢れている。
そんな2人を見つつ…
「俺はリーシャ様とレオノーラ様のことが好きです。これからの人生、2人と一緒に過ごしたいと思いました。こんな俺ですが、よろしくお願いします」
俺はもう一度想いを伝える。
すると…
「はい!よろしくお願いしますわ!」
「もちろんです!カミト様っ!」
今まで見たことない眩しい笑顔で応えてくれた。