魔道具
謁見が終わり、俺たちはマツリさんの案内で魔道具を管理している場所に向けて移動する。
「メアリーさんが俺たちに同行するみたいですが、メアリーさんから了承はもらってるのですか?」
「えぇ。喜んで同行すると言ってたわ。ヨルカ様も近くにいらっしゃるし、カミトさんへ魔道具作製のお手伝いをお願いできるからと言ってね」
「それなら良かったです」
ヒナ様の命令で無理やり同行する形ではないようなので一安心だ。
「でもメアリーさんのような優秀な魔道具技師をエルザリア王国は失うことになりますが良かったのですか?」
「問題ないわ。確かに魔道具技師としての腕前はトップクラスだけど、この国の魔道具技師はメアリーだけじゃないわ。だから大丈夫よ。それにメアリーには他の役割もあるからね」
「他の役割……ですか?」
「えぇ。1番はカミトくんとこの国を結ぶ橋渡しね」
そう言って詳しく説明する。
S級冒険者である俺やヨルカさんといった実力者とはこれからも良好な関係を築きたいため、俺たちの役に立つ人を同行させることでエルザリア王国が危機に瀕した時、助けてもらうといった狙いがあるようだ。
魔道具の無料提供もその一環だろう。
「でも役に立つ人材と魔道具の提供だけで助けに来てくれる可能性は低い。だから役に立つことに加え、カミトさんのお嫁さん候補になり得るメアリーを同行させることにしたわ」
「お、お嫁さん候補!?」
俺は声を上げる。
「えぇ。エルザリア王国出身者が婚約者となればエルザリア王国が危機に瀕した時、助けに来てくれる可能性はあるからね」
確かに婚約者の故郷となれば全力で助けに行く。
「つまり……」
「メアリーとの婚約、楽しみにしてるわ」
「あはは……」
俺は苦笑いで返答する。
(魔道具作製に全てを賭けてる人と婚約は無理だと思うんだけど……)
恋愛に時間を割くくらいなら魔道具を作製するといったレベルで恋に興味がないメアリーさんと婚約は無理だと思うが、そのことをマツリさんやヒナ様が知らないわけないので、何か秘策があるのかもしれない。
(まぁ、俺はこれ以上婚約者を増やす予定はないが。リーシャたちに言った時は盛大にツッコまれたけど)
ちなみに俺の婚約者たちは、あと数人くらい婚約者が増えると思っているようだ。
「メアリーには私たちがカミトさんと婚約してほしいことは話してないわ。あくまで私たちの願望よ。そろそろ恋の一つや二つを経験してほしいからね」
どうやらマツリさんとヒナ様は魔道具作製しか生き甲斐を感じていないメアリーさんを心配し、数多の女の子をメロメロにして婚約した俺に賭けているようだ。
俺ならメアリーさんに恋の素晴らしさを教えることができるのではないかと。
「やったね、カミトくん!婚約者を増やすチャンスだよ!」
「なんでヨルカさんは楽しそうなんですか」
自分事のように嬉しそうなヨルカさんにツッコミを入れつつ、俺たちは魔道具を管理する部屋へと向かった。
魔道具を管理している部屋に到着する。
ざっと見たところ100個以上はありそうだ。
「ここにある物なら基本的に持って帰っていいわ」
「ありがとうございます!」
とのことで俺たちはズラーっと並んでいる魔道具を一つ一つ確認する。
「ねぇ!カミトくん!これヤバいよ!」
と言ってソラが持ってきた魔道具は、選んだ対象を強制的にメロメロにする魔道具だった。
「ヤバいな。国家転覆も可能なレベルの魔道具だぞ」
仮に俺がヒナ様をメロメロにすれば、俺がエルザリア王国を支配できるようになる。
「ここには世に出回ってはいけない魔道具を管理している場所でもあるの。その魔道具がいい例ね。もちろん、その魔道具はカミトさんにもお渡しできないわ」
危険な魔道具を貰う予定はなかったため、置かれていた場所へ戻すようソラに指示を出す。
「あ、でもメアリーに使うのなら持って帰っていいわ」
「いやいや!ダメですよ!」
クスクスと笑いながら言うマツリさんの提案を即座に否定する。
マツリさんも冗談で言ったようで、これ以上は話を広げない。
そんな会話をしていると…
「おぉ!これはすごく便利だよ!皆んな来て来て!」
目をキラキラさせながら魔道具を見ていたヨルカさんが俺たちを呼ぶ。
そこには装飾品としても問題ないほど綺麗なブレスレットがあった。
「へー、グラビティが付与された魔道具ですか」
重力魔法であるグラビティはレア魔法で能力発動後、周囲の重力を強めることができる魔法だ。
「これはレアですね。マツリさん、コチラをいただいてもいいですか?」
「えぇ。問題ないわ」
「ありがとうございます」
とのことでグラビティが付与された魔道具を手に入れ、その他にも数点ほど魔道具をいただき、俺たちは王宮を後にした。