待っていて
僕が目を覚まして三ヶ月ほどがたった。クロのありがたい誘いを受け、僕はクロと共に生活している。
ここでの生活は平和そのもので、僕はクロの家の手伝いをしながら過ごしている。クロの家やその周りがあまりに汚かったので、僕から家の手伝いを提案したのだ。
「なあアンリ!まだ探検行かないのか!」
コンパスも、声は大きいものの、ここでの生活に満足しているようだ。
「あと少しで掃除終わるから、ちょっと待っててね」
ここでの生活の合間、僕はコンパスと何度も探検をした。骸骨が持っていた日誌の行方を探すためだ。僕がこの星に来た頃にはもう無くなっていた。あの青白い光に包まれた頃、確かに手に持っていたのだ。もしかしたら僕と一緒に転送されたのかもしれない、と考えた故の探検である。
探検の中で僕らは様々なことに気づいた。
まず、ここは僕が住んでいた星とは全く違う星だということ。そして、僕らとクロ以外に住民、動物がいないこと。また、この星の空はただの青い空ではなく、宇宙が見える空だということ。
僕もコンパスも宇宙を見たことがなかったので、最初は二人とも大層驚いた。来たばかりの頃は宇宙についてクロによく質問攻めをしたものだった。
「ここに来てもう大分時間がたったな」
そう、もう何ヶ月もこの星にいるのだ。でも、いくら探しても日記の痕跡を見つけることはできなかった。
ーーー
最初は慣れなかったここでの生活にも、何ヶ月も経つと自然と適応できてくる。
そして、最近になってクロが頻繁に自分の部屋に閉じこもるようになった。
決して中は覗かないように、と言われている。
体調が悪いのかと何度尋ねてもはぐらかされてしまう。僕は居候の身のため、強く問いただすこともできず有耶無耶になったまま時間は過ぎていった。
クロが部屋に閉じこもるようになってから、部屋から何度も唸り声に近い声が聞こえてくることがあった。そして、その声が聞こえた日は決まってクロの腕には包帯が巻いてある。
さすがに僕も傷ができているとなると心配が大きくなってしまう。
「なぁ、クロ。君が部屋に閉じこもるようになってから何ヶ月もたった。そろそろ何をやっているのか教えてくれないかい?日に日に君の元気がなくなっている気がするんだ」
クロははにかんだ笑顔を僕に向けた。
「時が来たら、君にもわかるよ」
彼の曖昧な言葉を聞いた時、僕の腹の底に重い気持ちが不意に大きくなった。
「いっつもそうだ!何度聞いてもはぐらかすばかりで...! 僕がどれほど心配してるのか...」
僕が声を荒げても、クロは優しい笑顔を僕に向けたまま真っ直ぐ僕を見つめてくる。
「ねえアンリ君、何も心配することはない。時が来たらちゃんと説明する。だから待っててくれないか」
ここまで冷静に言われると、僕も声を張り上げたことが恥ずかしくなってくる。
「っ...ごめん」
羞恥心と申し訳なさ、そしてやりきれない気持ちが胸を渦巻く。僕はクロを置いて自分の部屋に駆け戻ってしまった。
翌日、目が覚めて頭もすっきりした頃、クロに声を張り上げたことを謝ろうと決心した。
だが、クロはもう部屋に閉じこもっていつものように作業を始めてしまっていた。
「クロ...」
部屋に閉じこもるようになってから、クロが何かに追われるように焦っているように感じる。
今日は特にそんな雰囲気が部屋から滲み出していた。
こうなってしまったらクロに話すこともできないので、部屋から出てくるまで掃除をすることにした。
掃除をして、クロのくれた本を読んでいるとすでにあたりは暗くなっていた。
「まだ出てこないな...」
扉に耳を当て聞き耳を立ててもなんの音も聞こえない。最悪の事態が頭に浮かんでしまう。ここまで音がしないのは異常だ、と心の中で言い訳を作りドアノブに手をかける。
クロの部屋の中はまるで宇宙の中のようで、息を呑むほど美しかった。天井はどこまでも広がり、あたりには美しい星が散りばめられている。まるで宇宙の真ん中にいるようだ。少し歩くと、僕の目の前に小さな机と椅子がぽつりと現れ、そこにクロが突っ伏していた。
急いで駆け寄りクロの息を確認すると、一定の速度で吸って吐いていた。寝ているようだ。
「よかったぁ...」
無意識に強張っていた顔がほぐれるのを感じた。無事を確認したついでに、部屋を少し見て回ることにした。ずっと気になっていたんだ。少しだけなら、クロも眠っているし気がつかないだろう。
部屋を歩いていると、一際目をひく星が僕の目の前に現れた。酷く小さいが、とても色鮮やかで美しい。緑、青、赤、様々な色が折り混じり一つの星を形成している。
思わず手を差しのべてしまう。
いつの間にか真後ろにいたクロが、僕の手を慌てて止めた。クロは僕の手を強く握ったまま何も言わず扉の外に向かった。
「ク、クロ、痛いよ」
クロはハッとした顔で手を離した。無意識だったのだろう。酷く驚いた顔をしていた。
「ぁっ、ごめん!」
しばらく僕たちの間に沈黙が流れる。
「ねえ、アンリ君、僕がやっていたことについて説明するよ。」
一週間ぶりでございます。優しい目で見てやってください。