妹との晩御飯
その後の話をしよう。
ラジハルからの罰金に関しては支部長宅で押収した悪行の数々を全て確認しなければ確定しないが、金貨100枚は超えるとのこと。
俺に金貨100枚以上を賠償するとなれば今後の生活に響くと思うが、ノワール親子は鉱山行きが決定してるので遠慮なくいただく。
また俺をイジメたことで冒険者資格を剥奪された者からも賠償金をいただいた。
「ありがとうございます。会長のおかげで、これからは楽しく冒険者生活ができそうです」
「何度も言うが、助けるのが遅くなって……」
「もうその事は謝ってくれたので大丈夫です!」
そう言わないと何度も謝ってきそうだったので、会長の言葉を遮る。
そして話題を変える。
「あ、そうです!俺、会長に聞きたいことがたくさんあるんです!」
「そうだな。アタシもカミトくんとはゆっくり話したいと思っていた。今日はもう遅いから明日、ここで会うことはできるか?」
「はい!」
そう返事をした俺は頭を下げてリブロ支部から出る。
「うわっ、もう外は真っ暗だ。急いで家に帰らないと」
こんな時間まで家に帰らなかったことはなかったので、12,000越えのステータスをフル稼働させて家に帰る。
「ただいまー」
「お兄ちゃん!」
俺がドアを開けて玄関に入ると“ドタドタっ!”とクレアが走ってくる。
「もうっ!心配したんだよ!怪我とかしてないよね!?」
「あぁ。どこも怪我とかしてないから大丈夫だ」
俺はクレアを安心させるため、腕を回しながら返答する。
「良かったぁ」
その様子を見てクレアがホッとする。
「ごめんな、心配かけて」
「そうだよ!とーっても心配したんだから!」
「ははっ、ごめんごめん」
ぷくーっと頬を膨らませるクレアの頭を少し撫でて部屋に上がる。
するとまだ手がつけられていない料理が目に入ってきた。
「あれ?晩御飯食べてないのか?」
「うん。お兄ちゃんが帰ってくるまで待ってたんだ」
「そんなことしなくていいのに」
「1人だとお兄ちゃんの身が心配でご飯が喉を通らなかったからね」
「そうか。心配かけたな」
クレアに申し訳ないと思いつつクレアと共に晩御飯を食べる。
「お兄ちゃん、今日は機嫌がいいね。何かいい事でもあったの?」
「お、よく分かったな」
「ふふんっ!私はお兄ちゃんの妹だからね!」
そう言ってクレアは可愛いドヤ顔を見せる。
「実は今日、すごいスキルを2つも手に入れたんだ」
「えっ!お兄ちゃん、スキルゲットしたの!?」
「あぁ!しかもそのスキルが強すぎてオーガを一瞬で倒せるようになったんだ!」
「おぉ!さすがお兄ちゃんっ!」
まるで自分事のようにクレアが喜ぶ。
「この力があればもう2度とクレアに不自由な想いをさせることはない。学校のこととか。その……俺のせいで学校に馴染めなかったんだろ?」
俺の言葉を聞き、クレアが食べるのをやめる。
「……聞いたんだね」
「あぁ。ごめん、クレア。俺のせいで……」
「お兄ちゃんは悪くないよ!」
俺の言葉を大きな声でクレアが遮る。
「お兄ちゃんは私のために危険なダンジョンに潜ってお金を稼いでくれてたんだもん!お兄ちゃんのせいだなんて一度も思ったことないよ!」
「クレア……」
「お兄ちゃんのせいで!」と言われるかもと思っていたため、その言葉に内心ホッとする。
「そんなことより悪いのは私の方!だって私はお兄ちゃんがスライムしか倒せなくてリブロ支部では浮いてる存在なのを知ってた!お兄ちゃんがその……暴力を振るわれてるのも……」
クレアは俺がリブロ支部でどんな扱いに遭っていたのかを知っているのだろう。
声のトーンがどんどん小さくなる。
「お兄ちゃんが冒険者を続ける限りイジメられると分かってた。でも私は冒険者を辞めるよう勧めることができなかった。しかも、毎日頑張ってるお兄ちゃんに私は何もしてない。だから悪いのは私で……」
「それは違う!」
今度は俺が大きな声で否定する。
「俺に何もしてないと思ってるなら大間違いだ!俺はクレアがいるだけで頑張れる!クレアの笑顔を見るだけで明日も頑張ろうって思えたんだ!だから自分のことを責めないでくれ!」
「お兄ちゃん……」
クレアの眼から一筋の涙が流れる。
「むしろ悪いのは俺だ。学校でクレアが馴染めなかったことに全く気づかなかった。しかもその原因は俺だ。クレアになんて謝ればいいか……ごめんな、カッコ悪いお兄ちゃんで」
そう自分の想いを吐露すると…
「お兄ちゃんはカッコ悪くないよ!」
と、力強い言葉が聞こえてくる。
「私はお兄ちゃんのことをカッコ悪いって一度も思ったことないよ!」
その言葉に俯きかけていた顔を上げる。
「お兄ちゃんは昔から私の自慢のお兄ちゃんだよ!小さい頃から私のワガママをなんでも叶えてくれる優しいお兄ちゃんで、お父さんとお母さんがいなくなった時に泣いてた私を支えてくれた!そんなお兄ちゃんがカッコ悪いわけないよ!」
「クレア……」
本心で言ってることが伝ってきた俺は、その言葉に泣きそうになる。
「ありがとう、クレア。これからもクレアにとって自慢のお兄ちゃんになれるよう頑張るよ」
「うんっ!私もお兄ちゃんを支えることができるよう頑張るからね!」
「ほどほどでいいからな。俺はクレアが隣にいるだけでいいんだから」
「それを言うならお兄ちゃんこそ冒険者は危険なんだから無理しないでね!」
「ははっ。その通りだな」
そんな会話をしながら俺たちは晩御飯を食べた。