陽葵、とろみを飲む!
陽葵の天然な感想にツッコミを入れてくれつつ、ちゃんと説明をする中崎。そして、お手本として、お砂糖とクリーミングパウダー入りのお手製コーヒーに二回ほどとろみ粉を掬って徐々に入れながら素早くかき混ぜていく。するとすぐにコーヒーにとろみが付いてきて、スプーンで掬うと少し盛り上がる程度の硬さを得た。
「おぉ……これが魔法の粉の力……」
「とろみ粉ね。さ、立花さんも作ってみて」
「はい!」
陽葵も見よう見まねで、とろみ粉をスプーン小盛一杯掬い、遊沢が作ってくれたコーヒーに一気に入れようとした。
「混ぜながらの方がいいよ。立花さん」
「あ、はい! そうだ、入れながら混ぜてましたね……!」
「あら、遊沢くん、ちゃんとアドバイスできるじゃない。先輩としての自覚でてきた?」
「いや、自分と同じ轍を踏む必要は無いかなと」
「そうね! あなた初めての時めちゃくちゃとろみ偏ってたから!」
陽葵は突然の遊沢の助言に驚いたが、お陰で偏りなくちょうどいいとろみ付きなコーヒーを完成させたのであった。
そして、黙々と近くの入居者様にお菓子を配ったり、飲み終わったコップを回収していたかと思っていたが、自分の様子を気にかけていてくれた遊沢の視野の広さに、尊敬の念を抱いた。陽葵は自分自身、ひとつの事に集中すると周りが見えなくなることが多いと母からも言われている為、見習いたい!と、さらにやる気に溢れた。お手本の人は相変わらず覇気はないが。
「さて、できたわね! では介助が必要な方に食事介助していただきますが! その前に立花さん!」
「な、何でしょう」
「そのとろみ、飲んでみます?」
「いいんですか……?」
「あら乗り気ね。冗談で言った訳では無いけど驚いたわ」
「では……いただきます……」
「……」
「……」
「……」
とろみ付きコーヒーを口に入れ飲み込む陽葵。その後の反応が気になる中崎と遊沢。謎の沈黙が束の間漂った。
「どう……?」
「……あ」
「あ?」
「味と喉越しの新境地やー!」
「この子……ビッグになるわよ……」
(喉越しが気に入ったのか……)