勇者リリィの記憶 2
〜リリィ視点〜
「作戦開始っ!」
私の言葉を聞き、カインが動く。
それと同時にヨルカが詠唱を始め、ラティファがヨルカへ魔力を渡している。
(さて。私もとっておきを披露しようか)
私は聖剣エクスカリバーを握り直し詠唱を始める。
「俺の身体よ!30秒だけ持ってくれ!『星剣技』三の型〈輪舞〉!」
全身に受けたダメージを全く感じさせないほど普段通りの動きを見せるカイン。
おそらく、この30秒に全てを賭けているのだろう。
「甘いっ!」
「ぐっ!うぉぉぉぉ!!!『星剣技』六の型〈螺旋剣舞〉〜二十連〜」
三の型〈輪舞〉が防がれたカインはそのまま追撃を図り、使用後には全身の筋肉が悲鳴を上げる六の型〈螺旋剣舞〉を使用する。
しかも二十連。
使用後の反動はすごいはずだ。
「俺は絶対、ユーリのもとへ帰るんだぁぁぁっ!!!」
魔王の反撃をものともせず、カインが六の型〈螺旋剣舞〉で押し切る。
「コイツ、まだこんな力があるのか!」
蓮撃後には1ミリも動けなくなるだろうが、カインの渾身の蓮撃に魔王が焦りの声をあげる。
「ラストぉぉぉっ!」
“ドゴっ!”という音と共に魔王が吹き飛ぶ。
「今よ!エクスプロージョンっ!」
魔王が吹き飛びながら体勢を立て直そうとしているが、ヨルカの魔法が魔王を襲い、立て直す暇を与えない。
これまでの戦いで魔力をほとんど使い切っていたヨルカだが、ラティファの魔力をもらうことで普段通りの威力を発揮している。
「っ!ダークコフィンっ!」
魔王が自身を囲うように闇の結界を生成し、ヨルカの一撃を防ごうとする。
しかし“パリンっ!”と割れ、魔王の身体にダメージを与える。
「ぐっ!」
「みんな、ありがとう」
蓮撃後で地面に倒れてるカインと全魔力を使い切って膝をついているヨルカ、ラティファに感謝を伝えつつ魔王に迫る。
「今までで一番大きな隙を皆んなが作ってくれた。この機会、絶対に逃さないっ!」
私は聖剣エクスカリバーに全魔力を注ぐ。
「七聖封印っ!」
魔王を囲うように魔法陣が展開され、魔法陣の中央には手のひらサイズのキューブが現れる。
(本当は討伐したかったけど今の私たちでは魔王に勝てない。ありったけの魔力を込めて2度と目覚めないよう封印するっ!)
「封印魔法かっ!」
私の魔法を理解した魔王が今日一番の焦り声を上げる。
「俺はこんなところで封印されるわけにはいかないっ!」
「絶対封印してみせるっ!はぁぁぁぁっ!」
私は全魔力を解放し、魔法陣をさらに強固なモノにする。
「っ!」
強固にしたことで魔王の身体が徐々に縮まり、中央にあるキューブに吸い寄せられる。
「ここまでだ!魔王っ!」
「ぐぅっ!」
私の七聖封印に抗うことができず、徐々に小さくなる。
(よしっ!もう少しで封印完了っ!)
私は油断することなく七聖封印に魔力を注ぎ続け、封印を完了させるために全力を注ぐ。
もう少しで封印完了という刹那、何もない空間が突然“ピキピキっ!”と割れる。
そして空間の裂け目からガタイの良い男が現れた。
「封印されそうだな、魔王」
「っ!誰!?」
私は何もない空間から現れた男に問いかける。
「俺か?俺は破壊神だ。今は邪神となったから元破壊神だがな」
そう言って魔王を見る邪神。
「お前には封印されては困るからな。力を貸してやろう」
「させないっ!」
私は枯渇気味の魔力を全身からかき集めて邪神へ攻撃を仕掛けるが“パシッ!”と片手で聖剣エクスカリバーを受け止める。
「っ!」
「魔力が枯渇してる今のお前はただの雑魚だ。ふっ!」
「きゃぁっ!」
私は聖剣エクスカリバーごと近くの岩壁に投げ飛ばされる。
「直接お前たちを殺したいがそれは出来ないよう神に細工されててな。精々、勇者に魔法をかけることしかできない」
その言葉を聞き終えると、私の身体が鎖で縛られる。
「っ!」
しかし一瞬のことですぐに鎖は消滅し、私の身体に異常は見当たらない。
(私は今、何をされた?)
そう考え込むが邪神が次の行動に移っているため、思考をやめる。
「だから今回は魔王に力を貸すだけにしてやろう」
そう言って邪神が魔王へ視認できるほどの魔力の塊を譲渡する。
「力がみなぎってきたっ!」
先程までキューブに吸い込まれそうになっていた魔王の身体が少し大きくなる。
「よく分からんが助かったぞ、邪神とやら」
「お前にはこの世界を滅ぼしてもらわないと困るからな。あとはこの魔力で何とかしてみろ」
そう言って邪神が何もない空間に裂け目を作り、その中へ消える。
「何とかしろと言われたがこの状態では封印を解くことは難しそうだ」
邪神から魔力を譲渡されたことにより多少身体は大きくなったが、キューブに吸い込まれる直前ということもあり、封印を解除することはできないようだ。
「なので……ふっ!」
魔王の身体から禍々しいオーラが発生する。
「数百年後に封印を解いて復活できる魔法を施した。いつ復活できるかは分からんがな。それと最後に置き土産だ。ブラックドーンっ!」
魔王がそう叫んだ瞬間、私たちの頭上に大きな黒い塊が出現する。
「お前ら勇者パーティーにはここで死んでもらう!数百年後、俺に世界が滅ぼされるところを死後の世界で見てるがいいっ!」
その言葉を最後に魔王がキューブに吸い込まれ、封印される。
残されたのは魔王が封印間際に使用した魔法と封印したキューブのみ。
「あの黒い塊が頭上から落ちてきてるね」
私たちの数百倍の大きさを誇る黒い塊が私たちに向けて落下している。
しかし私やヨルカ、ラティファは魔力が枯渇したことでフラフラしており、カインは立ちあがろうとしているが六の型〈螺旋剣舞〉の反動で立ち上がれない。
「でもカインたちを死なせるわけにはいかない。聖剣っ!もう少しだけ頑張って!」
私はフラフラの身体に鞭を打って聖剣エクスカリバーを握り直す。
「ごめんね、皆んな。魔王の戦いに巻き込んで。だから絶対に3人は死なせないっ!」
私は魔力が枯渇している状態で無理やり全身から魔力をかき集め、聖剣エクスカリバーに光を灯す。
「リリィさん、辞めて!」
「そんなことしたらリリィちゃんが死んじゃうよ!」
「やめろ!リリィっ!」
魔力が枯渇した状態で無理やり魔力をかき集めると死に繋がってしまう。
そのことを理解した3人が私を制止させようとするが、誰も動ける状態ではないため私は3人の制止を無視する。
「カイン、ヨルカ、ラティファ。皆んなとの冒険は楽しかったよ。私のワガママに付き合ってくれてありがとう」
そう言って私は地面を蹴る。
「リリィィィっ!!!」
カインが私を呼ぶ声が聞こえた。
「カインには幸せになってほしいからね。だって私の好きな人だから」
私は上空にある黒い塊に特攻しながら呟く。
「結局、カインに私の想いは伝わらなかったか」
優しくてカッコいい、そして幾度となく私たちのことを助ける姿に私はいつの間にか恋をしていた。
しかしカインにはユーリさんという心に決めた女性がいるため、私は想いを告げることを諦めた。
ヨルカやラティファがカインのことをどう思ってるかは分からないが、幾度となく裸を見られても激怒しないので嫌ってはいないだろう。
「来世があるなら来世はカインのような人と恋をして結婚したいなぁ」
そんなことを呟きながら最後の技を発動する。
「天翔一閃!」
そして黒い塊を一刀両断した。