ラジハルとの決闘 2
「立てよ、ラジハル。俺とクレアが味わった苦しみを味わわせてやるから」
俺は吹き飛んだラジハルに向けて言う。
「クソがっ!」
壁まで吹き飛んだラジハルが起き上がり、装備していた剣を握る。
武器の使用に制限はないというルールなので、どの武器を使ってもルール違反にならない。
「ザコのくせに調子に乗んじゃねぇ!」
俺にパンチを止められ、吹き飛ばされたことなど忘れたかのように、剣を構えてフェイントもなしに真っ正面から突っ込んでくる。
「おらっ!」
ラジハルは横一閃に剣を振るが、俺はしゃがんで回避し、再び無防備な腹へグーパンチを喰らわせる。
「がはっ!」
そして“ドゴっ!”という音とともにラジハルが壁まで吹き飛ぶ。
その様子を見て、今までシーンっとなっていた観客が騒ぎ出す。
「おい、ラジハル!なに遊んでんだよ!はやくぶっ飛ばせよ!」
「スライムしか倒せないゴミに華を持たせる必要ねぇぞ!」
「アイツがフルボッコにされるところを楽しみにしてんだ!はやくフルボッコにしろよ!」
そんな声が聞こえてくるが俺の攻撃が効いたのか、起き上がる気配はない。
「はやく起きろよラジハル。これくらいで気絶するほど弱くないだろ?」
全力で力をセーブして殴ったため、数カ所ほど骨折してるだろうがラジハルが気絶したとは思えない。
そのため数秒ほど動かずに待っているとラジハルが剣を杖のように使いながら起き上がる。
「なんだよ。もうおしまいか?」
「っ!死ねぇっ!」
俺の安い挑発に綺麗に引っかかったラジハルが、またしてもフェイントなどせずに突っ込んでくる。
2発のグーパンチが効いたようで、最初と比べると格段にスピードは落ちているが。
(ラジハルも外野もバカだなよな。オーガを倒せるほどの実力のあるラジハルを俺は吹き飛ばしたんだぞ?俺のステータスが上昇したって考えつかないのか?)
半ば呆れつつラジハルの攻撃を躱し、ガラ空きの腹に再びグーパンチを見舞う。
「かはっ!」
そして、またしても壁まで吹き飛ばされる。
「そろそろ俺の番でいいよな?」
壁にぶち当たり起き上がれないラジハルへ、今度は俺が攻撃を仕掛ける。
12,000越えの俊敏ステータスをフルに使い、ラジハルが転がってる位置に一瞬で移動した俺は、ラジハルに馬乗りする。
もちろん、両手は動かせない体勢で。
「くっ!退け!」
仰向けの状態でジタバタと暴れるが、全ステータス12,000越えの俺に敵うはずないため、全く動けない。
「お前は俺の大事な妹に苦しい想いをさせたんだ。その苦しみを味わうまで気絶なんかさせねぇぞ」
俺はゆっくりと握った拳を振り上げる。
「ひいっ!」
そして気絶しない程度の力で顔面を一発殴る。
“ドカっ!”という良い音とともに、ラジハルの口から血が出る。
そして再度、拳を振り上げる。
「ま、まて!俺の負けだ!もう2度とお前から魔石を奪ったりしねぇ!」
ようやく俺との実力差が理解できたのか、さっきまでの威勢が消え、白旗を上げだす。
しかし、俺とクレアの苦しみはこんなもので収まらないので、俺は振り上げた拳を解除しない。
「何を言ってるんだ?勝敗が決するのは、どちらかが気絶するまでだ。まだ誰も気絶してないから勝負は終わってないぞ」
俺は再び拳を振り下ろし、ラジハルの顔面に一発見舞う。
今の衝撃でラジハルの口から歯が数本飛び出す。
「クレアは1人寂しく学校生活を送ってたんだ。それがどれほど辛いことかは俺には理解できない。だが、きっとクレアは泣きたいほど辛かったはずだ。その苦しみ、身をもって味わえ」
「や、やめ――!」
「そこまでだ!」
俺がラジハルの顔面に拳を叩きつけようとした瞬間、支部長の声が聞こえたため、寸前のところで止める。
「なんですか?まだ誰も気絶してないので、決着はついてないですよ?」
「いいや、決着はついた。ラジハルの勝ちという形でな」
「はぁ!?」
俺は支部長の言葉に耳を疑う。
「俺はルール違反なんかしてねぇ!なんで俺の負けなんだ!」
俺は敬語を使うのがバカバカしくなり、問い詰めるように言う。
「いいや、ラジハルの勝ちだ。審判は私なのだから、私に従ってもらう」
「っ!」
(くそっ!最初にルール説明を行ったからルールを破らない限り支部長が決闘に介入することはないと思ってた!やはり、審判を支部長にさせるんじゃなかった!)
そのことを俺は後悔する。
「よって、勝者はラジハルとなる。はやくラジハルから退け」
(こんな判定、従うわけにはいかねぇ!)
そう思い、俺はラジハルの馬乗りを解除して支部長に詰め寄る。
そして、握り拳を作って殴りかかろうとすると…
「まさか私に危害を加えようとしてるのか?そんなことをしたら冒険者資格を剥奪して、2度と冒険者として働けなくするぞ」
「っ!」
その言葉で俺の拳が止まってしまう。
冒険者資格を剥奪された者は2度と冒険者として働けない規則となっている。
「冒険者資格を剥奪されたくないだろ?大人しく拳を引っ込めて妹をラジハルに渡せ」
止まったままの拳を見て俺が殴らないと思ったのか、堂々と支部長が言う。
(冒険者資格を剥奪されて収入源が無くなるのは困るが……それ以上にクレアを取られる方が困る!)
冒険者資格が剥奪されても俺のステータスなら力仕事でも問題なく働けるだろう。
魔王討伐のために強くなるという目標は難航してしまうが、クレアがラジハルの手に渡るのだけは阻止しなければならない。
(俺の取る行動はクレアを支部長とラジハルの手から守ること!たとえ冒険者資格が剥奪されようが絶対守ってみせる!)
そう決めた俺は拳を振り上げながら支部長に一歩近づく。
「お、おい!これ以上近づいたら冒険者資格を剥奪するぞ!」
「それくらい構わない。いつでも剥奪していいぞ」
そう言って死なない程度で1発殴る。
「グハッ!」
顔面にクリーンヒットした支部長はラジハル同様、壁まで吹き飛ぶ。
今の1発で気絶してしまったようで、支部長は立ち上がらない。
「これで冒険者資格剥奪か。クレアに全力で謝らないとな」
そう呟いた俺に「そうはならないから安心してくれ」と言う女性の声が聞こえてきた。
「!?」
俺はその声に聞き覚えがあった。
それは俺が【@&¥#%】という役立たずなスキルを手にした時に俺を励まし、俺に冒険者への道を勧めてくれた女性の声だ。
そう思いすぐに声のした方を向く。
そこには俺の想像通り、6年前、俺のことを励ましてくれた女性がいた。