白い魔法の粉!
入居者様全員との、なんとか自己紹介とお名前聞きを終え、ふぅ、と一息つく陽葵。メモ帳のページ事に簡単な似顔絵とお名前と、自分が感じたその人の個性を記していた。コブシの効いた歌が大好きなおばあさん!や、サトルという親族がいらっしゃる?低音ボイスおじいさん!などなど。
「みなさんにとりあえず挨拶は出来たわね! まぁ、名前と顔を一致させていくのは関わってなんぼだからね!」
「はい! しっかりお話も聴けたらなと!」
中崎はその陽葵の心がけに頷きながらも、どこか心配そうに見つめる。
「その心がけはグッド! ただ認知症の方に対しては、向き合いすぎて、が本来理想なんだけど、私達は全体を気にして動かないといけない事が多いの。そこもおいおい経験ね」
「はい!」
「よろしい! 元気な返事! さて、だいぶ喫茶の準備は遊沢くんが進めてくれたみたいだけど……遊沢くーん! とろみありで介助の方の残ってる?」
「とろみ?」
「たぶん指導込みで経験すると思ってまだ提供待たせてもらってますよ」
「さっすが気配り上手ね。覇気は無いけど!」
「お褒めに預かり光栄でーす」
「あの、とろみ? って?」
自分の認識が追いつかないワードに関して、中崎はちょっと楽しげに喫茶のセットの中から白い粉が詰め込んであるケースを持ち出した。
「これは嚥下が悪い方が飲み物を飲む時むせ込みにくいようにする魔法の粉よ!」
「魔法の粉……それを聞くとたべたら幸せが帰ってきそうなあの美味しい……」
「とは違うわよ! あ、でも今日のお菓子にあるわね。じゃなくてこれはでんぷんタイプの飲み物に溶かして混ぜるとろみ粉よ」