7人目
俺はメルさんをお姫様抱っこした状態で家まで歩く。
「ねぇカミト」
「なんですか?」
「私の過去を話したいのだけど、聞いてくれる?」
私の過去とは男嫌いとなった原因のことだろう。
「もちろんです。大好きなメルさんのことは全て知りたいので」
「もう。調子良いこと言っちゃって」
俺の言葉にメルさんが嬉しそうな顔をする。
「なら全部話すわ。私が男嫌いになった原因を」
そう言ってメルさんが語り出した。
「私が10歳でサヤが5歳の頃。私の家に1人の冒険者が不法侵入してきたわ。お母さんが家に結界を張ってたけど結界を破ることができるくらい強い男が」
まだ小さかったメルさんとサヤを残して家を出る際は必ず強力な結界を家に張っており、その日までは襲撃に遭うことはなかったらしい。
「その男はお母さんによって冒険者資格を剥奪されて2度と冒険者として活動できなくなったの。その恨みを私たち娘に向けた」
男は強引に結界を破って家に入った後、メルさんとサヤを襲った。
その時、メルさんの機転でサヤは物置きに身を潜めることができたが、メルさんは男に捕まり拘束された。
「男は私にお母さんの恨みを口にした。そして私に何度も何度も攻撃をした。口から血を吐いても全く止める気配は無かった」
「っ!」
俺は無意識のうちに握り拳を作る。
「私は何度も何度も攻撃に耐えた。サヤに危害が加わらないよう痛いのを我慢して」
以前、S級ダンジョン『奈落』の攻略でメルさんが黒騎士のスキルを喰らって悪夢を見せられていた時、『奴隷にもなる!何でもする!だから妹には手を出さないで!』と叫んでいた。
(メルさんはサヤを守るために必死になって男のサンドバッグになってたんだ)
「どれくらい殴られたかは覚えてないけど、気づいたらお母さんが私の身体を抱きしめてた。そして男が血まみれで倒れていた」
「そうですか……」
ちなみに男はソフィアさんが殺したらしい。
「その日以降、私は男と顔を合わせることもできなくなった。そして気づけば男と話すのもできないくらい男嫌いになったわ」
そこでメルさんが口を閉じる。
昔を思い出したためか、心なしかメルさんの表情は暗い。
「ありがとうございます。話してくれて」
「私が話したかっただけよ。だからそんな悲しそうな顔をしないで。私は今、幸せなんだから」
そう言ってメルさんが微笑む。
「分かりました。なら一言だけ言わせてください。俺は絶対、メルさんを傷つけたりしませんから」
「知ってるわよ。だから私はカミトのことが好きになったわ」
婚約者となってからツンツンの部分がカケラも見られず、普通に好きと言ってくれる。
「これからよろしくね、カミト」
「こちらこそよろしくお願いします、メルさん」
そう言って俺たちは微笑んだ。
メルさんをお姫様抱っこした状態で家に帰り着き、メルさんを地面に降ろす。
ちなみに帰る道中、俺がメルさんをお姫様抱っこしていることにすれ違う人たち全員が驚いていた。
「たくさんの人たちを驚かせましたね」
「気にしなくて良いわよ。どうせすぐにもっと驚くニュースが広まるのだから」
「ははっ!確かにそうですね」
俺とメルさんの婚約が決まれば世間を騒がせるはず。
「そのためにはリーシャたちから許可をもらわないといけませんね」
「えぇ。リーシャたちが私とカミトの婚約に反対したら諦めるわ。でも、そうならないでほしいわね」
緊張した面持ちのメルさんだが、俺は大丈夫だと思ってる。
(おそらくだが未来の7人目はメルさんのような気がする。だから未来通り、メルさんとは婚約できるはずだ)
そんなことを思いつつ俺は玄関の扉を開ける。
「ただいま〜」
「あ、おかえりー!」
俺の帰宅にクレアが1番に駆け寄ってくる。
そしてクレアに続くように続々と婚約者たちが玄関に集まってきた。
ルーリエさんも集まっていることから、ソフィアさんとの話は俺たちがのんびり帰っている間に終わったようだ。
「メル様、ご無事で安心しました。サヤ様ならメル様の無事を聞いて安心したようで、わたくしの部屋で眠ってますわ」
「そう。なら起きた時に顔を見せるわ」
そうメルさんが返事をした後、真剣な表情をする。
「みんなに報告とお願いがあるわ」
との前置きをした後、メルさんが口を開く。
「私はカミトのことが好き。だから私も婚約者の1人にしてください」
「俺もメルさんのことをリーシャたちと同じくらい愛してる。だからメルさんとも婚約させてほしい」
俺たちは真っ直ぐな目でリーシャたちに伝える。
すると…
「やっぱり最後の1人はメル様でしたわ」
「うんうん。想像通りだったね」
「ん、すごく嬉しい」
「これでメルさんもユメたちと一緒にカミトさんを支えることができますね!」
等々、婚約者6人が俺たちの婚約を祝福してくれる。
「ありがとう、みんな」
その様子に嬉しさが込み上げたのか、メルさんが目を潤ませながら感謝を口にする。
「これで7人揃ったね!お兄ちゃん!」
「そうだな。クレアも仲良くしてくれよ?」
「もちろんだよ!」
こうしてメルさんが俺の婚約者となった。