メルさんを救え sideメル
〜メル視点〜
時は少し遡る。
私は1人でS級ダンジョン『深淵』に潜り、25階層でレベルアップを図っていた。
20階層のケルベロスは数日前、軽傷を負いながら何とか討伐することができたため、今日は21階層から探索を始めた。
そんな私は現在、とあることに悩んでいる。
「最近、カミトのことばかり考えてるわ」
ここ最近の私は暇さえあればカミトのことを考えている。
理由はカミトの婚約者が増えるに連れて焦りの気持ちが芽生えているから。
「私がカミトにどんな気持ちを抱いているかは理解している。そしてカミトと結ばれるために何をしなければならないかも理解している。でも……」
――何故かカミトと普通に接することができない。
サヤから度々「素直になれ」と言われるが何故かカミトを前にすると素直になれず、つい強く当たってしまう。
そんな私をカミトが好きになってくれるわけがない。
「ただでさえ婚約者は全員私よりも可愛いわ。しかも性格も優しくて良い娘ばかり。そんな人たちと比べたら私なんて貰われないわよ」
そんなことを思う日々が続いていた。
「だから私はカミトと肩を並べるくらいの強さを手に入れる。強さで私の魅力をアピールするわ」
そう思い、ここ最近は毎日のようにダンジョンに潜っており、そのおかげで20層のケルベロスを1人で倒せるほどの強さを手に入れた。
「今日も頑張るわよ」
そう呟いた私は1人で25階層でレベル上げに勤しんだ。
25階層でレベル上げに勤しむ。
「ふぅ。そろそろ夕方になるわね。今日はこの辺りで……」
――帰ろうか。と思った時、「「きゃぁぁぁっ!」」との声が聞こえてきた。
「っ!女性の声が2つ!あっちね!」
S級冒険者でない限り25層には入れない。
最近、ケルベロスを倒せるほどの実力者が現れたとの話は聞いていないため、今の声はトラップで25階層に飛ばされた人たちの声。
私は道中ですれ違ったモンスターを無視しながら全速力で駆けつけると、ランクAの中でも上位に分類されるグリフォンが女性冒険者2人に空中から特攻を仕掛けていた。
「っ!アイスウォール!」
私は地面に向けて氷魔法を発動し、女性冒険者2人とグリフォンの間に氷の壁を作る。
「グォっ!」
突如現れた氷の壁に激突し、バランスを崩すグリフォン。
「アイスソード!いけっ!」
そんなグリフォンへ即座に氷の剣を5本作り、攻撃を仕掛ける。
“ザシュっ!”
「グォ……ォォ……」
私の攻撃を回避することができず、グリフォンが力尽きる。
「大丈夫!?」
「は、はい。ありがとうございます、メルさん」
見たところ2人とも怪我は負ってないようでホッと胸を撫で下ろす。
「まずは安全な場所へ移動したいけど……そうはいかないわね」
21階層〜25階層の特徴はモンスターの多さと集まるスピード。
ここに来るまで数体ほどグリフォンとすれ違い、全てのグリフォンを無視してここまできたため、私の後を追ってきたグリフォンが集まって来た。
「数は……10体ね」
「メ、メルさん!グリフォンが10体もいます!私たちを置いて逃げてください!」
「そうです!トラップに引っかかったウチらが悪いので!」
私の身を案じた2人の女性がそんなことを言う。
(身体は震えてるのに私の身を心配するなんて)
つい2人の発言に笑みをこぼしてしまう。
「なに言ってるの。私はS級冒険者よ。これくらい大したことないわ」
カミトからプレゼントされた強奪の杖を構え、堂々と答える。
(今すぐにでも逃げたいだろうが私の身を案じて逃げるよう指示してきた。そんなことされたら何がなんでも助けたくなるわよ)
心優しい2人の冒険者を死なせるわけにはいかないため、私は気合いを入れて魔法を放つ。
「アイスソード!いけっ!」
私は2人の冒険者を守るようにグリフォンに立ち向かった。
「はぁはぁ……」
あれからどれくらい戦ったのだろうか。
2人の女性冒険者を守りながらダンジョン内を移動し、21階層まで戻ることができた。
しかし…
「はぁはぁ……も、もう無理です……」
「ウチも……」
ここまで神経をすり減らしながら移動してきたこともあり、女性冒険者2人の足が止まる。
「もうすぐで脱出できるわ。もう少し頑張りましょ」
そう言って2人を奮い立たせる。
自己紹介はここまでの道中で簡単に済ませており、2人は双子の姉妹らしく姉がアルカで妹がクルシュ。
ちなみに一人称が「ウチ」の方が妹。
2人とも20歳と若く、嫉妬してしまうくらい可愛い女の子だ。
「いえ、私たちはここまでです。なのでメルさんは先に逃げてください」
「ウチらはここで休憩してから脱出しますので。ここまで連れてきていただき、ありがとうございました」
足の止まった2人が私を先に促すが、私は2人を置いて帰還なんてしたくないので私も足を止める。
「なら少し休憩しましょ。2人が休憩する時間くらい私が守るから」
「ですがメルさんの魔力はもう少ないはずです!」
「魔力回復薬も底をつきました!ウチらを守るとメルさんも帰れなくなります!」
2人の言う通り、私の魔力は底をつきかけており、魔力回復薬は無くなった。
私だけ帰還するとなれば残りの魔力で帰還できるが、2人を守りながらとなれば戦闘を避けことが難しくなり、帰還は絶望的になるだろう。
だが、私は私の身を案じてくれる2人を死なせたくないと思っているので2人の発言は無視する。
「大丈夫よ。魔力がなくったって戦うことはできるわ。それに必ず助けに来てくれるから」
「助け……ですか?」
「えぇ」
きっと私が帰ってこないことをお母さんとサヤが気づき、カミトに依頼してくれるはずだ。
「だからそれまでの辛抱よ」
私は元気づけるように2人に言い、強奪の杖を構える。
目の前には私たちに追いついたミノタウロス5体が攻撃を仕掛けていた。
「リリースっ!クリムゾンファイヤっ!」
私は強奪の杖で奪った魔法を放つ。
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【強奪の杖】
相手の放った魔法を奪い、使用することができる杖。相手が魔法を発動した時と同量の魔力を消費することで吸収し、吸収した魔法を発動することができる。発動時に魔力は使用しない。吸収できる魔法は最大で5つ。
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「「「「「グォォォォォっ!」」」」」
魔法によってミノタウロス5体が燃え上がり、魔石となる。
(できるだけ使いたくはなかったけど使うしか生き残れない)
残りストックは4つ。
(絶対、カミトが助けに来てくれる!それまで2人を守り切ってみせる!)
そう決意し、自分を奮い立たせた。